11番
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九月に入った。
ヴィラの練習で、エメリーがある日2トップを試した。
「ロメロとワトキンスを並べてみる」と言った。「感触だけ見たい」
最初の十本で、エメリーは見切った。
二人が同じスペースへ吸い込まれた。ニコラスが中心に入ろうとすると、ワトキンスがそこにいた。ワトキンスが引いてポストをしようとすると、ニコラスも下がってきた。動きが重なった。
エメリーが笛を吹いた。
「やめる」と言った。「今は時期じゃない」
それだけだった。
二人は同じ一つのポジションを、交互に担う関係に戻った。
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ワトキンスは先発することもあった。ニコラスが先発して途中でワトキンスに交代することもあった。逆もあった。
エメリーは試合ごとに使い分けた。相手の守備が深いときはワトキンスの運動量を選んだ。スペースがある試合はニコラスの得点力を選んだ。どちらが上でも下でもなかった。ただ、試合ごとの判断だった。
ワトキンスはそれについて何も言わなかった。でも先発を外れた日の目は、ニコラスが知っている目だった。燃えている、蓋をされた目。
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九月の中旬、練習後のロッカールームでワトキンスがスマートフォンを見て笑っていた。
珍しかった。
「子供か」とニコラスは言った。
自分でも意外だった。先に声をかけるつもりはなかった。口から出た。
ワトキンスは顔を上げた。少し驚いた顔をした。それから画面を向けた。
二人の子供が走り回っている動画だった。まだ言葉になっていない声で笑いながら転んでいた。
「上が三歳、下が一歳」とワトキンスは言った。
ニコラスはそれを見た。
「いいな」と言った。
自分でも意外な言葉だった。でも本当にそう思った。
ワトキンスは少し考えてから、「お前の父親は?」と聞いた。
「もういない」
ワトキンスは何も言わなかった。動画を閉じなかった。もう一度画面を見て、「そうか」とだけ言った。
それ以上追わなかった。
ニコラスはその「追わなかった」という事実を、どこかに置いた。
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翌朝、ニコラスが練習前にグラウンドへ出ると、ワトキンスがいた。
一人でシュートを打ち続けていた。
前日の練習でワトキンスは決定機を一度外していた。ワトキンスは今日、その場面と同じ角度から、同じ距離から、何度も蹴り続けていた。
ニコラスは黙って反対側に立った。自分のシュート練習を始めた。
二人は何も言わなかった。ただそれぞれのボールを蹴り続けた。
朝のグラウンドに、ボールの音だけがした。
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練習後、ワトキンスが言った。
「父親はGKだったそうだな」
「動き方でわかるのか」
「GKがどこに立つかを、最初から知っている動き方だ。教わったのか」
「教わったわけじゃない」
「だから面白い」とワトキンスは言った。「教わらずに持っている」
少し間があった。
「俺は代表でも何年もやった。でも今、お前が来た。同じポジションを争っている」
ニコラスは何も言わなかった。
「それでも俺はここにいる。出番が来たときに、ちゃんとやるために。それだけだ」
怒りでも諦めでもない口調だった。ただ事実として言った。
ニコラスはその言葉を聞いた。答えが見つからなかった。でもどこかに留まった。
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代表の招集リストが発表されたのは翌週だった。
ニコラスはイングランド代表に選ばれた。ワトキンスの名前もあった。FWの枠は限られていた。スタメンは一枠だ。
クラブでも争う。代表でも争う。
その夜、ワトキンスから短いメッセージが来た。
「代表、お互いがんばろう」
ニコラスは少し間を置いてから返した。
「そうしよう」
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