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沈黙のストライカー  作者: ムーミンの丸焼き
アストン・ヴィラ1年目

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43/111

FAカップ――マンチェスター・シティ


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三月の第一週、FAカップ準々決勝。


エティハド・スタジアム。マンチェスター・シティのホームだった。


4回戦のニューカッスル戦、5回戦のチェルシー戦を勝ち上がってきた。どちらもエメリーがターンオーバーを使いながら、ギリギリで勝った。チームの体力を消耗しながら、ここまで来た。


準々決勝の相手がシティだった。


ハーランドがいる。


十月のリーグ戦で二対二の引き分けだった。あのとき二人はピッチで向き合って、試合後に短い言葉を交わした。「また会おう」——それが今日だった。


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試合前、ロッカールームでエメリーが言った。


「カップ戦の準々決勝だ。リーグとは別の戦いだ。今日負ければシーズンのタイトルが一つ消える。でも今日勝てば準決勝が見えてくる。ウェンブリーが見えてくる。やれるか」


全員が頷いた。


ニコラスも頷いた。


ウェンブリー。まだ行ったことのないスタジアムだ。


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試合が始まった。


シティは速かった。


リーグでの対戦より、シャープだった気がした。カップ戦に向けてのプレッシャーがあるのか、序盤から圧力をかけてきた。


ハーランドはリーグ戦のときと同じだった。静かに構えていた。エリアの外では最小限にしか動かない。でもボールが来た瞬間、別のスイッチが入る。


十二分、先制点を取られた。


ハーランドではなかった。右サイドからのコンビネーションで、中盤の選手に決められた。


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ヴィラは追いついた。


二十九分、ニコラスがエリアに入った。DFが来た。体を使って振り切った。右足を振った。GKの左を抜いた。


一対一。


シティのプレッシャーを一点で跳ね返した。


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でも三十八分、また取られた。


今度はハーランドだった。


CKから混戦になった。こぼれ球がハーランドの前に来た。


体が動いていた。考えていなかった。


蹴った。


入った。


二対一。


ニコラスはゴールを見た。


リーグで対戦したときも、CLで対戦したリバプールのときも、プレミアの一流選手のゴールは速い。考えた後に体が動くのではなく、体がもう動いている。ハーランドも同じだ。


前半が終わった。


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ロッカールームでエメリーが言った。「一点差だ。後半取れる。前半と同じことをやれ」


ニコラスはそれを聞いた。


取れる。後半また取る。


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後半が始まった。


ヴィラが押した。ワトキンスが走り続けた。ニコラスがエリアに入り続けた。


五十八分、ニコラスにボールが来た。


ペナルティエリアの外、右側。DFが一枚来た。


切り返した。


シュートコースが開いた。


左足で蹴った。


GKが弾いた。


こぼれ球が来た。


ワトキンスが走り込んだ。


蹴った。


GKが止めた。


入らなかった。


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六十七分、シティがカウンターに出た。


ハーランドが受けた。


マルティネスが飛び出した。


ハーランドはそれを見ていた。体が先に動いていた。


浮かせた。


マルティネスの手が届かなかった。


入った。


三対一。


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残り二十三分、ヴィラは取り返そうとした。


ニコラスが走った。何度も仕掛けた。


七十六分、ニコラスがシュートした。GKが止めた。


八十一分、ワトキンスのヘッドがクロスバーに当たった。


八十八分、ニコラスがDFを二枚振り切ってシュートした。


入った。


三対二。


残り二分。


もう一点。


ヴィラは全員前に出た。


最後のCKが来た。


全員が飛んだ。


クリアされた。


試合が終わった。


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三対二。


ヴィラはFAカップ準々決勝で敗退した。


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ロッカールームは静かだった。


誰も話さなかった。


ウェンブリーが消えた。


エメリーが言った。「今日まで戦ってきた。リーグとCLはまだある。切り替えろ」


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着替えながら、ニコラスはこのシーズンのカップ戦を振り返った。


CLリバプールに負けた。CLレアルに負けた。FAカップシティに負けた。


三つとも、ゴールを取った。でも届かなかった。


チェスターフィールドのFAカップでエバートンに負けた夜と、似た感覚があった。でも違うことがある。


あのときは「チームが同じ水準でなければ届かない」と思った。今日は、チームとして戦った。それでも届かなかった。


差はまだある。でも差の種類が変わっている。


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通路でハーランドとすれ違った。


ハーランドはもう試合後の顔に戻っていた。チームメイトと話して笑っていた。


ニコラスに気づいた。


「惜しかった」とハーランドは言った。


「届かなかった」


「二点目、あれは良かった」ハーランドは少し笑った。「来季また当たろう」


「来季は取り返す」


「リーグでも?」


「全部で」


ハーランドは笑った。声が出た。


「それでいい」と言って、先に歩いていった。


廊下が少し明るくなるような笑い声が遠ざかっていった。


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バスの中、ニコラスはスマートフォムを取り出した。


ゾーイからメッセージが来ていた。


「お疲れ様でした。リーグ首位、CLは残っています。切り替えてください」


ニコラスは少し間を置いてから返信した。


「来季、全部取る」


ゾーイからすぐ返ってきた。


「それを待っていました」


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バスがマンチェスターの夜を走った。


リーグ首位。でも薄い差だ。CLはまだ続く。


今季取れるものと、来季への積み残しが、少しずつはっきりしてきた。


ハーランドの「来季また当たろう」という言葉が、バスの振動の中に残っていた。


来季。まだこのシーズンは終わっていない。でも来季のことを、もう考え始めている自分がいた。


それでいい、とニコラスは思った。


終わる前に、次を見ている。


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