約束――旅行
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六月の初旬、ニコラスはチェスターフィールドへ帰る前にグレースに電話した。
「来週帰る」
「わかった。部屋、そのままにしてあるわよ」
「ありがとう」
少し間があった。
「母さん」
「何?」
「来季、タイトルを取ったら旅行に連れていく」
グレースは返答まで少し時間をかけた。
「タイトルって、リーグ?」
「どれかは取る」
「どれかでいいの?」
「全部取りたい」
「じゃあ全部取ったら連れていってくれる?」グレースは笑った。
「そうする」
「約束ね」
「約束だ」
また少し間があった。
「どこに行きたいか、考えておいてくれ」とニコラスは言った。
「そんなこと言われても急には思いつかないわよ」
「時間はある。シーズンが終わるまでに決めてくれ」
グレースは少し笑った。「じゃあ考えておく。でも一つ聞いていい?」
「何だ」
「タイトル取れなかったら旅行なし?」
ニコラスは少し間を置いた。
「タイトルを取るから、なし、という状況にはならない」
グレースはしばらく黙った。
「わかった」とグレースは言った。「信じる」
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電話を切ってから、ニコラスは少し考えた。
グレースが旅行に行ったことが何度あるか、知らなかった。
チェスターフィールドから出たことがあるかどうかも、よく知らなかった。
子供のころ、家を出るお金はなかった。ニコラスがコンヤへ行ったとき、グレースはチェスターフィールドに残った。ルガーノへ行ったときも。バーミンガムへ来るようになったのは今年からだった。
グレースはどこへ行きたいだろう。
暖かいところか、寒いところか。海か山か。
わからなかった。でもそれを来季終わるまでに知ることができる、とニコラスは思った。タイトルを取るまでの時間が、グレースのことをもう少し知る時間でもあった。
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数日後、グレースからメッセージが来た。
「考えたんだけど、日本はどうかしら。テレビでよく見るの。食べ物が美味しそうで、街が綺麗で、なんか全然違う世界みたいで」
ニコラスは少し間を置いた。
日本。AKIの国だ、と思った。
「日本にする」と返した。
「決まり?」
「決まりだ」
グレースからすぐ返ってきた。
「じゃあ絶対取ってね」
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