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沈黙のストライカー  作者: ムーミンの丸焼き
アストン・ヴィラ2年目

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61/111

アリスター――冬


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## アリスター視点


二月の終わり、オールド・トラッフォードだった。


アウェイのヴィラが来た。


アリスターはウォームアップをしながらヴィラのベンチを見た。ニコラスがいた。去年の五月以来、直接会っていなかった。チェスターフィールドで一緒に歩いてから、もう九ヶ月が経っていた。


ピッチで見ると、また別の人間に見えた。


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今季のアリスターは変わっていた。


動きながらのロングシュートを、オフシーズン中ずっと練習した。頭の処理を速くして、体が追いつくようにする。止まらずに打つ。考えながら走る。それをひたすら繰り返した。


エリア外でボールを受けること自体は、MFとして以前から変わらなかった。変わったのは、その場面でシュートという選択肢が生まれたことだった。パスかドリブルか、だったところに、シュートが加わった。相手DFからすると、今まで考えなくてよかった選択肢を一つ余分に見なければならなくなった。


プレシーズンの練習試合で、初めて試合中に決めた。監督が見ていた。


今季ここまで、動きながらのロングシュートで三本決めていた。


去年の冬、その選択肢はなかった。


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試合が始まった。


ヴィラは二トップだった。ニコラスとワトキンスが前線に並んでいた。試合前の映像分析で確認していた形だった。でも実際にピッチで見ると、映像と印象が違った。二人が別の方向へ動くたびに、どちらを見ればいいかが一瞬わからなくなる。映像で見るより厄介だとアリスターは思った。


三十一分、ニコラスがポストプレーからワトキンスへはたいた。ワトキンスが反転してシュートを打った。GKが弾いた。


アリスターはその流れを見ながら、去年と違うと思った。去年のニコラスはポストを受けると自分でゴールへ向かっていた。今日は一度ワトキンスを使った。でも次の瞬間、またゴールへ向かっていた。


エゴを消したわけじゃない、とアリスターは思った。ただ使い方が変わった。


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四十四分、ユナイテッドが右サイドから崩した。クロスが入った。FWが競った。弾かれた。


こぼれ球がエリアの外へ転がってきた。


アリスターはそのボールを見た。走っていた。距離はエリアから十六メートル。角度は中央より少し右。


頭が動いた。GKの位置。コース。左上か右下か。


一瞬だった。


体が蹴った。


ボールが低く、速く、左のサイドネットに突き刺さった。


一対〇。


スタジアムが揺れた。


アリスターは右手を上げた。チームメイトが来た。でも一瞬だけ、ニコラスの方を見た。


ニコラスはセンターサークルへ向かって歩いていた。こちらを見ていなかった。


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## ニコラス視点


あのシュートを見ていた。


エリア外から、走りながら打った。低くて速いシュートだった。GKが動いた瞬間には入っていた。


去年の五月、アリスターがオールド・トラッフォードのピッチで一人でボールを蹴っていたのを思い出した。転がしてから走り込んで蹴る練習を、何度も繰り返していた。


あれが今日、試合で出た。


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後半、ヴィラが押し込んだ。


六十七分、ワトキンスが抜け出してシュートを打った。GKが弾いた。ニコラスが詰めた。入った。一対一。


ニコラスは右手を上げた。


同点だった。


---


七十九分だった。


アリスターがボールを持った。エリアから二十メートル。前にスペースがあった。


行くか、とニコラスは思った。


アリスターは止まらなかった。走りながら打った。


今度は枠を外れた。


でもユナイテッドのチームメイトがアリスターに声をかけた。「次も打て」という声が聞こえた。


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試合は一対一で終わった。


通路でアリスターとすれ違った。


「同点だったな」とアリスターが言った。


「そうだ」


「あのシュート、見てたか」


「見てた」


「どうだった」


ニコラスは少し考えた。


「速かった。頭より体が先に動いていた」


アリスターは少し笑った。「お前に言われると複雑だな」


「なぜ」


「お前はずっとそうやって動いてきた。俺はやっとそれを少し掴んだ。今日で三本目だ」


「三本か」


「今季終わるまでにあと七本取る」とアリスターは言った。「十本にする」


ニコラスはそれを聞いた。


「お前が打ってくると、守りにくくなる」とニコラスは言った。「エリア内だけを守ればよかったのに、外も気にしないといけない」


アリスターは少し黙った。それから「それが狙いだ」と言った。


「わかってる」


二人はしばらく並んで歩いた。


「チェスターフィールドから、だいぶ遠くまで来たな」とアリスターが言った。


「まだ途中だ」


アリスターは笑った。「そうだな」


分かれ道で別れた。


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## アリスター視点


ロッカールームに戻りながら、アリスターは今日の試合を振り返った。


一ゴール一引き分け。悪くなかった。でも勝てなかった。


ニコラスが「頭より体が先に動いていた」と言った。そう見えたなら、オフシーズンの練習が少し形になったということだった。


去年の五月、「次は負けない」と言った。今日は負けなかった。でも勝ちもしなかった。


まだ足りない。


アリスターはスパイクを脱いで、少し天井を見た。


ニコラスはスランプがあったと聞いた。七試合ゴールなしだったという話がメディアに出ていた。でも今日、ゴールを取った。また動き始めていた。


あいつは崩れても戻ってくる、とアリスターは思った。


自分も同じでないといけない。


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