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沈黙のストライカー  作者: ムーミンの丸焼き
アストン・ヴィラ2年目

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64/110

二人


---


四月の最初の試合、ヴィラはホームでニューカッスルと対戦した。


リーグは残り七試合だった。シティとの勝ち点差は二だった。


---


前半は拮抗していた。


ニコラスとワトキンスの二トップは、前の試合より動きが整っていた。重なることが減った。でもスペースを作っても、そこへボールが来るタイミングが合わなかった。チームとして噛み合う回数がまだ足りなかった。


三十九分、ボールがバックラインへ戻された。パウ・トーレスが持った。前を向いた。


ニコラスは中央に立っていた。


ワトキンスが右へ動いた。


ニコラスはそれを見ていなかった。


でもわかった。


左へ動いた。


瞬間、ニコラスとワトキンスの間に大きなスペースが生まれた。パウ・トーレスがそのスペースへパスを通した。中盤の選手が受けた。シュートは枠を外れた。


でもその一瞬があった。


---


ハーフタイム、エメリーが映像を止めた。


三十九分の場面だった。


「この瞬間だ」とエメリーは言った。「二人が逆に動いた。スペースが生まれた。これを意図してできるか」


ニコラスとワトキンスは顔を見合わせた。


「意図したか」とエメリーがニコラスに聞いた。


「わからない」


「ワトキンス」


「俺も確認していなかった」とワトキンスは言った。「ただ右へ動こうと思った」


「二人とも確認していないのに逆に動いた」エメリーは言った。「それが起きた。なぜかを考えろ。後半もやれ」


---


後半が始まった。


ニコラスはピッチに立ちながら、さっきの場面を頭の中で追った。何が起きたのか。ワトキンスが動くのを見ていなかった。でも動く前に、右へ行くとわかった気がした。


気がした、だけかもしれなかった。


五十七分、またその感覚が来た。


ニコラスはポストに入っていた。ワトキンスが動こうとしていた。


左だ、とニコラスは思った。


ワトキンスが左へ動いた。


ニコラスは右へ動いた。


スペースが生まれた。


キャッシュのクロスが入った。ニコラスが飛んだ。ヘディングで合わせた。


入った。


---


ゴールを決めた後、ニコラスはワトキンスを見た。


ワトキンスが近づいてきた。


「あれはどうやった」


「わからない」とニコラスは言った。


「お前が右に行くと思った。だから俺は左に行った」


「俺はお前が左に行くと思った。だから右に行った」


二人は少し黙った。


「どっちが先だ」とワトキンスが言った。


「わからない」


「同時だったのかもしれない」


ニコラスはその言葉を聞いた。示し合わせたわけじゃない。考えたわけでもなかった。でも逆に動いた。


「これが何なのか言語化できるか」とニコラスは言った。


「今はできない」ワトキンスは言った。「でもこれが何度も起きるようになれば、言葉になるかもしれない」


---


七十二分、もう一度あった。


今度はワトキンスが先にポストに入った。ニコラスがエリアの外から走り込んだ。


ワトキンスが反転した。スペースが——ニコラスが走っているスペースに——パスを出した。


ニコラスが受けた。DFが来る前に打った。


入った。


二点目だった。


---


試合は二対〇で終わった。


ロッカールームで、ベイリーが声を上げた。


「今日の二人、なんか違ったな」


マルティネスが「見えてた」と言った。「前半から変わってきてた。後半は完全に別物だった」


ロジャースが「俺、あの動きに合わせてパス変えたよ」と言った。「二人が逆に動くと思って出したら本当に逆に動いた」


ニコラスはその言葉を聞いた。


「お前が先に感じたのか」


「感じたというか、なんとなく」ロジャースは言った。「でもそのなんとなくが合ってた」


デュランが端のロッカーから口を挟んだ。ジョン・デュランは今季からヴィラに完全移籍したコロンビア人ストライカーだった。「ベンチからずっと見てた。二人が逆に動くたびに、相手のDFが完全に迷ってる。ああいう動きができるなら、俺が入る隙間はどこにあるんだって考えてた」


「見つかったか」とワトキンスが言った。


「まだだ」デュランは笑った。「でも必ず見つける」


---


シャワーを浴びて出てきたとき、ワトキンスが待っていた。


「一つ言っていいか」とワトキンスは言った。


「言え」


「お前はサッカーを十六歳から始めた」


ニコラスは少し止まった。


「そうだ」


「俺は六歳から始めた。二十年以上の差がある」ワトキンスは言った。「その年数で俺が積み上げてきた読みとか、体の使い方とか、そういうものがある。お前にはその積み上げがない」


「知ってる」


「でも今日、俺がお前の動きを感じられた」ワトキンスは言った。「お前が俺の動きを感じられた。それは十年の差じゃない。この一年でできたものだ」


ニコラスはその言葉を聞いた。


「俺の経験の少なさを、お前が補っているということか」


「補うというより、一緒に作ってるんだ」ワトキンスは言った。「お前の感覚と、俺の経験が混ざった。それが今日の動きだと思う」


ニコラスはしばらく黙った。


「なぜ今日、それを言おうと思った」


「今日の試合を見て初めて言えると思ったから」とワトキンスは言った。「結果が出る前に言っても、言葉だけになる」


ニコラスはそれを聞いた。


「ありがとう」と言った。


それがニコラスにとって、チームメイトに感謝を言葉にした初めての場面だった。


ワトキンスは特に驚いた顔をしなかった。ただ頷いた。


「まだある」と言った。「リーグも、CLも」


「取る」とニコラスは言った。


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