背中
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十月の末、エメリーがニコラスを個別に呼んだ。
去年の十二月以来だった。あのときは自分の動きをホワイトボードに描かされた。体が先に知っていることを、言葉と線にした。
今日もホワイトボードの前だった。
「描け」とエメリーは言った。「今季、ポストプレーの場面でお前がやっていること」
ニコラスはマーカーを取った。
エリアの外に○を描いた。DFを背負った状態の自分だった。矢印を描いた。パスを出す方向。ワトキンスへ。サイドへ。
「それだけか」
「今はそれだけです」
エメリーは図を見た。
「ゴールはどこにある」
ニコラスはホワイトボードのエリア内を見た。自分が描いた図の中に、ゴールへの矢印がなかった。
「描けない」
「なぜ」
「ポストの場面でゴールへの選択肢が見えていない」
エメリーは頷いた。「正直だ。では聞く。DFを背負ったとき、ゴールはどこにある」
「後ろです」
「後ろにゴールがある。お前はDFに背中を向けている。ゴールに背中を向けている。その状態で、ゴールへの選択肢は何がある」
ニコラスは少し考えた。
「反転する」
「反転するとどうなる」
「DFと向き合う。でも向き合った瞬間、スペースがあればシュートを打てる」
「そのスペースは、どこから生まれる」
ニコラスはまた考えた。
「DFが後ろにいる間は、自分の前にスペースがある。でも反転すると、DFが前に来る」
「タイミングだ」エメリーは言った。「DFが自分の背中にいる一瞬、重心が後ろにある一瞬、そこで反転すれば、DFより先にゴールへ向ける。その一瞬を掴めるか」
ニコラスはホワイトボードに矢印を描き直した。
DFを背負った○から、半回転の矢印。ゴールへの直線。
「描けた」とエメリーは言った。
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その日の午後、ニコラスはグラウンドに残った。
コーンを一本立てた。DFの代わりだった。コーンを背にしてボールを受けた。反転した。シュートを打った。
枠を外れた。
もう一度。
また外れた。
反転の動き自体はできていた。でもシュートが安定しなかった。ゴールに背中を向けた状態から反転する。その瞬間、ゴールがどこにあるかを確認する余裕がなかった。
十本打った。枠に入ったのは二本だった。
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翌日も残った。
今度はコーンを増やした。ゴールの両端にコーンを置いた。コーンとコーンの間、つまりゴール枠の内側だけを狙う練習だった。
ニコラスはコーンを背にしてボールを受けた。反転した。
ゴールが見えた。
いや、見えたのではなかった。感じた。
どんな体勢からでも、どんな角度からでも、ゴールだけはわかった。チェスターフィールドで最初にボールを蹴った日からそうだった。コーチが「ゴールへの嗅覚」と呼んだものだった。
ゴールに背中を向けていても、その感覚は消えていなかった。
右のコーンと左のコーンの間。そこへ向かって打った。
入った。
もう一度。また入った。
ゴールを見なくても、ゴールがわかる。それが自分にあるものだと、今日初めて確認した。
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三日後、エメリーに呼ばれた。
「感じたことを、言葉にしろ」
ニコラスは少し考えてから言った。
「DFを背負ったとき、DFの重心が後ろにある。その一瞬に反転する。ゴールは見えない。でもどこにあるかはわかる。反転しながらそこへ向かって打つ。GKが反応する前に届けば、コースが良ければ入る」
「GKは読まないのか」
「反転してからでは遅い。読む時間がない」
「それでいいのか」
「俺のシュートなら、コースだけで勝負できる」
エメリーはしばらくニコラスを見た。
「それはお前だから言える言葉だ」と言った。「他の選手には勧めない」
ニコラスは少し間を置いた。
「自分の武器を使うということです」
「そうだ」エメリーは言った。「お前が体で知っていることを、頭でも知った。それでいい」
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十一月の最初の試合。
六十七分、ニコラスはエリア外でボールを受けた。DFが背後から来た。背中を向けた。
DFの重心が後ろにある、と感じた。
反転した。
DFが前に出てきた。でも一歩遅れた。
ゴールは見えなかった。でもどこにあるかはわかった。
打った。
GKが動いた。間に合わなかった。
ネットが揺れた。
ニコラスは右手を上げながら、頭の中で一瞬だけ言葉を追った。DFの重心。反転のタイミング。ゴールの位置。
体が先にやった。でも頭が後から追いついた。
今はそれでいい、とニコラスは思った。
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試合後、ワトキンスが言った。
「あのシュート、ポストから打ったな」
「そうだ」
「そういう選択肢が出てきたか」
「まだ一本だ」
「一本決めれば、また決められる」
ニコラスはその言葉を聞いた。以前も同じことを言っていた。
一本決めれば、また決められる。
「そうだな」とニコラスは言った。
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