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沈黙のストライカー  作者: ムーミンの丸焼き
アストン・ヴィラ1年目

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38/112

監督


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十二月の初旬、エメリーがニコラスを呼んだ。


個別ミーティングだった。


監督室は小さかった。ホワイトボードと机と椅子だけの部屋だった。壁に戦術ボードが貼ってあった。


「座れ」とエメリーは言った。


ニコラスは座った。


-----


エメリーはしばらくニコラスを見た。


「今シーズン、何点取った」


「十一点です」


「リーグだけで」


「そうです」


「十二月の時点でそれは良い数字だ」エメリーは言った。「でも俺が話したいのは数字じゃない」


ニコラスは待った。


「お前は今、どうやってゴールを取っている」


「体が動いています」


「体が動いている、とはどういうことだ」


ニコラスは少し考えた。


「考えてから動くのではなく、動いてから考えている。体がコースを先に決めている」


エメリーは頷いた。


「それは正しい。お前の強みはそこだ。でも俺が気になっていることがある」


「何ですか」


「対策が増えた。十月から、相手のマーカーが増えた。それでもお前は点を取り続けている。なぜだと思う」


「ワトキンスが交代で入ることで、マークが分散します。スペースが生まれる」


「それもある」エメリーは言った。「でもそれだけじゃない。お前が変わった部分がある」


「わかりません」


エメリーはホワイトボードに何かを書いた。ニコラスの動きのパターンだった。


「九月と今を比べろ。九月、お前はエリアの中心に向かって動いていた。今は外から入る動きが増えた。相手のDFの外側を取ってから中に入る。この変化は、誰かに言われたのか」


「言われていません」


「体が変えたのか」


「気づいていませんでした」


エメリーはそれを聞いて、少し口角を上げた。笑ったのか、確認できなかった。


「それが面白い」とエメリーは言った。「教わらずに変化する。でも問題がある」


「何ですか」


「無意識の変化は、崩れるときも無意識だ。調子が落ちたとき、何が崩れているかを自分で言語化できなければ、修正できない」


ニコラスはその言葉を聞いた。


「だから今日、言語化しろということですか」


「そうだ」エメリーは頷いた。「今シーズン中に一度、自分の動きを頭で理解しろ。体だけで動き続けるのは今の段階では正しい。でもいつか、体が動かなくなる日が来る。怪我、疲労、年齢。そのとき、頭が補えるかどうかが、この先十年を決める」


ニコラスはホワイトボードの図を見た。


自分の動きが、線で描かれていた。体が知っていることが、図になっていた。


「やってみます」


「やってみる、ではない」エメリーは静かに言った。CH24の初対面と同じ口調だった。「もうお前にはわかっている。だから描けた」


-----


ミーティングが終わった。


廊下に出て、ニコラスはしばらく立っていた。


自分の動きが図になっていた。体が先に知っていることが、言葉と線になっていた。


エメリーは「十年を決める」と言った。


今のニコラスは十九歳だった。十年後、二十九歳のニコラスがどこにいるかは、まだ見えていなかった。でもエメリーにはその図が見えているらしかった。


ヴィラに来て良かった、とニコラスはそのとき初めて、明確な言葉で思った。


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