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沈黙のストライカー  作者: ムーミンの丸焼き
アストン・ヴィラ1年目

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33/109

データ


-----


十月の第二週、ゾーイがバーミンガムに来た。


ロンドンから電車で一時間半。いつもより大きいトートバッグを持っていた。


「なぜバーミンガムに来た」とニコラスは聞いた。


「メッセージじゃ伝わらないことがあるので」とゾーイは言った。「直接見せたいものがあります」


-----


クラブ近くのカフェに入った。


ゾーイはコーヒーを頼んだ。ニコラスはお茶を頼んだ。それはコンヤのころから変わっていなかった。


「リバプール戦の後から、状況が変わっています」とゾーイはタブレットを取り出しながら言った。


「負けた試合か」


「負けた試合です。でも見られ方が変わった」


画面にデータが並んだ。各チームのスカウティングレポートの傾向分析、ニコラスの動きパターンを示すヒートマップ、マーカーの枚数の試合ごとの推移。


「リバプール戦以降、対戦チームのニコラスへのマーク枚数が増えています。平均一・八枚から二・三枚に上がった。今後さらに増える可能性があります」


ニコラスはそれを見た。


体で感じていたことが、数字になっていた。


「わかっていた」


「わかっていたと思います。でも見える化しておきたかった」ゾーイは画面をスクロールした。「それから、これ」


別のデータが出た。ニコラスのシュートコースの分布。右足、左足、ヘッド。コースのパターン。


「コース分析も共有されています。特に右足のシュート、ファーポスト狙いの傾向が読まれ始めている。先週の試合でGKが事前にポジションを変えていたのは、その対策です」


ニコラスはコーヒーカップを置くゾーイの手を少し見た。


「それも体で感じていた」


「そうでしょう」ゾーイは頷いた。「でもニコラスが感じているものと、相手チームが数字で把握しているものが一致してきた。それは次の段階に入ったということです」


「次の段階」


「対策された上でどう取るか、ということです。今まではルガーノでもコンヤでも、対策はされてきた。でもプレミアの精度とスピードで対策されるのは初めてです」


ニコラスは画面を見た。自分の動きが、赤いヒートマップとして可視化されていた。


自分の体が、データになっている。その事実を初めて実感した。でも怖くはなかった。むしろ、次にどうするかが見えてきた気がした。


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「もう一つ話したいことがあります」とゾーイは言った。タブレットを閉じた。


「なんだ」


「メディアです。リバプール戦の後、イギリスのスポーツメディアがニコラスに注目し始めています。インタビューの依頼が今週だけで四件来ました。スポンサーからの打診も二件」


「断れ」


ゾーイは少し間を置いた。


「全部、ですか」


「全部」


「理由を聞いてもいいですか」


「今は関係ない」


ゾーイはそれを聞いて、何か言おうとして、やめた。一秒考えてから、また口を開いた。


「わかりました。ただ、将来的には向き合う必要があります。それだけ伝えておきます」


「将来向き合う」


「そうです。今じゃなくていい」


ニコラスはお茶を飲んだ。ゾーイはコーヒーを飲んだ。


しばらく何も言わなかった。


窓の外にバーミンガムの灰色の空があった。


-----


「バーミンガムはどうですか」とゾーイが聞いた。


業務の話ではない口調だった。


「灰色だ」


「チェスターフィールドに似ていますか」


「似ている」


「それは良かった」ゾーイは少し笑った。「似ていない街だったら、もっと時間がかかったかもしれない」


ニコラスは窓の外を見た。


「お前はコンヤのとき、プレミアに行けると思っていたか」


ゾーイは少し驚いた顔をした。ニコラスが過去について聞くのは珍しかった。


「思っていました」


「根拠は」


「データです」ゾーイは迷わず言った。「コンヤのデータ、ルガーノのデータ。上積みの速度が異常だった。止まる理由がなかった」


「でも止まる可能性もあった」


「ありました。怪我、環境、メンタル。どれか一つが崩れれば止まる」


「止まらなかった」


「止まらなかった」ゾーイは頷いた。「それはニコラスが止まらなかったからです」


ニコラスは何も言わなかった。


ゾーイがここまで言葉にするのは珍しかった。いつもは数字と予定表と戦略の話をする。でも今日は少し違った。バーミンガムまで来て、直接話した理由が、データだけではなかったのかもしれないとニコラスは思った。


「いつからエージェントをやっている」


「二十二歳からです」


「今いくつだ」


「二十五です」


ニコラスより六歳上だった。でも六歳の差がどこかに消えているような会話だった。


「お前もまだ一年目みたいなものだな」


ゾーイは一瞬、目が止まった。それから少し笑った。


「そうかもしれません。プレミアのクライアントは、ニコラスが初めてです」


「そうだったのか」


「そうです」


二人はまた少し黙った。


「うまくやれているか」とニコラスは聞いた。


「今のところは」とゾーイは答えた。「でも判断が合っているかどうかは、もう少し時間が経たないとわかりません」


「俺もそうだ」


ゾーイはそれを聞いて、また少し笑った。今度は最初より自然な笑い方だった。


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カフェを出た。


外の空気は冷たかった。十月のバーミンガムは、もう冬に近かった。


「データのことは考えておく」とニコラスは言った。


「お願いします。コースを増やすことと、読まれにくいタイミングを作ることが優先です」


「わかった」


「インタビューは引き続き全部断ります。でもシーズンが終わったら、一度話しましょう」


「そのときに話す」


ゾーイはバッグを肩にかけた。


「駅まで歩きます」


「送る」


「大丈夫です」ゾーイは首を振った。「ニコラスは練習があるでしょう」


「午後からだ」


ゾーイは少し考えてから、「ではお願いします」と言った。


二人で駅へ向かって歩いた。


バーミンガムの灰色の街が、二人の両側にあった。


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