ファイター
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十一月、CLリバプール戦から数日後のリーグ戦。
その試合、エメリーはワトキンスをベンチに置いた。
CLで連戦が続いていた。ワトキンスに休息を与えるための判断だった。ニコラスが一トップで先発した。
ロッカールームを出るとき、ワトキンスの顔を見た。
目が違った。静かなときの目ではなかった。燃えていた。でも火の出し方を探しているような、蓋をされた燃え方だった。
何も言わなかった。ニコラスも何も言わなかった。
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前半は〇対〇で終わった。
ニコラスは決定機を一度作ったが、シュートがGKの正面に飛んだ。相手の守備が整っていた。一トップでは孤立する場面が多かった。
ハーフタイム、ロッカールームに戻ると、ワトキンスがエメリーのところへ行った。
「出してくれ」とワトキンスは言った。声が低かった。
「後半から使う」とエメリーは答えた。
「前半から出るべきだった」
ロッカールームが少し静かになった。
エメリーは動じなかった。「そうかもしれない。でも俺が決める」
ワトキンスは何も言わなかった。でも体が動いていた。隅のほうへ行って、壁に手をついた。深呼吸を一回した。それだけだった。
ニコラスはそれを見ていた。
怒っていた。でも崩れなかった。壁に手をついて、一回深呼吸して、もう次の準備をしていた。あの感情の出し方は、弱さではない。それだけ試合に出たいという燃料が、33歳のまだこんなに太かった。
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後半が始まった。
ワトキンスが入った。ニコラスと交代だった。
最初の十分、ワトキンスは誰よりも走った。前からプレスをかけた。裏への抜け出しを繰り返した。
六十七分、ティーレマンスからボールが来た。ワトキンスが受けた。DFが一枚来た。
止まらずに蹴った。
入った。
一対〇。
スタジアムが揺れた。
ワトキンスは拳を握った。声を出した。チームメイトが飛んできた。
ニコラスのところへも来た。
肩を叩いた。言葉はなかった。でも叩き方が、いつもの短い頷きとは違った。何かを込めた叩き方だった。
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試合は一対〇で終わった。
ロッカールームで、エメリーが言った。「後半の入り、良かった。ワトキンス、前半のことは聞こえていた。その気持ちは正しい。それがあるから、お前はここにいる」
ワトキンスは頷いた。もう顔が戻っていた。静かな目だった。
着替えながら、ニコラスは今日のハーフタイムを思い返した。
壁に手をついて、深呼吸を一回した。
怒ることと、そこから動くことを、あの選手は知っている。34年間かけて学んだことだ。
ニコラスには怒りがない。ベンチに置かれても、使われなくても、感情が動かない。それが強みでもあった。でもワトキンスの燃え方の中に、自分にはないものがあった。
何かを言語化できなかった。
でもその夜、いつより早く眠れた。
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