限界
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三月に入って、最初にそれに気づいたのはドスサントスだった。
練習後、ニコラスがいつもより早くグラウンドを離れようとしたとき、ドスサントスが声をかけた。
「大丈夫か」
「大丈夫だ」
「足、重そうだったぞ」
「そうか」
「そうだ」ドスサントスは少し間を置いた。「お前が走りで負けるのを、今日初めて見た」
ニコラスは少し止まった。自分ではわかっていた。今日の練習、いつもより体が重かった。スプリントのタイミングが、コンマ数秒遅れていた。
「疲れているかもしれない」と言った。
「かもしれない、じゃないだろ」ドスサントスは言った。「何節連続でスタメンだ」
「数えていない」
「俺が数えている。リーグ、カップ戦、UEFA、全部合わせたら先月だけで九試合だ。代表も入れたら十一試合。しかも全部スタメン」
ニコラスは黙っていた。
「普通の選手なら壊れてる」ドスサントスは言った。「お前だから持ってるだけで、限界が近い」
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ファリネッリに呼ばれたのは、その二日後だった。
「最近の試合のデータを見せたい」と監督は言って、タブレットをニコラスの前に置いた。
スプリント距離、最高速度、走行距離。一月と二月のデータが並んでいた。
一月より二月の方が、全ての数字が落ちていた。
「見てわかるか」
「わかります」
「ゴール数は落ちていない。でも体のデータは落ちている」ファリネッリは言った。「数字が維持されているのは、お前の技術と経験のおかげだ。でも体は正直だ」
ニコラスはデータを見ていた。
「休ませるべきでした」と言った。
「私も判断を間違えた」ファリネッリは静かに言った。「お前を使い続けた。チームが勝てるから、使い続けた。でもそれはお前への負担を無視した判断だった。申し訳なかった」
ニコラスは少し驚いた。監督が謝った。
「監督のせいではない。俺が出たかった」
「でも俺が止めるべきだった」ファリネッリは言った。「お前はまだ十九歳だ。プロキャリアは長い。一シーズンで体を壊してはいけない」
しばらく沈黙があった。
「三月は週に一試合を基準にローテーションを組む」とファリネッリは言った。「カップ戦とUEFAは、場合によってはスタメンを外す」
ニコラスは頷こうとして、少し止まった。
「UEFAは外れたくない」
「なぜ」
「あの舞台でゴールを取りたい。まだ足りない」
ファリネッリはニコラスを見た。しばらく黙っていた。
「わかった。UEFAはスタメンで使う。その代わりカップ戦はローテーションに入ってもらう。それで交渉しよう」
ニコラスは頷いた。
「ありがとうございます」
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三月の第一週、リーグ戦でゴールが止まった。
二節続けてノーゴールだった。
アシストは一つあった。決定機も二つあった。でも決まらなかった。GKに止められた。ポストに当たった。体のキレが、いつもより一歩遅かった。
ドスサントスが試合後に来た。
「ノーゴールだったな」
「そうだ」
「珍しいな」
「珍しくない。ゴールが入らない試合はある」
「いや」ドスサントスは言った。「お前に限っては珍しい。今日の決定機、いつもなら両方入れてた」
ニコラスは何も言わなかった。わかっていた。
「無理するな」とドスサントスは言った。「俺たちのために体を壊すな」
「壊れない」
「今はな」ドスサントスは言った。「でも今のペースで走り続けたら、いつか折れる。お前のことが心配だ」
ニコラスはドスサントスを見た。
「俺が休んだら、チームが困る」
「俺たちのことは心配するな」ドスサントスは言った。はっきりとした声だった。「お前のプレミアへの道を、俺たちのために諦めてもらいたくない」
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チミニャーニが来たのは、その夜だった。
練習施設に残っていたニコラスのところに、チミニャーニが一人で来た。
「少し話がしたい」と言った。
珍しいことだった。チミニャーニが個人的に話しかけてくることは、ほとんどなかった。
二人でベンチに座った。
チミニャーニはしばらく黙っていた。
「お前は来夏プレミアに行く」と言った。質問ではなかった。
「そのつもりだ」
「それは正しい」チミニャーニは言った。「お前に必要なのは、選手層の厚いクラブだ」
ニコラスは少し間を置いた。
「どういう意味だ」
「ここではお前に頼りすぎている。お前がいないと攻撃が機能しない。だから疲れていても使い続けた。それはお前にとって正しくない」チミニャーニは静かに言った。「プレミアのビッグクラブには、お前と同じくらいの選手が複数いる。試合によってローテーションされる。休める。そうでなければ、お前の本当の力が出せない」
