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沈黙のストライカー  作者: ムーミンの丸焼き
アストン・ヴィラ1年目

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29/110

9番と9番


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九月の終わり、マンチェスター・シティがヴィラパークに来た。


シティは開幕から好調だった。ハーランドがすでに八ゴールを取っていた。プレミアで最も点を取り続けている男が、今日のピッチに立つ。


ニコラスはアップ中にその背番号9を見た。


大きかった。ニコラスより背が高く、肩幅が広く、ピッチの上に立つだけで空間を占有していた。でも動き方がゆっくりだった。そのゆっくりさは、怠慢ではなかった。次の爆発のために、最小限のエネルギーしか使わない動き方だった。


ニコラスはそれを少し見た。


プレミアで最も警戒されているFWが、どうやってポジションを取るかを、観察として見た。


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## ハーランド視点


アーリング・ハーランドはアップ中、チームメイトと何か話して笑っていた。


試合前でも、ハーランドの表情は明るかった。緊張もなく、過度な集中もなく、ただ今日も楽しみだという顔をしていた。それがハーランドのやり方だった。ピッチに入れば体が自然に切り替わる。それまでは普通にしていればいい。


笑いながら、視界の端でヴィラの9番を確認した。


ニコラス・ロメロ。映像は見ていた。プレミア1年目にしては落ち着きすぎている、という印象だった。実物を見ると、さらにそれが強かった。


でかい。動き方が静かだ。


チームメイトが「今日のロメロ、でかいな」と言った。


「俺の方がでかい」とハーランドは笑った。


「ほぼ同じだろ」


「俺の方がでかい」


笑いながら、ハーランドは視線をロメロに戻した。


あの静かな動き方には覚えがあった。ゴール前で爆発するために、それ以外では力を使わない。それは理論で身につけるものではなく、体がそう知っているものだ。


同じ種類だ、とハーランドは思った。


でも今はまだ、自分の方が上だ。


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試合が始まった。


シティのポゼッションが高かった。ボールを動かして、ヴィラを走らせた。ハーランドは前線で静かに構えていた。ボールが来るとき、体が動いた。来ないとき、ほとんど止まっていた。


十九分、ハーランドがボールを受けた。


背中を向けてトラップした。


マルティネスが出てきた。


一対一。


ハーランドはGKを見た。立ち位置が見えた。どこに蹴れば入るか、体が知っていた。


右足を振った。


左下に決まった。


一対〇。


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## ニコラス視点


ゴールを見た。


一対一になったとき、ハーランドの体が選んだコースが見えた気がした。あそこだ、と思ったのと、ボールが飛んだのが、ほぼ同時だった。


正確には——あそこに来ると、体が知っていた。


マルティネスもそれを知っていたはずだ。でも止められなかった。それほど精度が高かった。


あの1対1の判断は、考えていなかった。


ニコラスにはわかった。自分がゴール前で動くときと、同じだ。体が先に答えを出している。


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ヴィラは追いつこうとした。


三十四分、ペナルティエリアの中でボールを受けた。DFが一枚来た。右足で蹴った。GKが止めた。跳ね返りが来た。押し込んだ。


一対一。


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同点になったとき、ハーランドが少しだけこちらを見た。


評価でも敵意でもなかった。


何かがあった。言葉にならない何かが。


すぐ視線を切った。


試合はまだ続いている。


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## ハーランド視点


同点にされた。


ロメロのゴールを、ハーランドは自陣から見ていた。


跳ね返りに反応した速度が速かった。シュートが弾かれる前に、どこに跳ね返るかを体が知っていた。


あれは計算ではない。


プレミア1年目で、それができる。


ハーランド自身が1年目だったとき、プレミアで同じことができたかどうかを、少し考えた。できたと思う。でも、あれほど静かにはできなかった。もっと力任せだった。


あの9番は静かだ。体は大きいのに、動きに無駄な力がない。


来季も当たる。そのときにどうなっているかを、少し楽しみだと思った。


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後半、ハーランドがもう一点取った。六十三分、コーナーキックからヘッドで決めた。


二対一。


ニコラスが取り返そうとした。七十七分にシュートを打った。GKが弾いた。八十三分にヘッドで合わせた。枠の上を越えた。


試合は二対一でシティが勝った。


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試合後、通路でハーランドとすれ違った。


ハーランドは既にユニフォームから着替えていて、チームメイトと何か話して笑っていた。試合が終わった瞬間にスイッチが戻る、という感じだった。


ニコラスが通りかかったとき、ハーランドが気づいた。


「よかったぞ」とハーランドは英語で言った。笑顔だった。試合中とは全く別の顔だった。「あの跳ね返りのゴール、俺だったら同じことをした」


ニコラスは少し間を置いた。


「お前の一点目、見えていた」


「止められなかったろ」


「止められない。でも見えた」


ハーランドはその言葉を聞いた。笑顔のまま、でも目の中が少し変わった。


「どこに来るかわかってたのか」


「体がわかっていた」


ハーランドは少し考えた。それから笑った。でも最初の軽い笑い方とは少し違った。


「俺もそうだ」


それから「お前、プレミア1年目だろ。何年目かと思った」と付け加えた。「落ち着きすぎてる」


「そうか」


「褒めてる」ハーランドは肩をすくめた。「また会おう」


「次は取り返す」


ハーランドは笑った。今度は声が出た。


「それでいい。その方が面白い」


先に歩いていった。チームメイトにまた声をかけて、廊下が少し明るくなるような笑い声が遠ざかっていった。


ニコラスはその背中を見た。


あの笑顔の下に、さっきまでピッチで見ていた別の顔がある。ゴール前で静かに構えて、体が先に答えを出す、あの顔が。


同じ種類の感覚を持ちながら、全く違う人間だ。


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## ハーランド視点


バスに乗りながら、ハーランドはロメロとのやりとりを少し思い返した。


「体がわかっていた」——あの9番はそう言った。


笑いながら話していたが、その一言は本気だった。ハーランドも同じだった。GKの立ち位置が見えると、どこに蹴れば入るかを体が知っている。それは技術ではなく、感覚だった。説明できない。でも毎試合、そこにある。


プレミアにそういう選手はほとんどいない。


今日、一人見つけた。


十九歳。1年目。まだ荒削りな部分がある。でもその感覚は、磨けば磨くほど鋭くなる種類のものだ。


チームメイトが隣で何か言った。ハーランドは笑って返した。


窓の外を見た。


来季が、少し楽しみになった。


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ロッカールームに戻って、ニコラスは一人で着替えた。


負けた。二対一だった。


ハーランドに二点取られた。


でもニコラスの中には、損失よりも別のものが残っていた。


あのゴール前の動き方。静かで、大きくて、体が先に知っている。自分と同じ種類の感覚を、別の体で実現している。


「俺もそうだ」とハーランドは言った。


ニコラスはそれを、確認として受け取った。


自分の感覚は、間違っていない。


プレミアで最も点を取り続けている男が、同じ感覚でやっている。


ならば、次は取り返す。


あと二点多く取る。


それだけを、静かに思った。


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