夏の隼
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六月の末、ニコラスはスマートフォンで何かを調べようとして、サッカーのニュース記事が目に入った。
見出しだった。
「小島暁人、日本代表アジア最終予選で2ゴール」
写真があった。AKIがゴールを決めた後、両手を広げていた。スタジアムは青かった。日本代表の青だった。
ニコラスはその写真を少し見た。
CLの第三節、ヴィラパークで対戦した夜のことを思い出した。雨だった。AKIのドリブルが、雨のピッチでも止まらなかった。あの夜ニコラスはゴールを取った。AKIも取った。三対四でリバプールが勝った。
あれ以来、ピッチで会っていなかった。
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AKIは今、別の大陸で別の旗を背負って戦っていた。
リバプールのユニフォームを着たAKIと、日本代表のユニフォームを着たAKIは、同じ選手だが別の文脈の中にいた。プレミアでは敵として対峙する。でも代表では、ニコラスはイングランド代表で、AKIは日本代表で、そもそも交わらない。
ニコラスは記事を少し読んだ。
AKIが予選で二ゴールを取ったとあった。「日本代表の新星」という表現があった。
ニコラスはそれを読んで、スマートフォンを置いた。
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CLで対戦したとき、AKIはニコラスに言った。「CLは一人で変えられない場面がある」と。あれは負け惜しみでも謙遜でもなかった。事実を言っていた。三対四でリバプールが勝ったのは、チームとしての差だった。AKIが一枚上にいたわけでも、ニコラスが一枚下にいたわけでもなかった。
でも来季またCLで当たる可能性がある。
ヴィラとリバプールが同じグループに入れば。あるいはノックアウトステージで。
来季は勝つ、とニコラスは思った。
個人としてではなく、チームとして。それが今シーズン学んだことだった。
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記事の最後に小さく書いてあった。
「小島は今季、リバプールと三年契約を延長した。来季も英国でプレーを続ける」
ニコラスはそれを読んだ。
来季もいる。
プレミアでは敵として。CLでは、条件次第でまた敵として。
それでいい、とニコラスは思った。AKIがいる限り、リバプール戦は負けられない理由が一つ増える。
ニコラスはスマートフォンを閉じた。
七月が来たら、プレシーズンが始まる。
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