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沈黙のストライカー  作者: ムーミンの丸焼き
チェスターフィールド

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デビュー


---


ゲイリー・ホッブスは四十二歳で、チェスターフィールドFCのキャプテンだった。


センターバックとして二十年プレーして、膝は二度手術して、髪は半分以上白くなっていた。妻と三人の子供がいて、試合のない日曜日は庭でバーベキューをするのが好きだった。チェスターフィールドという街で生まれて、チェスターフィールドという街で育って、チェスターフィールドというクラブで老いていく男だった。


その男が、新加入選手の名前を聞いたとき、最初に言ったのはこれだった。


「十七歳?」


コーチは頷いた。


「ユースから上がってきた。半年しかやってない」


ゲイリーはしばらく黙っていた。


「半年?」


「半年だ」


また黙った。


「正気か?」


「お前が面倒を見ろ」


ゲイリーは天井を見た。それから深く息を吸って、吐いた。四十二年生きてきて、人生で一番理不尽な仕事を押しつけられた顔をした。


---


ニコラスがロッカールームに入ってきたとき、中にいた全員が一瞬動きを止めた。


十七歳には見えなかった。顔は若いが、体は完全に出来上がっていた。百九十センチ近い体躯に、肩から手首まで黒いタトゥー。コートを脱いだ腕の太さを見て、ベテランの選手が隣の選手に小声で何か言った。


ニコラスは部屋を見回して、空いているロッカーに向かった。誰とも目を合わせなかった。


「おい」


ゲイリーが立ち上がって声をかけた。


ニコラスが振り返った。碧い目がゲイリーを見た。愛想もなく、緊張もなく、ただ見た。


ゲイリーは一瞬だけたじろいだ。十七歳の目ではなかった。


「ゲイリー・ホッブス。キャプテンだ」


「ニコラス・ロメロ」


「知ってる」ゲイリーは手を差し出した。「よろしくな」


ニコラスはその手を握った。ゲイリーは生涯で様々な人間と握手をしてきたが、これほど力強い握手は記憶になかった。思わず顔が緩んだ。


「怪我させる気か」


ニコラスは何も言わなかった。でも口の端が少しだけ動いた。


その瞬間、ゲイリーは思った。こいつは大丈夫だ、と。


---


最初の一週間、ニコラスはほとんど喋らなかった。


練習では誰よりも早く来て、誰よりも遅く帰った。それはユース時代と変わらなかった。違ったのは、プロの練習の強度だった。フィジカルのぶつかり合いは格段に激しくなり、プレースピードは別次元だった。


ニコラスは初日の練習で、チームの守備の要であるデイヴィッド・マッコールという三十五歳のセンターバックに三度吹っ飛ばされた。


三度とも、すぐに立ち上がった。


四度目、ニコラスは吹っ飛ばされなかった。


マッコールは珍しく驚いた顔をした。ニコラスはボールをゴールに流し込んで、振り返りもせずに戻った。


その夜、マッコールはゲイリーに電話をかけた。


「あの子、本当に半年しかやってないのか」


「そうらしい」


「信じられん」


「俺もだ」


少し間があった。


「でも目が怖いな」とマッコールは言った。


「怖くない」とゲイリーは言った。「真剣なだけだ」


---


転機は二週目の木曜日だった。


練習後、グラウンドに一人残ってシュート練習をしているニコラスのところに、ゲイリーが戻ってきた。忘れ物を取りに来ただけだったが、足を止めた。


ニコラスは黙々とボールを蹴っていた。百本、二百本。フォームが少しずつ変わっていた。自分で何かを試しながら、修正しながら、また蹴っていた。


ゲイリーはしばらくそれを見ていた。それからグラウンドに入って、ゴールの前に立った。


「蹴ってみろ」


ニコラスが振り返った。


「見ていてください」


ゲイリーは頷いた。GKの代わりに立てるわけではない。センターバックとして、FWの動きを長年見てきた目がある。それで十分だった。


五本蹴った。全部がゴールに突き刺さった。コースがばらばらで、どれも読めなかった。


「なんでそこに蹴るかわかるか」とゲイリーは聞いた。


「GKが動き始める前に、決まってるから」


ゲイリーはしばらく黙っていた。センターバックとして何百回もFWと対峙してきた。マークする立場から言えば、このタイプが一番厄介だった。考える前に蹴る。予測ができない。


