バーミンガム
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バーミンガムは、グレーだった。
空の色が、チェスターフィールドに似ていた。それだけで、少し落ち着いた。
空港からクラブハウスへの車の中、ニコラスは窓の外を見ていた。街が大きかった。道が太かった。信号が多かった。ルガーノの石畳とも、コンヤの乾いた道とも、まったく違う風景だった。でもチェスターフィールドの灰色の空を知っている体には、どこか慣れた重さがあった。
これが、プレミアリーグの街だ。
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ヴィラパークに着いたのは午後だった。
ゾーイと一緒にクラブのスタッフに迎えられて、施設の中を案内された。ピッチを見た。スタンドを見た。ロッカールームに通された。
チームメイトはいなかった。シーズン前の静かな時間だった。
ロッカールームの壁に番号が並んでいた。ニコラスは自分の番号を探した。
9。
そこだけを見た。
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エメリーと初めて向かい合ったのは、翌日だった。
小柄な男だった。髪が白く混じっていた。目が静かだった。
「よく来た」とエメリーは言った。スペイン語訛りの英語だった。
「ありがとうございます」とニコラスは言った。
エメリーはしばらくニコラスを見た。値踏みではなかった。ただ見ていた。
「お前のことはデータで見た。映像で見た。でも今日、実際に見て、わかった」
「何がわかりましたか」
「最後のピースだ」
ニコラスは何も言わなかった。エメリーが続けた。
「このチームに足りなかったのは、ペナルティエリアの中で確信を持って動ける選手だ。お前はその選手だ」
「やってみます」
「やってみる、ではない」エメリーは静かに言った。「もうわかっている。だからここにいる」
ニコラスはその言葉を聞いた。
ファリネッリも最初に似たことを言った。「あなたをエースとして迎えたい」と。
違う言い方だった。でも同じ重さだった。
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初めてチームメイトと練習したのは、その翌日だった。
ロッカールームに入ると、スペイン語が聞こえた。
マルティネスとパウ・トーレスが話していた。笑いながら話していた。言葉はわからなかった。でも声が、空間に広がる音の質感が——
何かに、引っかかった。
ニコラスは着替えながら、その声を聞いた。意味はなかった。ただ音として耳に入った。
父がいつか独り言を言っていたことがある。台所で、酔っていないときに。何かをつぶやいていた。英語ではなかった。何語かは当時わからなかった。でも声のトーンが——
思い出せない。
思い出せないことに、今初めて気がついた。
ニコラスはシューズを結んだ。
隣のロッカーに人が来た。
11番のユニフォームが掛かっていた。男はニコラスをちらりと見た。目が静かだった。怒りでも歓迎でもなかった。ただ、何かを見定めているような目だった。
「ロメロか」
「そうです」
「ワトキンス」と男は短く言った。「よろしく」
握手をした。短かった。それだけで引き揚げた。
ニコラスはその背中を見た。
11番。9番のロッカーの隣に、11番がある。このチームで最も長くゴールを取り続けてきた選手が、自分の隣にいる。
それ以上は考えなかった。でも何かが、体のどこかに留まった。
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練習が始まった。
ティーレマンスからパスが来た。
速かった。
想定より速かった。ニコラスはトラップした。ボールが来る角度、重さ、スピード、すべてが今まで受けたパスと少し違った。チミニャーニのパスは正確だった。でもこれは正確というより、鋭かった。パスが到達した瞬間にはもう次の動作を要求してくる。受け手の体がついてくることを、最初から信じているような球だった。
トラップしてすぐシュートした。
枠に入った。
ティーレマンスが短く手を叩いた。
ニコラスはもう一度同じ動きをした。また枠に入った。
「速い」とティーレマンスが英語で言った。「トラップじゃなくてもう蹴ってる」
「パスが速いから」
「褒め言葉として受け取っておく」
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マルティネスとの初対面は、練習の後半だった。
シュート練習。ゴールマウスに大きな体が構えた。
アルゼンチン人だということは知っていた。代表のGKだということも知っていた。顔は見たことがあった。でも目の前に立つと、想像よりも圧があった。
縦に長い体だった。腕が長かった。ゴールを、生き物のように守る気配があった。
ニコラスは助走した。
左足でシュートした。
止められた。
マルティネスが右手一本で弾いた。
「やるじゃないか」とマルティネスは言った。スペイン語訛りの英語だった。「でも甘い。コースが読めた」
「もう一本」
「どうぞ」
今度は右足で蹴った。コースを変えた。
入った。
マルティネスは指先で触れた。でも弾ききれなかった。
「それが正解だ」とマルティネスは言った。
ニコラスはゴールを見た。
大きなGKが、ゴールの前に立っている。
父もGKだった。
その事実を、ニコラスは今この瞬間だけ思った。それ以上考えなかった。
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夜、ホテルの部屋でニコラスは天井を見た。
新しい街。新しいチーム。新しいロッカールーム。
ルガーノを去る飛行機の中で、これから始まると思った。
始まっている。
グレースに電話しようか、と思った。
やめた。もう少し、自分の中で整理したかった。
ヴィラパークは七万人入るスタジアムだった。ルガーノは一万人だった。コンヤは三万人だった。
数の問題ではないとわかっていた。でも七万人というのは、まだ体感していない数字だった。
どんな音がするのか。
ニコラスはそれだけを考えながら、目を閉じた。
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