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沈黙のストライカー  作者: ムーミンの丸焼き
アストン・ヴィラ2年目

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58/110

背中


-----


十月の末、エメリーがニコラスを個別に呼んだ。


去年の十二月以来だった。あのときは自分の動きをホワイトボードに描かされた。体が先に知っていることを、言葉と線にした。


今日もホワイトボードの前だった。


「描け」とエメリーは言った。「今季、ポストプレーの場面でお前がやっていること」


ニコラスはマーカーを取った。


エリアの外に○を描いた。DFを背負った状態の自分だった。矢印を描いた。パスを出す方向。ワトキンスへ。サイドへ。


「それだけか」


「今はそれだけです」


エメリーは図を見た。


「ゴールはどこにある」


ニコラスはホワイトボードのエリア内を見た。自分が描いた図の中に、ゴールへの矢印がなかった。


「描けない」


「なぜ」


「ポストの場面でゴールへの選択肢が見えていない」


エメリーは頷いた。「正直だ。では聞く。DFを背負ったとき、ゴールはどこにある」


「後ろです」


「後ろにゴールがある。お前はDFに背中を向けている。ゴールに背中を向けている。その状態で、ゴールへの選択肢は何がある」


ニコラスは少し考えた。


「反転する」


「反転するとどうなる」


「DFと向き合う。でも向き合った瞬間、スペースがあればシュートを打てる」


「そのスペースは、どこから生まれる」


ニコラスはまた考えた。


「DFが後ろにいる間は、自分の前にスペースがある。でも反転すると、DFが前に来る」


「タイミングだ」エメリーは言った。「DFが自分の背中にいる一瞬、重心が後ろにある一瞬、そこで反転すれば、DFより先にゴールへ向ける。その一瞬を掴めるか」


ニコラスはホワイトボードに矢印を描き直した。


DFを背負った○から、半回転の矢印。ゴールへの直線。


「描けた」とエメリーは言った。


-----


その日の午後、ニコラスはグラウンドに残った。


コーンを一本立てた。DFの代わりだった。コーンを背にしてボールを受けた。反転した。シュートを打った。


枠を外れた。


もう一度。


また外れた。


反転の動き自体はできていた。でもシュートが安定しなかった。ゴールに背中を向けた状態から反転する。その瞬間、ゴールがどこにあるかを確認する余裕がなかった。


十本打った。枠に入ったのは二本だった。


-----


翌日も残った。


今度はコーンを増やした。ゴールの両端にコーンを置いた。コーンとコーンの間、つまりゴール枠の内側だけを狙う練習だった。


ニコラスはコーンを背にしてボールを受けた。反転した。


ゴールが見えた。


いや、見えたのではなかった。感じた。


どんな体勢からでも、どんな角度からでも、ゴールだけはわかった。チェスターフィールドで最初にボールを蹴った日からそうだった。コーチが「ゴールへの嗅覚」と呼んだものだった。


ゴールに背中を向けていても、その感覚は消えていなかった。


右のコーンと左のコーンの間。そこへ向かって打った。


入った。


もう一度。また入った。


ゴールを見なくても、ゴールがわかる。それが自分にあるものだと、今日初めて確認した。


-----


三日後、エメリーに呼ばれた。


「感じたことを、言葉にしろ」


ニコラスは少し考えてから言った。


「DFを背負ったとき、DFの重心が後ろにある。その一瞬に反転する。ゴールは見えない。でもどこにあるかはわかる。反転しながらそこへ向かって打つ。GKが反応する前に届けば、コースが良ければ入る」


「GKは読まないのか」


「反転してからでは遅い。読む時間がない」


「それでいいのか」


「俺のシュートなら、コースだけで勝負できる」


エメリーはしばらくニコラスを見た。


「それはお前だから言える言葉だ」と言った。「他の選手には勧めない」


ニコラスは少し間を置いた。


「自分の武器を使うということです」


「そうだ」エメリーは言った。「お前が体で知っていることを、頭でも知った。それでいい」


-----


十一月の最初の試合。


六十七分、ニコラスはエリア外でボールを受けた。DFが背後から来た。背中を向けた。


DFの重心が後ろにある、と感じた。


反転した。


DFが前に出てきた。でも一歩遅れた。


ゴールは見えなかった。でもどこにあるかはわかった。


打った。


GKが動いた。間に合わなかった。


ネットが揺れた。


ニコラスは右手を上げながら、頭の中で一瞬だけ言葉を追った。DFの重心。反転のタイミング。ゴールの位置。


体が先にやった。でも頭が後から追いついた。


今はそれでいい、とニコラスは思った。


-----


試合後、ワトキンスが言った。


「あのシュート、ポストから打ったな」


「そうだ」


「そういう選択肢が出てきたか」


「まだ一本だ」


「一本決めれば、また決められる」


ニコラスはその言葉を聞いた。以前も同じことを言っていた。


一本決めれば、また決められる。


「そうだな」とニコラスは言った。


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