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八月の終わり、ヴィラは四試合を終えて三勝一分だった。
二トップは試合ごとに少しずつ形が変わった。エメリーが毎試合後に映像を見せた。「ここで重なった」「ここで逆に動けた」「このスペースは意図していたか」。ニコラスとワトキンスは並んで画面を見た。
ゴールはワトキンスが三点、ニコラスが二点だった。
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木曜日の練習後、エメリーが二人を残した。
「映像を見る」とエメリーは言った。
モニターに先週の試合が映った。エメリーは二人の動きだけを追った。
「ここ」とエメリーは止めた。「ニコラスが左へ動いた。ワトキンスはどこを見ていた」
「ニコラスを見ていた」とワトキンスは言った。
「なぜ」
「体が反応した」
「それが問題だ」エメリーは言った。「二人が同じものを見ている。二人が別のものを見なければならない」
ニコラスは画面を見た。確かにその瞬間、自分が左へ動いてワトキンスも左へ引っ張られていた。スペースが消えていた。
「二人が別のものを見るには」とワトキンスが聞いた。
「言葉か、体の習慣か、どちらかだ」エメリーは言った。「言葉で決めるなら約束が必要になる。体の習慣にするなら時間が必要になる。どちらが先に来るかはわからない。でも今は両方やれ」
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その日の午後、二人で居残った。
GKなし、DFなし。ただ二人でポジションを取りながら動く練習だった。
「言葉で決めよう」とワトキンスが言った。「俺が右へ動いたらお前は左へ。俺が前へ出たらお前は引く」
「わかった」
やってみた。
最初の十本は機能した。言葉通りに動いた。スペースが生まれた。
でも十一本目、ボールが来た瞬間にニコラスは約束を忘れた。体が先に動いた。右へ動いた。ワトキンスも右へいた。
「今のは」とワトキンスが言った。
「忘れた」
ワトキンスは少し笑った。「そうだろうな。試合の速度になると約束は消える」
「お前は消えなかったか」
「消えた」ワトキンスは言った。「お前より少し後だっただけだ」
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もう一度やった。今度は言葉なしで。
ただ動いた。
重なった。また重なった。一度だけ、逆に動いた瞬間があった。スペースが生まれた。
「今のがある」とワトキンスが言った。
「一回だけだ」
「一回あれば、また来る」
ニコラスはその感覚を覚えようとした。何が違ったのか。体がどう動いたのか。言葉にしようとした。
できなかった。
「お前は今、何を考えていた」とワトキンスが聞いた。
「考えていなかった」
「それだ」ワトキンスは言った。「考えていないときに逆に動ける。考えているときに重なる」
ニコラスはその言葉を少し持った。
「考えながら、体も動かせるようになるにはどうすればいい」
「それ自体は、慣れだ」ワトキンスは言った。「年数かければ体に染み込む。でも俺たち二人の場合は別の話だ。お互いの動きを知らないと、考える材料がない。まずそこからだ」
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練習が終わって、二人で水を飲んだ。
「今の段階で俺たちに何が足りないか、わかるか」とワトキンスが言った。
「言葉だ」とニコラスは言った。
「そうだ。俺たちはまだお互いの体の言葉を知らない」ワトキンスは言った。「一年同じチームにいたのに、まだ読めない部分がある。それが足りない」
ニコラスは黙った。
「お前は寡黙だからな」とワトキンスは笑った。「ピッチでも外でも」
「お前は喋りすぎる」
「そうだな」ワトキンスは笑った。「でもピッチで喋るのは悪いことじゃない。声を出すと体がついてくることがある。試してみろ」
ニコラスは何も言わなかった。
でもその言葉は少し残った。
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九月の最初の試合、ニコラスは一度だけ声を出した。
ワトキンスが右へ動こうとした瞬間、「左」と言った。
一言だった。
ワトキンスが止まって左へ動いた。ニコラスの前にスペースが生まれた。シュートを打った。
入った。
ゴールを決めた後、ニコラスはワトキンスを見た。
ワトキンスは何も言わなかった。ただ頷いた。
それでいい、とニコラスは思った。
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