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沈黙のストライカー  作者: ムーミンの丸焼き
ルガーノ

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23/110

別れ



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五月の最終節、ルガーノはリーグ優勝を決めた。


最終節の相手はFCバーゼルだった。ホームゲームだった。試合前からスタジアムの周辺は人で溢れていた。クラブの歴史でも、リーグ優勝は何度もあるわけではなかった。街全体が、今日の試合を待っていた。


ニコラスは試合前のグラウンドアップで、スタンドを見た。


ルガーノのサポーターで埋まっていた。赤と青の旗が揺れていた。子供がいた。老人がいた。家族で来ている人たちがいた。


あのサッカー教室で眼鏡の男の子がいた場所を、ニコラスは何となく探した。見つからなかった。でもどこかにいるかもしれない、と思った。


-----


試合は三対一でルガーノが勝った。


ニコラスは二点を取った。一点はドスサントスが取った。


最後の笛が鳴った瞬間、スタジアムが爆発した。


選手たちが抱き合った。コーチスタッフが泣いていた。ファリネッリがピッチに出てきて、一人ずつ選手を抱擁した。


ニコラスのところに来たとき、ファリネッリは何も言わなかった。ただ強く抱きしめた。


ニコラスも何も言わなかった。


でも背中に監督の手の温かさを感じた。


-----


表彰式は試合後に行われた。


リーグ優勝のトロフィーをキャプテンが持ち上げた。スタジアムが揺れた。


個人賞の発表があった。


得点王、ニコラス・ロメロ。リーグ七十四ゴール。


シーズン最優秀選手、ニコラス・ロメロ。


マンオブザマッチ、シーズン通算三十二回。週間最優秀選手十九回。月間最優秀選手五回。


アナウンスのたびに、スタジアムが反応した。


ニコラスはトロフィーを受け取るたびに、短く頭を下げた。スピーチを求められたが、マイクの前に立って「チームメイトのおかげです」とだけ言った。


それ以外の言葉が出てこなかった。


本当にそうだったから。


-----


表彰式が終わって、ロッカールームに戻った。


ドスサントスが真っ先にニコラスに来た。


「七十四ゴール!リーグだけで七十四!UEFA、カップ戦、代表を全部合わせたら百を超えたんだぞ!」


「百二だった」とニコラスは言った。


「数えてたじゃないか」ドスサントスは笑った。「気にしていないって言いながら」


「ゾーイが教えてくれた」


「なるほど」ドスサントスは笑い続けた。「お前の代理人、本当に仕事熱心だな」


チミニャーニが来た。


「おめでとう」と言って、手を差し出した。


ニコラスは握手した。


「お前のスルーパスがなければ半分も取れなかった」


「俺のパスがなくても、別の方法で取っていた」チミニャーニは静かに言った。でも少しだけ、口元が動いた。


ビスリミが来た。


何も言わずに手を差し出した。ニコラスが握手した。


「ありがとう」とニコラスは言った。


ビスリミは小さく頷いた。それだけだった。でも目が少し赤かった。


-----


ファリネッリに呼ばれたのは、翌日だった。


監督室で向かい合って座った。


「来夏の移籍、決まりそうか」とファリネッリが聞いた。


「ゾーイが動いています。アストン・ヴィラと話が進んでいると」


ファリネッリは頷いた。「いいクラブだ。エメリは良い監督だ」


「そうだと思っています」


ファリネッリはしばらく黙っていた。


「ニコラス、一つだけ聞いていいか」


「どうぞ」


「ルガーノに来て、よかったか」


ニコラスは少し間を置いた。


トリノかルガーノか、という選択をした夜のことを思い出した。ファリネッリが電話してきた夜のことを。「あなたをエースとして迎えたい」と言った声を。


「よかったです」とニコラスは言った。


「何がよかったか」


「チームメイトが信頼できた。初めてそういう場所で戦えた」


ファリネッリは少し目を細めた。


「それを聞けてよかった」と言った。「お前はコンヤで一人だったと、来る前のデータから見えていた。だからこそ、ここではそうさせたくなかった」


ニコラスは少し驚いた。


「最初からわかっていたのか」


「推測だった。でも当たっていたようだな」


「当たっていました」


ファリネッリは立ち上がった。握手した。


「プレミアで活躍しろ。ルガーノから巣立った選手として誇りに思う」


ニコラスは握手しながら、少し間を置いた。


「監督」


「何だ」


「俺が来た初日、『あなたをエースとして迎えたい』と言った。それが決め手だった」


ファリネッリはしばらくニコラスを見た。


