監督
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十二月の初旬、エメリーがニコラスを呼んだ。
個別ミーティングだった。
監督室は小さかった。ホワイトボードと机と椅子だけの部屋だった。壁に戦術ボードが貼ってあった。
「座れ」とエメリーは言った。
ニコラスは座った。
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エメリーはしばらくニコラスを見た。
「今シーズン、何点取った」
「十一点です」
「リーグだけで」
「そうです」
「十二月の時点でそれは良い数字だ」エメリーは言った。「でも俺が話したいのは数字じゃない」
ニコラスは待った。
「お前は今、どうやってゴールを取っている」
「体が動いています」
「体が動いている、とはどういうことだ」
ニコラスは少し考えた。
「考えてから動くのではなく、動いてから考えている。体がコースを先に決めている」
エメリーは頷いた。
「それは正しい。お前の強みはそこだ。でも俺が気になっていることがある」
「何ですか」
「対策が増えた。十月から、相手のマーカーが増えた。それでもお前は点を取り続けている。なぜだと思う」
「ワトキンスが交代で入ることで、マークが分散します。スペースが生まれる」
「それもある」エメリーは言った。「でもそれだけじゃない。お前が変わった部分がある」
「わかりません」
エメリーはホワイトボードに何かを書いた。ニコラスの動きのパターンだった。
「九月と今を比べろ。九月、お前はエリアの中心に向かって動いていた。今は外から入る動きが増えた。相手のDFの外側を取ってから中に入る。この変化は、誰かに言われたのか」
「言われていません」
「体が変えたのか」
「気づいていませんでした」
エメリーはそれを聞いて、少し口角を上げた。笑ったのか、確認できなかった。
「それが面白い」とエメリーは言った。「教わらずに変化する。でも問題がある」
「何ですか」
「無意識の変化は、崩れるときも無意識だ。調子が落ちたとき、何が崩れているかを自分で言語化できなければ、修正できない」
ニコラスはその言葉を聞いた。
「だから今日、言語化しろということですか」
「そうだ」エメリーは頷いた。「今シーズン中に一度、自分の動きを頭で理解しろ。体だけで動き続けるのは今の段階では正しい。でもいつか、体が動かなくなる日が来る。怪我、疲労、年齢。そのとき、頭が補えるかどうかが、この先十年を決める」
ニコラスはホワイトボードの図を見た。
自分の動きが、線で描かれていた。体が知っていることが、図になっていた。
「やってみます」
「やってみる、ではない」エメリーは静かに言った。CH24の初対面と同じ口調だった。「もうお前にはわかっている。だから描けた」
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ミーティングが終わった。
廊下に出て、ニコラスはしばらく立っていた。
自分の動きが図になっていた。体が先に知っていることが、言葉と線になっていた。
エメリーは「十年を決める」と言った。
今のニコラスは十九歳だった。十年後、二十九歳のニコラスがどこにいるかは、まだ見えていなかった。でもエメリーにはその図が見えているらしかった。
ヴィラに来て良かった、とニコラスはそのとき初めて、明確な言葉で思った。
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