チャンピオンズリーグ――レアル・マドリード(第二戦)
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二月の最終週、チャンピオンズリーグ決勝トーナメント一回戦第二戦。
ヴィラパークに、レアル・マドリードが来た。
第一戦の結果は一対三。逆転突破には三点取って無失点が必要だった。
試合前の週、バーミンガムの空気が変わった。
街の至る所にヴィラの旗が出た。スタジアムの周辺にサポーターが集まった。無理だという声もあった。でも諦めろという声は、誰も出さなかった。
この街の人間は知っている。ヴィラパークで七万人が声を出したとき、何が起きるかを。
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試合前夜、ニコラスは眠れなかった。
四時に目が覚めた。いつも通りだった。でも今日は、眠り直す気にならなかった。
窓の外を見た。バーミンガムの夜は暗かった。
三点取る。無失点。
現実的ではないと、頭のどこかで思っていた。でもそれを信じるかどうかは、別の話だった。
ニコラスはただ、今日ゴールを取ることだけを考えた。一点、また一点。それだけだ。
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試合前、ロッカールームでエメリーが静かに言った。
「今日は奇跡を狙う。でも奇跡は準備した者にだけ来る。お前たちはこの一週間、準備した。あとはピッチでやるだけだ」
誰も余計なことを言わなかった。
マルティネスが立ち上がった。
「俺たちのホームだ」とだけ言った。スペイン語と英語が混じった短い言葉だった。
誰かが頷いた。
ニコラスも頷いた。
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アンセムが流れた。
七万人が声を出した。
ヴィラパークの音が、ピッチを包んだ。ベルナベウとは種類が違う音だった。あちらは勝ち慣れた王者の余裕があった。こちらは、今日この場所で絶対に戦うという意志の音だった。
ニコラスはその音の中に立って、一瞬だけ目を閉じた。
この音の中で戦う。
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試合が始まった。
ヴィラが押した。
最初から前へ出た。プレスをかけた。レアルはそれを落ち着いて受けた。でもヴィラは止まらなかった。
八分、最初のチャンスが来た。
ロジャーズが仕掛けた。クロスが上がった。ニコラスがDFと競り合った。
ヘッドで合わせた。
GKが弾いた。
惜しかった。でも止まらなかった。
十六分、ティーレマンスが縦に速いパスを入れた。
ニコラスが受けた。DFが一枚来た。
背中を向けた。体を使って守った。反転した。
右足を振った。
低く速く、GKの右下へ。
入った。
一対〇。
七万人が爆発した。
合計スコア二対三。まだ二点差がある。でも最初の一点が入った。
ニコラスは右手を上げた。走った。
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レアルが落ち着きを取り戻した。
ボールを動かし始めた。ヴィラのプレスをいなした。焦らなかった。失点しても、慌てなかった。
それがこのクラブの強さだった。
でもヴィラも止まらなかった。
三十三分、サンチョが右サイドで仕掛けた。クロスが来た。ニコラスがファーサイドへ走った。
合わせた。
GKが弾いた。
こぼれ球が来た。ニコラスが右足で押し込んだ。
二対〇。
合計三対三。同点になった。
スタジアムが揺れ続けた。
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前半が終わった。
ロッカールームでエメリーが言った。「前半で追いついた。後半、一点取れば逆転だ。守備を崩すな」
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後半が始まった。
五十一分、レアルがカウンターに出た。
ヴィニシウスが受けた。スペースがあった。マルティネスが飛び出した。
ヴィニシウスが浮かせた。
バーに当たった。
入らなかった。
スタジアムが息を飲んだ。
マルティネスが立ち上がった。何か言った。スペイン語だった。自分に向けた声だった。
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ヴィラが攻め続けた。
ニコラスがエリアに侵入した。DFが二枚来た。挟まれた。でも体が低くなった。抜けた。
シュートを打った。
GKが弾いた。
六十三分、オナナが頭で落とした。ニコラスが受けた。
反転した。
右足を振った。
ポストに当たった。
入らなかった。
ニコラスはポストを一秒見た。それから前を向いた。
