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沈黙のストライカー  作者: ムーミンの丸焼き
アストン・ヴィラ2年目

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75/109

次の場所


---


七月の初旬、ニコラスはチェスターフィールドへ帰った。


去年はアリスターと一緒に帰った。今年は一人だった。


バーミンガムから一時間半。高速を降りると、見慣れた景色になった。看板が変わっていなかった。道が変わっていなかった。


---


グレースのアパートに寄った。


グレースは在宅だった。玄関を開けて、ニコラスの顔を見た。


「日本以来ね」


「そうだ」


「元気そう」


「母さんも」


グレースは体調が安定していた。投薬を続けながら、定期検診を受けていた。仕事を少し減らしていた。ニコラスが送ったお金を、まだ返していなかった。


「返す気はないのか」とニコラスは言った。


「ないわよ」グレースはあっさり言った。「日本旅行のお礼」


「旅行は別だ」


「一緒にする」グレースは笑った。「ありがとう、ということよ」


ニコラスは少し間を置いた。


「また行くか。来季タイトルを取ったら」


「どこへ」


「どこでもいい。お前が決めろ」


グレースは少し考えた。「ヨーロッパはどうかしら。あなたが活躍してる街を見てみたい」


「バーミンガムは見ただろう」


「もっと遠いところ。イタリアとか、スペインとか」


ニコラスはその言葉を少し聞いた。


イタリア。スペイン。


「考えておく」と言った。


---


テリーの店に行った。


昼過ぎだった。テリーはカウンターにいた。ニコラスを見て顔をほころばせた。


「ニック!プレミア優勝おめでとう!毎日お客さんに話してたぞ!」


「知ってる」


「知ってたか」テリーは笑った。「グレースから聞いたか」


「そうだ」


「座れ座れ。いつものか」


いつものお茶が来た。テリーがカウンター越しに腕を組んだ。


「来季はどうするんだ」


ニコラスは少し考えた。


「残る。ヴィラにいる」


「そうか」テリーは頷いた。「アリスターはどうだ。最近連絡あるか」


「ユナイテッドで今季九本取った」


「十本!」テリーは目を丸くした。「あの子も変わったな。去年まではそんな数字じゃなかっただろう」


「ロングシュートを武器にした」


「そうか」テリーはしばらく考えた。「チェスターフィールドから二人出て、二人ともプレミアで活躍してる。俺は鼻が高いよ」


ニコラスは少し笑った。


「お前は何もしていない」


「そんなことはない」テリーは胸を張った。「あの子が最初にボールを蹴ったのは俺の前だぞ」


---


FCKのグラウンドへ行った。


誰もいなかった。


芝は少し伸びていた。ゴールが二つあった。ネットが少しほつれていた。


ニコラスはそこに立った。


十六歳のとき、初めてここに来た。サッカーを知らなかった。ボールの蹴り方も知らなかった。


今、プレミアリーグのチャンピオンだった。


どこかで何かが積み上がって、ここまで来た。


ニコラスはゴールを見た。


十六歳のとき見たゴールと、同じゴールだった。でも自分が変わった。


---


その夜、ゾーイから電話が来た。


「チェスターフィールドにいますか」


「そうだ」


「毎年この時期に帰りますね」


「そうだな」


ゾーイは少し間を置いた。


「そろそろ話しましょうか。移籍についてです」


ニコラスは窓の外を見た。チェスターフィールドの夜だった。静かだった。


「話せ」


「五クラブ全てから、改めて打診が来ています」ゾーイは言った。「どう考えていますか」


ニコラスは窓の外を見た。チェスターフィールドの夜だった。静かだった。


「来季もヴィラにいたい」


「理由を聞かせてください」


「まだ取れていないものがある。プレミア連覇。CLの決勝。それがヴィラで取れると思っている」


「ワールドカップもあります」


「そうだ。初めてだ。ヴィラのチームメイトと戦い続けながら、代表でも戦う。その状態が今は一番いいと思う」


ゾーイは少し間を置いた。


「わかりました。では来季もヴィラで交渉を進めます。ただ各クラブへの返答はワールドカップ後にしましょう。状況が変わる可能性があります」


「頼む」


---


電話を切った後、ニコラスはしばらくそのままでいた。


次の場所へ行く。


チェスターフィールドから始まった。コンヤへ行った。ルガーノへ行った。バーミンガムへ来た。次はまだわからない。


でもどこへ行っても、ここから始まったことは変わらない。テリーが言った通りだった。


スマートフォンを取り出した。


ゾーイにメッセージを送った。


「残る。来季もヴィラで戦う」


しばらくして返信が来た。


「わかりました。各クラブへお断りします。ただ、ワールドカップ後に改めて話しましょう」


「頼む」と返した。


---


AKIにもメッセージを送った。


```

@nicholas.romero9:

来季もプレミアにいる。

また当たろう。

```


```

@aki_kojima21:

残るんだ!

じゃあまたやろう

CLも、リーグも

```


```

@nicholas.romero9:

来季はCLで決勝まで行く。

リーグも連覇する。

```


```

@aki_kojima21:

言うね笑

でも信じるよ

あと、ワールドカップも出るんでしょ?

```


```

@nicholas.romero9:

初めてだ。

```


```

@aki_kojima21:

楽しみにしてる

日本も出るから

```


ニコラスはスマートフォンを置いた。


来季、やることが三つあった。


プレミア連覇。CLで決勝まで。そして初めてのワールドカップ。


チェスターフィールドの夜は静かだった。


次の場所はここではなかった。でも次の準備は、今日から始まっていた。


---

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