衝突
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三月の中旬、アウェイでウルブスと対戦した。
前半、二トップが噛み合わなかった。
ウルブスの守備は低い位置を保ち、ブロックを作っていた。ニコラスとワトキンスが動いてもスペースが生まれなかった。ワトキンスが右へ流れるとニコラスも右へ引っ張られた。ニコラスがポストに入るとワトキンスが同じ方向へ入ってきた。
二人が何度も重なった。
三十七分、ニコラスがポストで受けた。ワトキンスへ出した。ワトキンスが前を向いた。シュートコースがあった。でもワトキンスはもう一人外へパスを出した。受けた選手がクロスを上げた。弾かれた。
ニコラスは少しだけ、そのシュートコースを覚えていた。
ハーフタイム、ロッカールームに戻った。スコアレスだった。
エメリーが話した後、少し時間があった。
ニコラスはワトキンスに近づいた。
「三十七分、シュートコースがあった」
ワトキンスはニコラスを見た。「あの場面か」
「あった」
「俺には見えていなかった」ワトキンスは言った。「外のほうが確率が高いと判断した」
「外は人数がいた」
「クロスの方が可能性があった」
「あのシュートコースは一瞬だった」とニコラスは言った。「判断が遅れると消える」
ワトキンスは少し間を置いた。
「俺の判断が遅かったと言いたいのか」
「そうじゃない。見え方が違った」
「見え方が違う」ワトキンスは繰り返した。「お前は俺がシュートを打つべきだったと思っているのか」
「打てた」
ワトキンスは少し黙った。ニコラスも黙った。
周りのチームメイトが少し静かになった。ティーレマンスがこちらを一瞬見て、視線を外した。
「お前の見え方は正しいかもしれない」とワトキンスはゆっくり言った。「でも俺の判断も間違いじゃなかった。そのとき最善だと思ったことをやった」
「わかってる」
「わかってるなら、なぜ言った」
ニコラスは少し考えた。
「言語化したかった」
ワトキンスは少し眉を上げた。
「言語化」
「見え方が違う場面があると知っておきたかった。次に活かすために」
ワトキンスはしばらくニコラスを見た。それから短く息を吐いた。
「わかった」と言った。「後で話す」
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後半、ヴィラが動いた。
ロジャースが左サイドで前を向いた。キャッシュが右で上がっていた。ニコラスとワトキンスが前線で待っていた。
ロジャースがニコラスへ縦パスを入れた。DFが来た。ニコラスはポストで収めた。
ワトキンスが動いた。今度は逆サイドへ走った。
ニコラスの前にスペースが生まれた。
反転した。
打った。
入った。
一対〇。
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試合は一対〇で終わった。
通路でワトキンスと並んだ。
「さっきの場面」とワトキンスが言った。「お前が反転してシュートを打った。あの瞬間、俺はちゃんと逆へ動けていたか」
「動けていた」
「そうか」ワトキンスは少し考えた。「俺は今日前半、お前の動きを見ながら動いていた。お前がポストに入るのを確認してから動こうとした。だから一瞬遅れた」
ニコラスはその言葉を聞いた。
「見るのではなく感じないといけない」
「そうだ」ワトキンスは言った。「お前が感じで動くなら、俺も同じで動かないと噛み合わない。頭で確認してたら遅い」
「でも俺が言語化しようとするとき、頭が先に来る」
「だからバランスが難しい」ワトキンスは言った。「お前が頭で追いかけながら体が先に動く状態。俺がお前の動きを感じながら逆へ動く状態。その両方が同時にできるかどうかだ」
ニコラスはその言葉を少し持った。
「今日の後半、一瞬だけそれができた」
「一瞬あれば、また来る」ワトキンスは言った。
二人は少し笑った。ほとんど同時だった。
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バスの中でティーレマンスが隣に来た。
「さっきのハーフタイム」とティーレマンスは言った。「あの会話、見てた」
「そうか」
「よかったと思う」
「衝突か」
「衝突というより、確認だ」ティーレマンスは言った。「二人が同じ方向を向いているのがわかった。喋り方が険しかっただけで、やりたいことは同じだった」
ニコラスはそれを聞いた。
「外から見るとそう見えるのか」
「少なくとも俺にはそう見えた」ティーレマンスは言った。「去年のお前は、あの場面で黙ってた。今年は言葉にした。それが変わったことだ」
ニコラスは窓の外を見た。
「言語化しようとした結果だ」
「エメリーに言われたのか」
「一年前から言われていた」
ティーレマンスは少し笑った。「エメリーはいつも一年前から仕込んでいる」
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