数字
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五月の終わり、ゾーイから電話が来た。
「一つ確認したいことがあります」
「何だ」
「インタビューの件です。今シーズン中、全部断りました。でも来月、BBCスポーツから依頼が来ています。これも断りますか」
「断れ」
ゾーイは少し間を置いた。
「今回は少し話が違います。聞いてください」
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プレミア1年目、19ゴール。
FW得点ランキング2位。プレミア初年度に19点以上取った選手は、過去十年で三人しかいなかった。メディアがその数字を見つけた。
と同時に、別のものも掘り起こし始めた。
チェスターフィールド出身。タトゥー。16歳でサッカーを始めた。チェスターフィールド、コンヤ、ルガーノを経てプレミア。——この経歴は、数字以上に記事になりやすかった。
「今週だけで十七件のインタビュー依頼が来ています」とゾーイは言った。「タブロイドが三件、スポーツ専門誌が六件、テレビが四件、ポッドキャストが四件。断り続けていますが、断るほど記事が増えています」
「記事が増えると何が問題だ」
「ニコラスの口から語られない話が、他人の口で語られます。正確でない情報も混じる。チェスターフィールドの過去について、今週だけで二本、事実と異なる記事が出ました」
ニコラスは黙った。
「どんな内容だ」
「一本は『未成年のころから問題行動があった』という匿名の証言を元にした記事です。事実ではありません。でも否定しなければ、広がります」
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ニコラスは少し考えた。
「俺が話すと何が変わる」
「ニコラス自身の言葉が出た瞬間から、他人が語るより強くなります。一回だけでいい。どんな人間かを自分の言葉で示せれば、その後は沈黙でも成立します」
「俺は話すのが得意じゃない」
「知っています」ゾーイは言った。「でもこれはサッカーではないので、得意かどうかより、やるかやらないかです」
ニコラスは返す言葉を探した。
「考える」
「わかりました。ただ、一つだけ言わせてください」ゾーイの声が少し変わった。「ニコラスの話は、誰かに勝手に語られる前に、ニコラスが語るべきだと私は思っています。チェスターフィールドでの話も、タトゥーの話も、お父さんの話も。それはニコラスのものです」
父の話。
ニコラスはその言葉をしばらく持った。
「わかった」と言った。「BBCだけ受ける」
ゾーイは少し間を置いた。
「ありがとうございます」
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話が別に動いた。
「9番の件も報告があります」とゾーイは続けた。
「なんだ」
「来季の契約更新の条件として、9番の正式固定を交渉しました。ヴィラ側が承認しました。来季も9番です」
ニコラスはそれを聞いた。
9番。
チェスターフィールドで29番だった。コンヤでも、ルガーノでも29番だった。ヴィラで初めて9番になった。
チェスターフィールドの29番は、最初に渡された番号だった。自分では選んでいなかった。でも今の9番は、自分がここにいることの証明だった。
「わかった」
「来季もよろしくお願いします」とゾーイは言った。
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BBCのインタビューは六月の初旬に収録された。
質問は多かった。ニコラスは短く答えた。
「チェスターフィールドについて教えてください」
「育った街です」
「16歳でサッカーを始めたのは本当ですか」
「そうです」
「きっかけは」
「声をかけてくれた人がいた」
「それは誰ですか」
「チェスターフィールドの知り合いです」
インタビュアーは少し考えた顔をした。もっと具体的な答えを期待していたのがわかった。でもニコラスはそれ以上言わなかった。
アリスターの名前は出さなかった。それはアリスターのものだったから。
「タトゥーについて聞いていいですか」
「どうぞ」
「意味はありますか」
「あります」
「教えてもらえますか」
「いつか」
インタビュアーはまた考えた。
「今シーズン19ゴール、プレミア2年目の目標は」
「もっと取る」
「具体的な数字は」
「試合が終わってから数えます」
インタビューは三十分で終わった。
翌日、そのインタビューがBBCのウェブサイトに掲載された。
ゾーイからメッセージが来た。
「想像以上に反響があります。短い回答が逆に効きました。コメント欄に『ミステリアスすぎる』と三百件書かれています」
ニコラスは「そうか」と返した。
「良い意味です」とゾーイは続けた。「ニコラスらしい答えでした」
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