スペイン語
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練習の翌日、パウ・トーレスがまた話しかけてきた。
「昨日、スペイン語を教えてやると言ったが」
「言った」
「断られたけどな」
「また今度と言った」
「今日がその今度だ」トーレスは笑った。背が高くて、笑うと少し子供みたいな顔になった。
「ロメロって名前、スペイン系か?」
ニコラスは少し間を置いた。
「父がスペイン人だった。もういない」
短く答えた。それ以上言うつもりはなかった。
トーレスは笑うのをやめた。でも暗くもならなかった。ただ、そうか、という顔をした。
「バレンシア出身か?」
「知らない」
「知らない?」
「聞いたことがない」
トーレスはしばらく何かを考えるような顔をした。それから「そうか」とだけ言った。
それ以上聞かなかった。
その代わりに、翌日から変わった。
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すれ違うとき、トーレスがスペイン語で声をかけてくるようになった。
「Hola.」
「Buenas.」
「Bien jugado.」
意味はわからなかった。でも挨拶だということはわかった。最後のやつは練習でゴールを決めた後だったから、おそらく褒めている。
ニコラスは毎回「ありがとう」と英語で返した。
トーレスはそれで満足しているようだった。正確な返答を求めていない。ただそこに言葉を置いている、という感じだった。
ニコラスにはその感覚が理解できなかった。でも不快でもなかった。
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木曜日の練習中、マルティネスがミスをした。
シュート練習で、ニコラスのシュートがファーポストに当たってゴールインした。マルティネスはポジションを少し外していた。GKとしてあってはならないミスだった。
マルティネスが独り言を言った。
スペイン語だった。
意味はわからなかった。でも声のトーンが、低くて短くて、自分に向けた言葉だということだけはわかった。怒りではなかった。もっと内側に向いた、責めるような声だった。
ニコラスはそれを聞いた瞬間、手が止まった。
父が台所で独り言を言っていた。
夜、酔っていないとき。皿を洗っているのかもしれない音がして、それからつぶやく声がした。英語ではなかった。ニコラスは七歳か八歳で、意味などわかるはずもなかった。でもその声のトーンを——低くて、短くて、自分の内側に向けた声を——
覚えていた。
「ニコラス、次」とコーチが呼んだ。
ニコラスは手を動かした。助走して蹴った。
何を考えていたのか、もうわからなかった。
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その日の午後の練習で、ニコラスはゴールを決めた。
ティーレマンスからのパスをフリックして、ロジャーズが落とした。ニコラスはペナルティエリアの中でそれを受けて、GKの逆を突いた。
練習用のゴールネットが揺れた。
チームメイトが軽く拍手した。ロジャーズが「ナイス」と言った。
ニコラスは走りながら減速して、ゴールの横で少し立った。
目が熱かった。
なぜかがわからなかった。試合ではない。練習のゴールだった。チームメイトは次の動きに移っていた。
ニコラスは目を伏せた。
まばたきをした。
それだけで、熱さは消えた。
誰にも気づかれなかった。
何が起きたのかは、自分でもわからなかった。マルティネスの声を聞いてから、何かが体の中で動いていた。それがゴールの瞬間に出てきたのか。でもそれが何かを、言葉にする方法をニコラスは知らなかった。
知ろうとも、しなかった。
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その夜、ニコラスはスマートフォンで何かを調べた。
スペイン語。基本。
いくつかの単語が出てきた。
「Hola」——こんにちは。
「Buenas」——こんにちは、こんばんは。
「Bien jugado」——よくやった。
ニコラスはそれを読んだ。
トーレスが毎日言っていた言葉だった。わかっていたことではあった。でも文字で見ると、少し違う重さだった。
「Bien jugado」。
父がそれを言ったことはなかった。
言える人間ではなかった。あの家でそういう言葉は、空気に乗らなかった。
ニコラスはスマートフォンを置いた。
天井を見た。
別に何も思わなかった。ただ少し、時間が経った。
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翌日の練習前、トーレスがいつものように「Hola」と言った。
ニコラスは少し間を置いた。
「……Hola」と返した。
トーレスは一瞬だけ驚いた顔をした。それからゆっくり笑った。
「なんだ、やるじゃないか」
「昨日調べた」
「正直だな」
「嘘をつく理由がない」
トーレスはまた笑った。「お前は面白い奴だな」
ニコラスは答えなかった。
面白い、という意味がよくわからなかった。でも悪い意味ではないのだろうと思って、それ以上考えなかった。
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練習が終わった後、マルティネスが横に来た。
「スペイン語、覚え始めたと聞いた」
「トーレスが言ったのか」
「あいつはすぐ話す」マルティネスは肩をすくめた。「父親がスペイン人だったんだって?」
「そうだ」
「話せないのか」
「教わっていない」
マルティネスは少し間を置いた。
「教わっていない、か」
それ以上は言わなかった。ニコラスも言わなかった。
マルティネスはしばらく前を見て、それから「まあ、ここにいればそのうち覚える」とだけ言った。
「トーレスがうるさいからな」と付け加えて、先に歩いていった。
ニコラスはその背中を少し見た。
大きなGKだ、とまた思った。
ゴールの前に立つ人間の体だ、と。
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