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七十二分。
レアルが攻めた。
ベリンガムがボールを持った。ティーレマンスが出た。ベリンガムはもうはたいていた。中盤を経由して、右サイドへ展開した。
クロスが来た。
マルティネスが前に出た。
パンチングした。
クリアが短かった。
レアルの選手が拾った。
シュートした。
入った。
二対一。
合計三対四。一点差に戻った。
スタジアムが静かになった。
一瞬だった。七万人の声が、一瞬止まった。
それからまた声が出た。諦めていなかった。まだ鳴り続けた。
でも数字は変わらなかった。
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残り十八分、ヴィラは二点取らなければならなかった。
エメリーがサンチョを下げてFWをもう一枚入れた。
ニコラスは前を向いた。
二点。取れるかどうかではなく、取りに行く。
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七十九分、ニコラスがボールを受けた。
ペナルティエリアの手前。角度がなかった。
それでも蹴った。
強く、低く。
入った。
三対一。合計四対四。あと一点。
スタジアムがまた揺れた。
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八十三分、レアルがカウンターに出た。
ヴィニシウスが受けた。誰も追いつけなかった。
マルティネスと一対一になった。
シュートした。
マルティネスが弾いた。
こぼれ球が来た。
押し込まれた。
三対二。合計四対五。
スタジアムが息を飲んだ。
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八十六分、コーナーキックが来た。
全員がエリアに入った。
ボールが上がった。
混戦になった。
こぼれ球をニコラスが右足で叩いた。
GKが反応した。
止められた。
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そのまま試合が終わった。
三対二。合計四対五。
ヴィラは敗退した。
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七万人が、しばらくその場を離れなかった。
選手たちがピッチを一周した。サポーターがまだ声を出していた。
ニコラスはそのピッチを歩きながら、スタンドを見た。
クラレットと青の波。今日のために来た七万人。
このスタジアムで、レアル・マドリードと戦った。
三点取った。でも届かなかった。
FAカップのエバートン戦と同じだ、とニコラスは思った。ゴールを取っても、届かない試合がある。でもあのときとは違う。あのときは「チームが同じ水準でなければ」と思った。今日は、チームとして戦った。でも届かなかった。
それが今の自分たちの限界だ。
そしてレアル・マドリードは、その限界の先にいる。
来季、また来る。
ここまで来たなら、その先へ行く。
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ロッカールームで、エメリーが最後に言った。
「誇りを持て。ベルナベウで戦って、ヴィラパークでここまで戦えるクラブは多くない。今日見せたものを、来季への土台にしろ」
静かだった。でも沈んではいなかった。
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着替えながら、ニコラスはスペインのことを思った。
ベルナベウで試合をした。マドリードの空を見た。スペイン語が飛び交う中でゴールを決めた。
父がいたかもしれない国で、父が守っていたゴールとは逆の側から、ボールを蹴り込んだ。
それが何かを意味するのかどうか、まだわからなかった。
でも今日、スペインのクラブと戦った。
その事実は、ここに残る。
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翌日、マルティネスが練習後に声をかけた。
「昨日、よく戦った」
「負けた」
「そうだ」マルティネスは頷いた。「でもベルナベウで一点取って、ヴィラパークで三点取った。レアルに三失点しかさせなかった。それがお前たちの今の実力だ」
ニコラスは少し間を置いた。
「スペインで、何か感じたか」とマルティネスが聞いた。
「音が」とニコラスは言った。
「音?」
「スペイン語の音が、どこかで聞いたことのある感じがした」
マルティネスはしばらくニコラスを見た。
「父親の声か」
ニコラスは答えなかった。
でも否定もしなかった。
マルティネスは「そうか」とだけ言った。それ以上追わなかった。
二人は並んで、グラウンドを引き揚げた。
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