「覚えていたのか」


「覚えています。大事な言葉だったから」


ファリネッリは何も言わなかった。でも目が少し赤くなった。


-----


UEFAヨーロッパリーグはラウンド16で敗退した。


相手はスペインのビジャレアルだった。第一戦を一対二で落として、第二戦も一対一で終わった。トータルスコアで敗退した。


ニコラスは二試合で二ゴールを取った。でも届かなかった。


試合後、ロッカールームで誰も話さなかった。


ニコラスは着替えながら、ヨーロッパの舞台で戦った試合を頭の中で振り返った。ブラガ戦のボレー。ビジャレアルの組織的な守備。ここは、スイスリーグとは別の世界だった。


でも二ゴールは取れた。


ここでも決められた。


それで十分だった。


-----


カップ戦はベスト4で終わった。


準決勝、相手のFKがゴール上に決まった。それだけだった。ニコラスは二点を取った。でもチームは三対二で負けた。


悔しかった。でも引きずらなかった。


シーズンが終わった。


-----


六月、移籍が正式に決まった。


ゾーイから電話が来た。


「アストン・ヴィラから正式なオファーが届きました。条件を確認しましたが、申し分ない内容です」


「背番号は」


「九番です」


ニコラスは少し間を置いた。


眼鏡の男の子の声を思い出した。「なんで29なの。エースは9番じゃないの」


「わかりました」と言った。


「サインは来週の予定です。その前に一つだけ確認です。本当にいいですか」


「いいです」


「後悔しませんか」


「しない」


ゾーイはしばらく黙っていた。


「……おめでとうございます」と言った。声が、少し掠れていた。


「ありがとう」


また沈黙があった。


「四年前、チェスターフィールドの映像を最初に見たとき、こうなると思っていましたか」とゾーイが聞いた。


「思っていなかった」


「私も思っていなかった」ゾーイは言った。「でも思っていた部分もあった。あなたのゴールへの嗅覚だけは、誰にも教えられないものだと最初から思っていた」


「それを言ってくれたな。最初の面談のとき」


「覚えていましたか」


「覚えています」


長い沈黙があった。


「来夏も、私がついています」とゾーイは言った。「プレミアでも」


「知っています」


「当然のように言うんですね」


「当然だから」


ゾーイはしばらく黙っていた。それから静かに笑った。電話の向こうで、小さく笑う声が聞こえた。


「……行ってらっしゃい」と彼女は言った。


「行ってきます」


-----


ルガーノを去る日、ドスサントスが空港まで来た。


チミニャーニとビスリミも来ていた。


ドスサントスがまず口を開いた。


「プレミアでも点を取り続けろ。俺たちが見てる」


「取る」


「百点じゃ足りないぞ。もっと取れ」


「取る」


ドスサントスは笑った。それから、笑いながら少し目が潤んだ。


「また会おうな」


「また会う」


チミニャーニが来た。手を差し出した。


「お前と一緒にやれて、楽しかった」


チミニャーニが「楽しかった」と言った。ニコラスはその言葉の重さを知っていた。この男がそれを言うのは、簡単なことではなかった。


「俺もだ」とニコラスは言った。


ビスリミが来た。何も言わずに手を差し出した。握手した。


「ありがとう」とニコラスは言った。


ビスリミは頷いた。それだけだった。


でもニコラスには、それで十分だった。


-----


搭乗ゲートに向かいながら、ニコラスは一度だけ振り返った。


三人が並んで立っていた。ドスサントスが手を振っていた。チミニャーニが静かに立っていた。ビスリミが小さく頷いた。


ニコラスは一度だけ手を挙げた。


それから前を向いた。


チェスターフィールドを去った日、グレースが碧いスカーフを巻いて見送ってくれた。コンヤを去った日は、一人だった。


ルガーノを去る日は、三人がいた。


-----


飛行機の窓から、ルガーノの街が小さくなっていった。


湖が光っていた。山が囲んでいた。石畳の街が縮んでいった。


一年間、この街にいた。


ボールが来た。チームが機能した。信頼できる仲間がいた。初めてそういう場所で戦えた。


コンヤで学んだことがあった。ルガーノで変わったことがあった。


次は、プレミアだ。


グレースに「スタジアム、連れて行くよ」と約束した。


眼鏡の男の子に「次のクラブでは9番になるかもしれない」と言った。


アリスターに「待ってる」と言われた。


サカに「来年プレミアに来るだろ」と言われた。


全部、これから始まる。


ニコラスは窓の外から目を離した。


シートに背中を預けた。


目を閉じた。


次の街で、また空を見る。

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