反転
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三月の最初の週、ヴィラはホームでブレントフォードと対戦した。
リーグ戦の再開だった。CLのグループステージが一段落して、リーグに戻ってきた。順位は二位、シティとの勝ち点差は三だった。
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前半、二トップは機能していた。
ニコラスがポストに入るたびに、ワトキンスが逆サイドへ動いた。スペースが生まれた。でもブレントフォードの守備は組織的だった。スペースが生まれた瞬間に埋める動きが速かった。
三十二分、ロジャースが左サイドで仕掛けた。モーガン・ロジャースはスピードと推進力があった。ドリブルで二人を剥がしてクロスを上げた。
ニコラスが飛び込んだ。DFも飛んだ。競り合いで弾かれた。
こぼれ球がエリア外へ転がった。
オナナが拾った。アマドゥ・オナナはフィジカルが強く、ルーズボールの回収が速かった。持ち上がってニコラスへパスを出した。
ニコラスがエリア内でボールを受けた。DFが背後から来た。
背中を向けた。
DFの重心を感じた。
反転した。
打った。
入った。
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ベイリーが最初に来た。レオン・ベイリーはジャマイカ代表のウィンガーで、スプリントが速かった。「ニコ!」と叫びながら抱きついてきた。
次にロジャースが来た。「クロスが活きた!」と言った。
ワトキンスが来た。何も言わなかった。でも肩を叩いた。
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ハーフタイム、エメリーが短く言った。
「後半も続けろ。あの形が今日は効いている」
ニコラスはロッカールームの壁を見た。
反転シュートが試合で決まった。CHの練習で決めたのは何度もあった。でも今日は流れの中で、DFがいる状態で、本当の試合で決まった。
エメリーが「その半分を全部にしろ」と言った言葉を思い出した。
まだ全部ではない。でも今日、もう一歩近づいた。
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後半、六十八分だった。
ワトキンスが右へ流れた。DFが一枚ついた。
ニコラスの前にスペースが生まれた。ボールが来た。
打った。
入った。
二点目だった。
今度は反転ではなかった。エリア内で前を向いてシュートを打った。でもそのスペースはワトキンスが作ったものだった。
ワトキンスが近づいてきた。
「二本目はお前のゴールだ」とワトキンスが言った。
「スペースはお前が作った」
「でもシュートを打ったのはお前だ」
ニコラスは少し考えた。
「どちらもだ」
ワトキンスは笑った。「それでいい」
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試合は二対〇で終わった。
試合後、エメリーがニコラスを呼んだ。
「今日の一点目」
「はい」
「あの状況で反転を選んだのはなぜだ」
ニコラスは少し考えた。
「DFの重心が後ろにある瞬間があった。その瞬間に反転すればゴールへ向けると思った」
「思ったのか、感じたのか」
「感じた。でも後から頭でも追えた」
エメリーは頷いた。「それだ」と言った。「体が感じて、頭が後から追いかけた。その状態が理想だ。よくやった」
それだけだった。
エメリーに「よくやった」と言われたのは、初めてだった。
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ロッカールームに戻ると、オナナが声をかけてきた。
「あのパス、もう少し速く出せたな」とオナナは言った。自己評価だった。「でも入ったからよかった」
「パスが来なければ打てなかった」
「お前が受けてくれるとわかってたから出せた」オナナは言った。「お前のポストは信頼できる」
ニコラスはその言葉を少し持った。
「ポストプレーを信頼してくれているのか」
「当たり前だ。お前がポストに入ると、俺のパスコースが増える」オナナは笑った。「エゴは別として、チームとして助かってる」
「エゴは別として」
「ゴールを決めたいのは顔に出てる」オナナは笑った。「でもそれがあるから前線の迫力が出る。全部持ってる選手はいない。お前がゴールへ向かう意志を持って、ワトキンスが経験でそれを活かす。二人で一つの前線が完成する」
ニコラスは黙ってその言葉を聞いた。




