トロフィー
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表彰式が終わっても、選手たちはピッチに残っていた。
スタッフが紫のTシャツと帽子を配った。「CHAMPIONS」と書いてあった。ニコラスはそれを受け取って、着た。
七万人がまだいた。帰らなかった。スタンドが紫に揺れていた。
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マルティネスが全員を集めた。
円になった。
「このチームで優勝できた」とマルティネスは言った。スペイン語訛りの英語だった。「全員のおかげだ。全員に感謝している」
チームメイトが頷いた。何人かが声を上げた。
ニコラスは円の中に立っていた。
去年も同じ場所に立っていた。でも去年は少し外側にいた。円の中にいながら、少し外から見ていた。
今日は違った。自分がその円の一部だと感じた。
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解散して、それぞれが動き始めた。
家族が入ってきた。子供を連れてきた選手がいた。奥さんと抱き合っている選手がいた。
ニコラスは少し離れたところに立っていた。
グレースはいなかった。今日は来られないと言っていた。体調が完全に戻りきっていなかった。
スマートフォンを取り出した。
グレースから着信が三件来ていた。
折り返した。
「見てた」とグレースはすぐに出た。「全部見てた」
「そうか」
「あのPK、心臓止まるかと思った」
「止まらなくて良かった」
グレースは笑った。「本当に。ニコラス」
「何だ」
「おめでとう」
ニコラスは少し間を置いた。
「ありがとう」
電話を切った。
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ワトキンスが来た。
「母親か」
「そうだ」
「来られなかったのか」
「体調がまだ完全じゃない」
ワトキンスは少し頷いた。「来季は連れてこい」
「そうする」
二人でピッチに立った。七万人がまだいた。スタンドのどこかで「ヴィラ」というコールが始まった。広がっていった。
しばらくして、ワトキンスの後ろから小さな声がした。
「パパ」
ワトキンスが振り返った。妻が二人の子供を連れて歩いてきた。上の子が走ってきてワトキンスの足にしがみついた。ワトキンスが抱き上げた。
「ニコラス」とワトキンスが言った。「うちの家族だ」
妻が「おめでとうございます」と言った。
上の子がニコラスをじっと見ていた。それからワトキンスの耳に口を近づけて、小声で何かを言った。
ワトキンスが笑った。「ロメロ選手だって言ってる。テレビで見てるから知ってるんだ」
ニコラスは少し屈んで子供と目線を合わせた。
「よろしく」と言った。
子供は照れて、ワトキンスの肩に顔を埋めた。
ワトキンスが笑った。「こいつ、お前の真似してシュート練習してるぞ」
「本当か」
「本当だ」
ニコラスはその小さな顔を少し見た。二年前に動画の中で走り回っていた子供が、今日ここにいた。ワトキンスがこの子たちのために戦っている、ということを、今日初めて体で感じた気がした。
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インタビュアーが来た。
試合後のピッチサイドインタビューだった。カメラが向いた。
「ロメロ選手、プレミアリーグ優勝おめでとうございます。今日のPK、あの場面で何を考えていましたか」
ニコラスはカメラを見た。
「右に蹴ると決めていた。それだけです」
「GKが揺さぶってきていましたが」
「見えていました。でも変えませんでした。変えると体がぶれる」
「今季、リーグ優勝、カラバオ制覇、そして得点ランキング2位。この2年間を振り返って、一番大きかったことは何ですか」
ニコラスは少し考えた。
「言葉を覚えたことです」
インタビュアーが少し間を置いた。「言葉、ですか」
「ピッチで起きていることを、言葉にすることを覚えた。それが今季の自分を変えた一番大きなことだと思います」
「最後に、ファンへひと言」
ニコラスはスタンドを見た。紫がまだ揺れていた。
「ありがとう」と言った。スペイン語ではなく、英語だった。「来季も、ここで戦います」
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「どんな気分だ」とワトキンスが言った。
ニコラスは少し考えた。
「重い」
「カラバオより重いか」
「比べ物にならない」
ワトキンスは笑った。「そうだろうな」
「お前は」
「俺も重い」ワトキンスは言った。「でも今日は違う重さだ。カラバオのときは『やっと取れた』だった。今日は、ここから先がある、という重さだ」
ニコラスはその言葉を聞いた。
「ここから先」
「CLで負けた。得点王も取れなかった。でも今日、リーグを取った。それがある。その上で、まだあるということだ」
「そうだな」とニコラスは言った。
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パウ・トーレスが来た。
「ニコラス」とパウ・トーレスはスペイン語で言った。「お前が今日取ったPK、ずっと覚えていると思う」
「なぜ」
「あれだけ静かに立てる選手を、俺は見たことがない」パウ・トーレスは言った。「七万人いて、シティの選手が詰め寄って、ゴールがかかっていて。それでもお前は止まっていた」
ニコラスは少し考えた。
「止まっていたのではない。右に蹴ると決めていた。それだけだった」
「それだけ、か」パウ・トーレスは笑った。「二年間、お前と同じチームでいられて良かった」
ニコラスはパウ・トーレスを見た。
「俺もだ」
スペイン語だった。
パウ・トーレスは少し目を細めた。それから頷いた。
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マルティネスがトロフィーを持ってきた。
「もう一度持て」とマルティネスは言った。
ニコラスはトロフィーを受け取った。
重かった。さっきと同じ重さだった。
マルティネスがそばに立った。
「写真を撮る」とマルティネスは言った。「嫌か」
ニコラスは少し考えた。
「撮れ」
カメラマンが来た。
マルティネスがニコラスの肩に手を置いた。ワトキンスが反対側に来た。ロジャースが後ろから頭を出した。ベイリーが割り込んできた。パウ・トーレスが来た。オナナが来た。
気づいたら全員が集まっていた。
シャッターが鳴った。
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ロッカールームに戻った。
エメリーが立っていた。
全員が揃うのを待った。
「お前たちはやった」とエメリーは言った。「プレミアリーグのチャンピオンだ。それはこれから先、ずっと変わらない」
静かだった。
「来季また始まる。今日だけ喜べ」
それだけだった。
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シャワーを浴びて、着替えた。
ニコラスはロッカーの前に座った。
今季を頭の中で追った。
二トップが始まった。言葉が足りなかった。エゴを自覚した。反転シュートを身につけた。カラバオを取った。スランプがあった。アリスターと引き分けた。CLで敗れた。グレースの体調が崩れた。オファーが来た。そして今日、リーグを取った。
全部繋がっていた。
どれか一つが欠けていたら、今日ここにいなかったかもしれない。
ワトキンスが通りかかった。
「今日のこと、言語化できそうか」とワトキンスは言った。
ニコラスは少し考えた。
「まだできない」
「そうか」ワトキンスは言った。「できるようになったら聞かせてくれ」
「お前にだけ言う」
ワトキンスは少し笑った。「光栄だな」
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