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沈黙のストライカー  作者: ムーミンの丸焼き
アストン・ヴィラ1年目

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34/110

チャンピオンズリーグ――リバプール


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十一月の第一週、チャンピオンズリーグのリーグフェーズ第三節。


ヴィラパークに、リバプールが来た。


CLとプレミアは別の大会だった。当然のことだが、ピッチに立つと、その違いが体に入ってきた。


試合前のセレモニー。アンセムが流れた。


ニコラスはそれを聞きながら、ピッチの中央に立っていた。


コンヤでUEFAヨーロッパリーグに出たことがある。でもチャンピオンズリーグは違った。音楽の重さが違った。スタジアムの空気の種類が違った。七万人が、同じものを待っていた。


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ニコラスはアップ中にAKIを探した。


すぐ見つかった。いつもの長髪。小さい体。でも動き方に迷いがなかった。CLのピッチを、自分の庭のように走っていた。


そうだ、とニコラスは思った。


AKIはCLに慣れている。リバプールは毎年ここにいる。自分たちヴィラには、この舞台は新しい。でもあの選手には、プレミアと同じように当たり前の場所だ。


目が合った。


AKIが笑って手を上げた。


ニコラスは小さく頷いた。


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試合が始まった。


リバプールが違った。プレミアで対戦したときとも、また違った。


CLに入ると、スイッチが変わるチームがある。リバプールはそのチームだった。プレスの速度が上がった。パスの精度が上がった。選手たちの目が、別の光を持っていた。


AKIは左サイドで動き続けた。プレミアのときより、さらに自由に見えた。制約がなかった。CLのピッチで、体が解放されているような動き方だった。


十四分、AKIがドリブルで仕掛けた。キャッシュが出た。AKIは止まらなかった。縦に抜いた。クロスを上げた。ファーサイドで合わせられた。


〇対一。


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二十二分、ニコラスがボールを受けた。


ペナルティエリアの中。DFが一枚来た。


止まらなかった。


DFの内側に体を入れた。ボールを引き込んだ。右足を振った。


GKの右下を抜いた。


一対一。


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三十一分、またAKIが仕掛けた。


今度は中に切り込んだ。コンサが対応した。AKIは切り返して、外に流して、低いクロスを入れた。中央で合わせられた。


一対二。


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ハーフタイム。ロッカールームでエメリーが言った。


「落ち着け。あのチームはCLで変わる。それは知っていた。でも一点差だ。後半、取り返せる」


ニコラスは頷いた。


一点差。後半、また点を取る。それだけを考えた。


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後半が始まった。


五十三分、ロジャーズからパスが来た。


ペナルティエリアの外、左寄りだった。


止まらずに蹴った。


右足のインサイドで巻いた。ボールが曲がりながら落ちた。GKが動いた。


右上の隅に入った。


二対二。


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でも六十一分、取られた。


リバプールのカウンターだった。AKIが起点になった。前線へ一本、速いパスが出た。走り込んだ選手がマルティネスと一対一になった。


決められた。


二対三。


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七十五分、ニコラスがまたボールを受けた。


ペナルティエリアの右端。DFが二枚来た。


挟まれた。


でも一枚が重心を傾けた瞬間が見えた。


逆を突いた。


スペースが生まれた。


左足で蹴った。


入った。


三対三。


ヴィラパークが揺れた。


ハットトリック。CLのピッチで、ハットトリック。


でもニコラスの頭の中は、すでに次を考えていた。三対三だ。試合はまだある。


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八十三分。


リバプールがまた仕掛けた。


AKIがボールを持った。右サイドに流れた。今度はキャッシュが距離を保って対応した。


AKIは止まった。


止まって、中を見た。


パスを出した。


中央の選手が受けた。ワンタッチでシュートした。


マルティネスが弾いた。


こぼれ球が来た。


押し込まれた。


三対四。


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残り七分、ヴィラは攻め続けた。


ニコラスが走った。ボールを受けた。シュートした。


枠の外れた。


もう一度来た。ヘッドで合わせた。


GKが止めた。


試合が終わった。


三対四。


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ロッカールームは静かだった。


ハットトリックを取った選手のいるロッカールームが、これほど静かなのは不思議な光景だった。でも誰も何も言わなかった。


ニコラスは着替えながら、試合を頭の中でなぞった。


三点取った。


でも四点取られた。


ハットトリックは個人の記録だ。でも試合はチームのものだ。三点取っても、四点取られれば負ける。


リバプールはCLで生きている、と思った。あのチームはこの舞台を知っている。AKIも、チームメイトも、CLのピッチで別のスイッチが入っていた。


自分たちはまだ、その舞台に慣れていない。


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通路でAKIと鉢合わせた。


AKIは笑っていた。でもいつもの軽い笑顔とは少し違った。試合の後の、充実した顔だった。


「ハットトリック、すごかった」とAKIが言った。「本当に。でも——」


「負けた」とニコラスは言った。


「そう」AKIは少し真面目な顔になった。「CLはそういう大会だよ。プレミアとまた違う」


「わかった」


「でも今日のゴール、全部違うコースだったの気づいてた?」


ニコラスは少し間を置いた。


「気づいていなかった」


「一点目は右下、二点目は右上、三点目は左。全部コースを変えてた。意識してた?」


「していない」


AKIはそれを聞いて、また笑った。


「やっぱり。体が変えてたんだ。すごいな」


ニコラスはAKIを見た。


「CLはどう違う」


「え?」


「プレミアとCLで、何が違う」


AKIは少し考えた。


「……相手が全員、CLを知ってる。プレミアは毎年新しいチームが来るけど、CLに来るチームは大体いつもここにいる。だから試合の進め方を知ってる。焦らない。どこかで必ずチャンスが来るって信じて動いてる」


ニコラスはその言葉を聞いた。


焦らない。チャンスが来ると信じている。


「来年はもっとやる」とニコラスは言った。


「俺も」AKIは笑った。「でも今日は俺たちが勝った。おやすみなさい」


先に歩いていった。


ニコラスはその背中を少し見た。


あの選手はCLを知っている。今日の自分たちには、まだないものを持っている。


来年。この舞台でもっとやる。


それだけを、静かに思った。


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