「誰かに教わったのか」


「いいえ」


「そうか」ゲイリーはグラウンドを見渡した。「もう少し付き合うか」


「お願いします」


それからゲイリーは一時間、ニコラスのシュート練習に付き合った。守備側の目線から、どういう動きが読みにくいか、どのタイミングで蹴られると対応できないか、経験から来るものを少しずつ話した。ニコラスは一言も無駄口を叩かず、全部吸収した。


帰り道、ゲイリーは空を見上げた。


すっかり暗くなっていた。


妻から夕食の催促の電話が三件来ていた。


---


プロデビューは、リーグ開幕から二節目のホームゲームだった。


スタメンではなかった。後半二十分からの途中出場だった。スコアは一対一。ゲイリーがベンチを振り返ると、ニコラスがウォームアップゾーンの端に立って、ピッチを見ていた。表情は変わらなかった。緊張しているのか、していないのか、わからなかった。


コーチがニコラスを呼んだ。


「行ってこい」


「はい」


それだけだった。


ニコラスがピッチに入ったとき、スタジアムにいた数百人の観客のうち、どれほどがこの選手を知っていたかわからない。地元のサポーターはほとんどが顔見知り同士で、見知らぬの若い選手には最初、大きな歓声は起きなかった。


それが変わったのは、入ってから四分後だった。


右サイドからのクロスがゴール前に入った瞬間、ニコラスの体が動いた。考えるより前に。マーカーが体を寄せてきたが、関係なかった。右足のインステップで合わせた。ボールはGKの手をかすめてネットに突き刺さった。


スタジアムが沸いた。


ゲイリーはベンチから立ち上がって笑った。マッコールが隣で何か叫んでいた。


ピッチの中央では、ニコラスが立っていた。


チームメイトが飛びついてきた。揉みくちゃにされた。ゲイリーの目には、その中でニコラスが少し戸惑っているように見えた。抱きつかれることに慣れていないような、受け取り方がわからないような。


でも振りほどかなかった。


されるがままに、そこに立っていた。


---


試合後、ロッカールームは騒がしかった。二対一で勝ったこともあったが、誰もがニコラスのゴールの話をしていた。


「お前、デビュー戦でゴールか」とマッコールが言った。「俺のデビュー戦は何もできなかったぞ」


「俺も」とゲイリーが言った。「緊張してボールを触れなかった」


ニコラスは着替えながら聞いていた。


「緊張しなかったのか」とマッコールが聞いた。


少し間があった。


「しました」


「嘘をつけ」


「本当です。でも、ゴールを決めたら無くなりました」


ロッカールームが笑いに包まれた。ニコラスは笑わなかったが、それも笑いのネタになった。


「笑えよ」とゲイリーが言った。


「これが笑ってる顔です」


また笑いが起きた。


ニコラスはその笑い声を聞きながら、着替えを続けた。うるさかった。でも不思議と、悪くなかった。


---


帰り道、ゲイリーが隣を歩いた。


「母親にゴールの話をするか」


ニコラスは少し考えた。


「帰ったらもう寝てると思います」


「起こせ」とゲイリーは言った。「デビュー戦のゴールなんて、一生に一回しかない」


ニコラスは何も言わなかった。


家に帰ると、グレースは起きていた。台所の灯りがついていた。


ニコラスがドアを開けると、彼女は振り返って、息子の顔を見た。何も聞かなかった。でもわかったのだろう。ニコラスの顔に、普段とは少し違う何かがあったから。


「ゴール、決めたよ」


グレースはしばらく黙っていた。


それからゆっくり立ち上がって、お湯を沸かし始めた。


二人でお茶を飲んだ。チェスターフィールドの夜は静かだった。

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