ニコラスはチミニャーニの顔を見た。
いつも冷静で、無駄なことを言わない男だった。今日もそうだった。感情的ではなく、ただ事実を言っていた。
「ルガーノが嫌なわけじゃない」とチミニャーニは続けた。「お前と一緒にやれて、俺は楽しかった。でもお前の成長のために、ここは小さすぎる」
ニコラスはしばらく黙っていた。
「お前がそれを言うか」
「俺だから言える」チミニャーニは言った。「俺はここで満足している。でもお前は違う。お前の目はまだ先を見ている」
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ビスリミが来たのは翌日だった。
今度は食堂だった。ビスリミが隣に座って、しばらく黙って食事をしていた。
やがて口を開いた。
「お前、今月疲れてるな」
「そうだ」
「無理するな」
「みんなそれを言う」
「みんな同じことを思ってるからだ」ビスリミは静かに言った。「俺はお前のためにスペースを作り続けた。それが楽しかった。でも」
ビスリミは少し間を置いた。
「お前には、俺より上手い選手がスペースを作るべきだ。プレミアには、そういう選手がいる」
ニコラスはビスリミを見た。
ビスリミはいつも静かだった。でも今日は、その静けさの中に何か別のものがあった。
「俺はここでお前と一緒にやれてよかった」とビスリミは言った。「でもお前が次に行くことも、嬉しい」
ニコラスは何も言えなかった。
しばらく食堂に沈黙があった。
「ありがとう」とニコラスは言った。
ビスリミは小さく頷いた。それだけだった。
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三月の中旬、ゾーイに電話した。
「最近のパフォーマンス、見ていますか」
「見ています」とゾーイは言った。「疲労ですね」
「そうだ。スタミナが課題だとわかった」
「スタミナというより、過密日程の管理の問題です」ゾーイは言った。「十九歳で一シーズンにリーグ、UEFA、カップ戦、代表を全部フルでこなすのは、フィジカル的に正しくない」
「でもゴールを取りたかった」
「わかっています。でも来夏のプレミア移籍に向けて、体を守ることも同じくらい大事です」
ニコラスは少し間を置いた。
「チームメイトたちが、プレミアに行くべきだと言った」
「どういう意味で」
「選手層が厚いクラブに行けば、ローテーションされる。休める。本当の力が出せる、と」
ゾーイはしばらく黙っていた。
「チミニャーニが言いましたか」
「チミニャーニとビスリミとドスサントス」
また沈黙があった。
「……いいチームですね」とゾーイは静かに言った。
「そうだ」
「三人とも正しいです」ゾーイは言った。「プレミアのビッグクラブには、同じレベルの選手が複数いる。あなたはそこでローテーションされながら、長いシーズンを戦える。そうでなければ、あなたの本当のポテンシャルは引き出せない」
ニコラスは窓の外を見た。
三月のルガーノだった。湖の向こうに春の気配があった。
「スタミナも鍛える」とニコラスは言った。
「それは大事です」ゾーイは言った。「でもそれと同時に、休むことを覚えてください。休むことも、トレーニングの一部です」
「休むのが苦手だ」
「知っています」ゾーイは少し笑った。「あなたが台所に立てるようになったのは、休み方を少し覚えたからです。コンヤのとき、私がそう言いましたよね」
ニコラスは少し間を置いた。
あの夜を思い出した。カップ戦で負けた夜。一人でグラウンドに残っていた夜。ゾーイが「台所に立つだけでいい」と言った。
「覚えている」
「では今夜も、台所に立ってください」
ニコラスはしばらく黙っていた。
「スープを作る」
「よかった」
電話が切れた。
ニコラスは台所に立った。
玉ねぎを切った。鍋に入れた。火をつけた。
コンヤであの夜覚えたことが、今夜もここで繰り返された。
疲れたら、台所に立つ。
それだけでいい。
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三月の終わり、ニコラスはローテーションに入った。
カップ戦の一試合をベンチスタートにした。六十分から出場して、一点を取った。
フル出場よりも体が軽かった。
スプリントのタイミングが、コンマ数秒だけ戻っていた。
ドスサントスが試合後に言った。
「戻ってきたな」
「少しだけ」
「それで十分だ」ドスサントスは笑った。「お前が少し戻るだけで、チームが変わる」
ニコラスは何も言わなかった。
でも、チームメイトたちがあの夜に言ってくれた言葉を、まだ胸の中に持っていた。
お前には、俺より上手い選手がスペースを作るべきだ。
選手層の厚いクラブへ行け。
お前が次に行くことも、嬉しい。
プレミアへの道は、ルガーノの仲間たちが背中を押してくれていた。




