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沈黙のストライカー  作者: ムーミンの丸焼き
アストン・ヴィラ2年目

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66/112

AKI――準決勝前夜


---


四月の終わり、CL準決勝の前夜だった。


第一戦はアンフィールドで行われる。明日だった。


ホテルの部屋でニコラスはスマートフォンを見ていた。バイエルンの試合の映像を少し見て、閉じた。集中できなかった。


Instagramを開くと、AKIからメッセージが来ていた。


---


```

@aki_kojima21:

明日、アンフィールドで。

去年の続きだね

```


ニコラスはそれを見てしばらく考えた。去年の十一月、CLのグループステージで対戦した。あのときリバプールが勝った。通路でAKIと話した。「来年はもっとやる」と言った。AKIは「俺も」と笑った。


その「来年」が今日の前夜だった。


```

@nicholas.romero9:

そうだな。

明日、ピッチで。

```


しばらくして返信が来た。


```

@aki_kojima21:

去年より強くなってる?

```


ニコラスは少し考えた。


```

@nicholas.romero9:

なっている。

お前は。

```


```

@aki_kojima21:

俺も笑

ちゃんと確かめよう

明日

```


それだけだった。ニコラスはスマートフォンを置いた。


---


AKIとは不思議な関係だった。


ライバルでも友人でもなかった。でも他の選手とも違った。試合の前日に連絡を取る選手は、他にいなかった。


去年のグループステージの後、AKIから何度かDMが来た。試合についてではなく、感覚についての話だった。「あのシュートのとき、体はどっちに向いてた」「俺、昨日の試合でイメージと体がずれた場面があった」そういう内容だった。


ニコラスは毎回少し考えてから返した。すぐに返せないことも多かった。でも返した。


言語化の練習になっていた、と今なら思う。


---


## AKI視点


同じ夜、アンフィールドから十分ほどのホテルで、AKIはベッドに寝転がっていた。


スマートフォンを持ったまま、ニコラスからの返信を読んだ。


「なっている。」


句点まで打つのがロメロらしかった。他の選手なら絵文字を一個つけるか、「もちろん」と返すところだ。でもロメロは「なっている。」だった。嘘をつかない答え方だった。


AKIはそれが好きだった。


---


AKIがロメロを最初に意識したのは、一年前のプレミアでの対戦だった。


チェスターフィールド出身の十九歳という話は聞いていた。でも数字が異常だった。四部リーグで五十ゴール近い。コンヤ、ルガーノと経由してプレミアに来た経歴も変わっていた。実際に対戦して、驚いた。


技術の話ではなかった。この選手はピッチで、何かが違う方向を向いていた。チームメイトとも、相手とも、ボールとも違う方向を見ていた。でもそれがゴールに繋がっていた。


AKI自身も、同じようなことを言われてきた。「どこを見ているかわからない」「突然違う動きをする」。日本ではそれが欠点として指摘された。プレミアで戦い続けて、それが武器になった。


ロメロの中にも同じものがある、と試合中に感じた。だからDMをした。


---


でも今季のロメロは去年と違う、とAKIは思っていた。


リーグの試合を映像で見ていた。ワトキンスとの2トップが機能し始めてから、ロメロの動きが変わった。去年は一人で完結していた。今年は二人で作っている場面がある。でもゴールへの直線的な意志は消えていない。


厄介になった、とAKIは思った。去年より止めにくい。


去年のグループステージ、ロメロはハットトリックを決めた。それでもリバプールが勝った。チームの力の差だった。


今年は違うかもしれない、とAKIは思った。ヴィラは去年より整っている。ロメロ一人ではなく、チームとして戦えるようになっている。


だからこそ、明日が楽しみだった。


AKIはスマートフォンを置いた。


---


## ニコラス視点


翌朝、バスでアンフィールドへ向かった。


窓の外にスタジアムが見えた瞬間、去年と同じ感覚があった。でも去年とは少し違った。


去年は初めてだった。あの空気の中で、何が起きるかを知らなかった。今日は知っている。アンフィールドがどういう場所かを、体が知っている。


それが何かを変える、とニコラスは思った。


ウォームアップ中、AKIを探した。


向こうも同じタイミングで目が合った。


AKIは軽く手を上げた。笑っていた。でも去年より目が違った。


ニコラスは頷いた。


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