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沈黙のストライカー  作者: ムーミンの丸焼き
アストン・ヴィラ2年目

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57/110

エゴ


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十月の中旬、ヴィラはリーグ戦を九試合消化していた。


成績は六勝二分一敗。悪くなかった。


ニコラスの得点は四だった。


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去年の同じ時期、ニコラスは七点取っていた。


数字はただの数字だった。でもニコラスはその差を知っていた。ポストプレーが増えた。スペースを作る動きが増えた。ゴールを狙える場面でワトキンスにパスを選ぶことが増えた。


チームは勝っていた。ワトキンスは八点取っていた。二トップとして機能しているという評価がメディアから出始めていた。


エメリーは何も言わなかった。


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土曜日の夜、試合が終わってホテルの部屋に一人でいた。


ニコラスはスマートフォンでハーランドのゴール数を調べた。


九試合で十一点だった。


ニコラスは画面を閉じた。


去年この時期、ハーランドとの差は二点だった。今年はすでに七点差があった。


ワントップのハーランドと、ポストプレーも担う自分。条件が違う。それはわかっていた。


でもわかっていても、その数字は少し重かった。


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なぜ重いのか、とニコラスは考えた。


チームは勝っている。自分の役割は果たしている。ワトキンスがゴールを取れているのは、自分がスペースを作っているからでもある。


それでも重かった。


しばらく考えて、ニコラスは一つのことに気づいた。


自分はゴールを決めたい。


それだけだった。チームが勝つためでも、得点王を取るためでも、ハーランドに勝つためでもない。ただ、ゴールを決めたい。ボールがネットを揺らす瞬間が欲しい。


三年前、チェスターフィールドで初めてコーチに「なぜFWをやりたいのか」と聞かれたとき、「ゴールを決めたいから」と答えた。あのときからずっとそうだった。でも今日初めて、それに名前がついた気がした。


エゴだ、とニコラスは思った。


-----


エゴが悪いことだとは思わなかった。


でもそのエゴが、今の自分の役割と少しずれていた。ポストプレーをしながらゴールも取りたい。でも体は一つで、時間は九十分しかない。全部を同時にはできない。


ハーランドはゴールだけを考えていられる。ワントップで、チームがボールを運んでくれる。自分はスペースを作って、ワトキンスを活かして、その上でゴールも狙う。


やることが多い分、ゴールが減る。


それはわかっていた。でも今日まで、そのことをエゴという言葉で整理したことがなかった。


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次の練習の日、ニコラスはワトキンスに言った。


「一つ聞いていいか」


「何だ」


「お前は、ゴールを決めたいと思うか」


ワトキンスは少し考えた。


「思う。当たり前だ」


「二トップになってから、俺がスペースを作った場面でゴールを取ることが増えた。それについてどう思う」


ワトキンスはニコラスを見た。


「どういう意味だ」


「お前がゴールを取ることは、チームにとって正しい。でも俺もゴールを取りたい」ニコラスは言った。「それはエゴだとわかっている。でもそのエゴがある」


ワトキンスはしばらく黙った。


「それを言えるようになったのか」


「今日初めて、言葉にした」


ワトキンスは少し笑った。「そのエゴは捨てなくていい」と言った。「捨てたら、お前はただのポストプレーヤーになる。それは俺も困る。お前がゴールを狙うから、相手は二人を同時に見なきゃいけない。それがこの二トップの意味だ」


ニコラスはその言葉を聞いた。


「でも今は四点しか取れていない」


「今はまだそういう時期だ」ワトキンスは言った。「ただ一つ言える。ポストプレーの場面でも、ゴールへの選択肢を探し続けろ。パスだけが答えじゃない。その意識があるだけで、相手の守り方が変わる」


ニコラスはその言葉を少し持った。


「それが今のエメリーの意図か」


「たぶんな」ワトキンスは言った。「エメリーはそういうことを先に見ている」


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その夜、ニコラスはもう一度ハーランドの数字を調べた。


十一点。


自分は四点。


差はある。でも今日、その差の意味が少し変わった気がした。条件が違う。やることが違う。それでも近づける。エゴを持ったまま、役割も果たせるようになれば。


ポストプレーの場面でもゴールへの選択肢を探せ、とワトキンスは言った。まだその答えは見えていない。でも必ず見つける。


ニコラスはスマートフォンを閉じた。


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