五月
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シーズンが終わった。
最終節、ヴィラパークでのホーム最終戦に勝った。ニコラスが一点取った。スタジアムが揺れた。選手たちがピッチを一周した。
ヴィラは二位でシーズンを終えた。
リーグ優勝はアーセナル。勝ち点四差だった。
CLはベスト16。FAカップは準々決勝。
タイトルはなかった。
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チームが解散した翌日、ニコラスは一人でヴィラパークへ行った。
特に用事はなかった。
スタジアムは静かだった。昨日まで七万人がいた場所が、空だった。芝は踏まれていたが、まだ緑だった。
ニコラスはピッチへ降りた。
誰もいなかった。
ゴールを見た。
今シーズン、十九回このゴールにボールを入れた。CLで七回。FAカップで三回。合計二十九回。
でも取れなかったものがある。
ハーランドに届かなかった。アーセナルに届かなかった。レアルに届かなかった。シティに届かなかった。
届かなかったものの数の方が、届いたものより多い。
でもそれは来季まで持ち越しだ。
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ゴールに近づいた。
ポストに手を触れた。
冷たかった。
五月の空気はまだ少し肌寒かった。
ここでレアルと戦った。CLのピッチだった。あの夜、七万人がいた。ニコラスは三点取った。届かなかった。でも体はCLのスピードに追いついた。あの確認が、今シーズン一番必要だったことかもしれなかった。
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スタンドを見上げた。
空の七万席が、静かだった。
十二月、グレースが初めてここに来た。七万人の中で見えなかった。でもどこかにいた。
三月、二度目に来た。碧いスカーフが見えた。ゴールを決めて向いたとき、グレースが立っていた。
来季も来る、とグレースは言った。
エメリーは「十年を決める」と言った。体が動かなくなる日のために、今から頭を使えと言った。まだ十九歳だった。十年後のことを言われた。でも遠いとは思わなかった。
AKIは「CLは一人で変えられない場面がある」と言った。リバプールのCLで四本取られた夜に言った。あの言葉は今もどこかに残っている。
ワトキンスは「出番が来たときにちゃんとやる。それだけだ」と言った。同じポジションを争いながら、それだけを考えていた。怒りも諦めもない口調だった。
アリスターは「次は負けないから」と言った。二試合とも負けた後で、先に歩いていった。背筋がまっすぐだった。
マルティネスは「これが俺たちの今の実力だ」と言った。レアル戦が終わった後、静かにそう言った。今の実力。まだ伸びる、という意味でもあった。
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スタジアムを出た。
バーミンガムの五月の街が、午前中の光の中にあった。
去年の五月、ニコラスはルガーノにいた。ヨーロッパリーグの予選に出ていた。CLのことは夢ではなかったが、まだ手の届く場所にあるとは思っていなかった。
今年の五月、ヴィラパークを出ていく。
一年で、立っている場所が変わった。でも足りないものの数は減っていない。むしろ増えた。届きたいものが見えるようになったから、届いていないものの輪郭がはっきりした。
それでいい、とニコラスは思った。
見えない目標は追えない。見えているから、追える。
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グラウンドを出た。
バーミンガムの五月の街が、午前中の光の中にあった。
ニコラスは少し歩いた。
電話が来た。ゾーイからだった。
「シーズン終わりました」とゾーイは言った。
「そうだ」
「数字を整理しました。プレミアリーグ十九ゴール、CL七ゴール、FAカップ三ゴール。合計二十九ゴール。プレミアの得点王はハーランドで二十一点。ニコラスは二位でした」
十九点。ハーランドに二点差。
「来季は取る」
「ハーランドを抜くということですか」
「そうだ」
ゾーイは少し間を置いた。
「得点王だけじゃないですよね」
「リーグも取る。CLは決勝まで行く」
長い沈黙があった。
「全部ですね」とゾーイは言った。
「そうだ」
「わかりました」ゾーイは言った。「来季の契約、今週中に固めます。他クラブから問い合わせが来ていますが」
「ヴィラにいる」
「理由は」
「まだ取れていないものがある。このチームで取る」
「わかりました」ゾーイは少し笑った。気配でわかった。「一つだけ聞かせてください。今シーズン、何が一番良かったですか」
ニコラスは少し間を置いた。
「CLのピッチに立てた」
「ゴールじゃないんですね」
「ゴールは当然だ。CLに立てたことが、ルガーノのころには想像できなかった」
沈黙があった。
「来季、また当然になります」とゾーイは言った。
「そうなる」
電話が切れた。
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また少し歩いた。
別の電話が来た。グレースからだった。
「シーズン終わったわね」
「そうだ」
「来季はタイトル取りなさいよ」
「取る」
「それだけ?」
「それだけだ」
グレースは笑った。電話越しに聞こえた。
「わかった。待ってる」
電話が切れた。
ニコラスは歩き続けた。
バーミンガムの空が、少し青くなっていた。
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