七月
---
七月の第一週、プレシーズンが始まる前日、エメリーから全選手に短いメッセージが届いた。
「明日から始める。今季、チームの形を少し変える。詳しくは明日話す」
それだけだった。
---
翌朝、ニコラスはトレーニンググラウンドに向かった。
駐車場に着くと、先に来ている選手がいた。ワトキンスだった。
「早いな」とワトキンスは言った。
「お前もだ」
「エメリーのメッセージ、読んだか」
「読んだ」
「チームの形を変える、ってどういう意味だと思う」
ニコラスは少し考えた。
「わからない」
「俺も正確にはわからない」ワトキンスは言った。「でも心当たりがある」
ニコラスは黙った。
「去年の九月、エメリーが二トップを試して、十本でやめた。あのとき俺たちの動きが重なった。でもエメリーはその後も何度か練習中に俺たちの動きを観ていた。気づいてたか」
「気づいていなかった」
「そうか」ワトキンスは少し笑った。「俺は気づいてた。エメリーが何かを考えていると思った。だからメッセージを読んで、もしかしてと思った」
---
全体練習が始まった。
エメリーが全員を集めた。
「今季から、場合によって二トップを使う」とエメリーは言った。「ロメロとワトキンス、この二人のポジション取りが去年と変わる。詳細はこの二週間で詰める。今日から試していくぞ。」
それだけだった。
---
最初の練習は、昨年の九月に似ていた。
ニコラスとワトキンスが前線に並んだ。二人が同じスペースへ吸い込まれた。動きが重なった。
でも去年と違うことがあった。
昨年は一方が動いたとき、もう一方が同じ方向へ動いた。今日は、一方が動いたとき、もう一方が逆に動いた。ほんの少しだったが、一瞬だけ、スペースが生まれた。
エメリーは笛を吹かなかった。
---
練習が終わって、二人で水を飲んだ。
「去年と少し違った」とワトキンスが言った。
「動きが逆になった瞬間があった」
「体が変わったのか、頭が変わったのかはわからない」ワトキンスは言った。「でも何かが変わった」
ニコラスはその感覚を思い返した。
昨年は「同じポジションを争う二人」だった。どちらかが動いたとき、もう一方は同じ場所を求めた。でも今日の一瞬、二人が違う場所を求めた。
それが正しいかどうかは、まだわからなかった。でもその一瞬、ピッチが少し広くなった気がした。
「二週間でどこまで形になるかだな」とワトキンスが言った。
「やってみるしかない」
「そうだな」
ワトキンスは立ち上がった。
「来季、一緒に取ろう。タイトル」
ニコラスは少し間を置いた。
「取る」
ワトキンスは頷いた。余計なことは言わなかった。
それでいい、とニコラスは思った。
---




