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沈黙のストライカー  作者: ムーミンの丸焼き
アストン・ヴィラ2年目

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63/109

衝突


---


三月の中旬、アウェイでウルブスと対戦した。


前半、二トップが噛み合わなかった。


ウルブスの守備は低い位置を保ち、ブロックを作っていた。ニコラスとワトキンスが動いてもスペースが生まれなかった。ワトキンスが右へ流れるとニコラスも右へ引っ張られた。ニコラスがポストに入るとワトキンスが同じ方向へ入ってきた。


二人が何度も重なった。


三十七分、ニコラスがポストで受けた。ワトキンスへ出した。ワトキンスが前を向いた。シュートコースがあった。でもワトキンスはもう一人外へパスを出した。受けた選手がクロスを上げた。弾かれた。


ニコラスは少しだけ、そのシュートコースを覚えていた。


ハーフタイム、ロッカールームに戻った。スコアレスだった。


エメリーが話した後、少し時間があった。


ニコラスはワトキンスに近づいた。


「三十七分、シュートコースがあった」


ワトキンスはニコラスを見た。「あの場面か」


「あった」


「俺には見えていなかった」ワトキンスは言った。「外のほうが確率が高いと判断した」


「外は人数がいた」


「クロスの方が可能性があった」


「あのシュートコースは一瞬だった」とニコラスは言った。「判断が遅れると消える」


ワトキンスは少し間を置いた。


「俺の判断が遅かったと言いたいのか」


「そうじゃない。見え方が違った」


「見え方が違う」ワトキンスは繰り返した。「お前は俺がシュートを打つべきだったと思っているのか」


「打てた」


ワトキンスは少し黙った。ニコラスも黙った。


周りのチームメイトが少し静かになった。ティーレマンスがこちらを一瞬見て、視線を外した。


「お前の見え方は正しいかもしれない」とワトキンスはゆっくり言った。「でも俺の判断も間違いじゃなかった。そのとき最善だと思ったことをやった」


「わかってる」


「わかってるなら、なぜ言った」


ニコラスは少し考えた。


「言語化したかった」


ワトキンスは少し眉を上げた。


「言語化」


「見え方が違う場面があると知っておきたかった。次に活かすために」


ワトキンスはしばらくニコラスを見た。それから短く息を吐いた。


「わかった」と言った。「後で話す」


---


後半、ヴィラが動いた。


ロジャースが左サイドで前を向いた。キャッシュが右で上がっていた。ニコラスとワトキンスが前線で待っていた。


ロジャースがニコラスへ縦パスを入れた。DFが来た。ニコラスはポストで収めた。


ワトキンスが動いた。今度は逆サイドへ走った。


ニコラスの前にスペースが生まれた。


反転した。


打った。


入った。


一対〇。


---


試合は一対〇で終わった。


通路でワトキンスと並んだ。


「さっきの場面」とワトキンスが言った。「お前が反転してシュートを打った。あの瞬間、俺はちゃんと逆へ動けていたか」


「動けていた」


「そうか」ワトキンスは少し考えた。「俺は今日前半、お前の動きを見ながら動いていた。お前がポストに入るのを確認してから動こうとした。だから一瞬遅れた」


ニコラスはその言葉を聞いた。


「見るのではなく感じないといけない」


「そうだ」ワトキンスは言った。「お前が感じで動くなら、俺も同じで動かないと噛み合わない。頭で確認してたら遅い」


「でも俺が言語化しようとするとき、頭が先に来る」


「だからバランスが難しい」ワトキンスは言った。「お前が頭で追いかけながら体が先に動く状態。俺がお前の動きを感じながら逆へ動く状態。その両方が同時にできるかどうかだ」


ニコラスはその言葉を少し持った。


「今日の後半、一瞬だけそれができた」


「一瞬あれば、また来る」ワトキンスは言った。


二人は少し笑った。ほとんど同時だった。


---


バスの中でティーレマンスが隣に来た。


「さっきのハーフタイム」とティーレマンスは言った。「あの会話、見てた」


「そうか」


「よかったと思う」


「衝突か」


「衝突というより、確認だ」ティーレマンスは言った。「二人が同じ方向を向いているのがわかった。喋り方が険しかっただけで、やりたいことは同じだった」


ニコラスはそれを聞いた。


「外から見るとそう見えるのか」


「少なくとも俺にはそう見えた」ティーレマンスは言った。「去年のお前は、あの場面で黙ってた。今年は言葉にした。それが変わったことだ」


ニコラスは窓の外を見た。


「言語化しようとした結果だ」


「エメリーに言われたのか」


「一年前から言われていた」


ティーレマンスは少し笑った。「エメリーはいつも一年前から仕込んでいる」


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