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沈黙のストライカー  作者: ムーミンの丸焼き
アストン・ヴィラ2年目

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65/110

オファー


---


四月の第一週、ゾーイから電話が来た。


「時間をもらえますか」とゾーイは言った。「少し長くなります」


「今でいい」


「まず整理させてください」ゾーイは言った。「今季、複数のクラブからコンタクトが来ています。正式オファーが二件、意向確認が三件です」


「全部話せ」


「レアル・マドリード。正式オファーです。現在の年俸の三倍以上、複数年契約、移籍金はヴィラ側に提示済みです」


ニコラスは黙って聞いた。


「バイエルン・ミュンヘン。こちらも正式オファーです。条件はレアルに近い水準です」


「意向確認は」


「バルセロナ、インテル・ミラノ、パリ・サンジェルマンです。三クラブとも、移籍の意向があるかどうかを確認してきています」


しばらく沈黙があった。


「五クラブか」とニコラスは言った。


「そうです」ゾーイは言った。「プレミア1年目の終わりに問い合わせが来ていましたが、あのときとは規模が違います。あのときは様子見でした。今回は本気です」


---


「断る」


「全部ですか」


「全部だ」


「理由を聞かせてもらえますか」ゾーイは言った。「私への報告として、ではなく、あなた自身の整理として」


ニコラスは少し考えた。エメリーに言語化を求められるのと同じ感覚だった。


「今季、取れていないものがある」


「リーグとCLですね」


「そうだ。残り七試合でシティとの差は二だ。CLは準決勝がある。どちらもまだ取れていない」


「それは今断る理由です」とゾーイは言った。「来季以降も断る理由ですか」


ニコラスはそこで少し止まった。


「来季は別だ」


「つまり今季終わったら、可能性はあるということですか」


「ある」


「正直に言ってくれてありがとうございます」ゾーイは言った。「では今断る理由をもう少し言語化してもらえますか。私が各クラブへ返答するときの参考にします」


ニコラスは少し間を置いた。


「ここで取るものが残っている、というのが第一だ。もう一つある」


「何ですか」


「今のヴィラは俺がいるべき場所だとわかっている。エメリーがいる。ワトキンスがいる。チームとして今が一番機能している時期だ。それを途中で終わらせたくない」


ゾーイはしばらく黙っていた。


「去年と変わりましたね」とゾーイは言った。


「何が」


「去年は『まだ取れていないものがある』だけでした。今年はチームについても話せるようになった」


ニコラスはその言葉を聞いた。


「チームの勝利を大事にするのは、プロになったころからそうだった。でも今は言葉にできる。なぜ大事かが、自分の中で整理されてきた」


「どう整理されているのですか」


「ゴールを決めたいというエゴは今もある。でもチームが機能していなければゴールを決める場面も来ない。ヴィラに来てから、その二つが別のものじゃないとわかってきた」


ゾーイは少し間を置いた。


「言語化しようとした結果ですか」


「エメリーに言われ続けた結果だ」


「エメリーの影響ですか」


「そうだ」


---


「一つ確認させてください」とゾーイは言った。「五クラブすべて、同じ返答でよいですか。今季は断る、シーズン終了後に改めてお答えする、という形で」


「そうしてくれ」


「わかりました」ゾーイは言った。「全クラブへ今週中に同じ内容で返答します」


---


電話を切った後、ニコラスはしばらく窓の外を見た。


五クラブ。レアル・マドリード、バイエルン・ミュンヘン、バルセロナ、インテル・ミラノ、パリ・サンジェルマン。


名前を頭の中で並べた。どれも知っているクラブだった。でも戦ったことがあるのはレアルだけだった。他のクラブのことを、自分はどれだけ知っているのか。


スマートフォンを取り出した。バイエルンの直近の試合を検索した。しばらく眺めた。それからインテルの試合を検索した。


今季やることが終わっていない。でも見ておくことはできる。


---


翌日の練習後、エメリーに呼ばれた。


「フロントから連絡があった」とエメリーは言った。「オファーの件だ」


「知っています」


「お前の意向は」


「今季はヴィラにいます。やることが終わっていない」


エメリーはニコラスを少し見た。


「終わったら」


ニコラスは少し間を置いた。


「それはそのときに考えます」


「正直だな」エメリーは言った。


「言語化しようとした結果です」


エメリーは短く笑った。ニコラスがエメリーに笑わせたのは、初めてだった。


「残り七試合だ」とエメリーは言った。「やることをやれ」


「はい」


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その夜、ゾーイからメッセージが来た。


「レアル・マドリード、バイエルン・ミュンヘン、インテル・ミラノ、パリ・サンジェルマン、バルセロナ、全クラブへ今週中に同じ内容で返答します。シーズン終了後に改めてお答えする、という形で。よろしいですか」


「頼む」と返した。


しばらくして、もう一つメッセージが来た。


「一つだけ。今回保留にしたクラブから、シーズン終了後に改めて打診が来ます。準備しておきます」


ニコラスは少し考えてから「わかった」と返した。


ゾーイは常に一手先を考えていた。ニコラスが今保留にしても、ゾーイは次のための準備をしていた。チェスターフィールドのころからそうだった。


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