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沈黙のストライカー  作者: ムーミンの丸焼き
ルガーノ

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19/110

40


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十二月の第十七節を終えて、ニコラスはリーグ四十ゴールに達した。


試合後、ドスサントスがロッカールームで叫んだ。


「四十点!十七節でだぞ!お前、正気か!」


チミニャーニが珍しく立ち上がって拍手した。ビスリミが静かに、でも確かな笑顔で頷いた。


ファリネッリ監督が来た。


「おめでとう」とだけ言った。握手した。それで十分だった。


ニコラスは着替えながら、五十という数字を頭の中で転がした。


チェスターフィールドで一シーズン五十ゴール。それが最初の節目だった。あのときトロフィーを持って「重いです」と言ったら、ゲイリーが笑った。


今回はまだ十七節で四十ゴール。あのシーズンよりずっと速いペースで、あのシーズンより強いリーグで。


でも気持ちは変わらなかった。もっと決めたい、という気持ちが、いつも得点の喜びより少しだけ大きかった。


「何を考えてる」とドスサントスが隣に来た。


「次のことだ」


「四十点取って次か」


「四十一点目がある」


ドスサントスはしばらくニコラスを見た。それから笑った。「お前と一緒にやってると、満足するということを忘れる」


「悪いことか」


「全然悪くない」ドスサントスは肩を叩いた。「最高だ」


-----


十二月の中旬、グレースがルガーノに来た。


空港に迎えに行った。到着ゲートから出てきたグレースは、碧いスカーフを首に巻いていた。コートのボタンを全部留めていた。チェスターフィールドで見送ったときと同じ格好だった。


ニコラスは手を挙げた。


グレースがニコラスを見つけて、足を止めた。それから歩いてきた。


「大きくなった」とグレースは言った。


「変わってない」


「変わってるわよ」グレースはニコラスの顔を見上げた。「顔が違う」


「どう違う」


「大人になった」


ニコラスは何も言わなかった。でも荷物を持った。


「重い」


「お土産を入れたから」


「誰への?」


「あなたへ」グレースは言った。「テリーの奥さんに頼まれたの。ニックに渡してって」


ニコラスは少し間を置いた。


「テリーの奥さんから?」


「毎週来てくれるのよ、今も。先週もスコーンを持ってきてくれた」


ニコラスは荷物を持ちながら歩いた。グレースが隣を歩いた。


「チェスターフィールドは元気?」


「元気よ。みんなあなたの試合を見てる。スタジアムで一緒に見る人もいるって聞いた」


「スタジアムで」


「ルガーノの試合を、チェスターフィールドの人たちがパブで見てるらしいわよ」グレースは笑った。「地元の英雄だから」


ニコラスは少し間を置いた。


かつて腕を組んで見ていた人たちが、今はパブでルガーノの試合を見ている。


それが何かを意味しているのか、うまく言葉にできなかった。でも悪くなかった。


-----


翌日、湖のほとりを歩いた。


十二月のルガーノは穏やかだった。スイスの冬にしては暖かく、湖の水面が白く輝いていた。山が遠くに見えた。


グレースは歩きながら、何度も立ち止まった。湖を見た。山を見た。街並みを見た。


「きれいな街ね」と彼女は言った。


「そうだな」


「写真で見たより、もっときれい」


二人でしばらく湖のほとりのベンチに座った。観光客が数人通った。遠くで子供が走っていた。


「ここが気に入ってるの?」とグレースが聞いた。


ニコラスはしばらく考えた。


「チームが気に入ってる」


「街は」


「……悪くない」


グレースは少し笑った。「それがあなたの最高の褒め言葉ね」


「そうかもしれない」


グレースはスカーフに手を当てた。碧いウールが、冬の日差しの中で光った。


「テリーのスコーン、持ってきた」とグレースは言った。バッグから小さなタッパーを取り出した。


ニコラスは少し驚いた顔をした。珍しいことだった。


「テリーの奥さんが焼いたのか」


「私が焼いた。テリーの奥さんに教えてもらって」


「母さんが焼いたのか」


「変なの」グレースは笑った。「もともとスコーンは私が最初に焼いたんだから」


ニコラスはタッパーを受け取った。蓋を開けた。温かくはなかったが、いい匂いがした。


一つ食べた。


「旨い」


「そう」グレースは嬉しそうに前を向いた。「テリーの奥さんのと、どっちが旨い」


「母さんの方」


グレースは何も言わなかった。でも口元が動いた。


二人で湖を見た。水面が風に揺れていた。


「ニック」とグレースが言った。


「何」


「次はどこへ行くの」


ニコラスは少し間を置いた。


「プレミア」


グレースはしばらく黙っていた。


「そう」と彼女は言った。「また遠くなるのね」


「うん、遠くなる」


「でも」グレースはスカーフに触れた。「行きなさい」


ニコラスはグレースの横顔を見た。


首筋のあざは、もう見えなかった。碧いスカーフの下に、完全に隠れていた。


「うん」と言った。


-----


十二月、ニコラスはスイスリーグの月間最優秀選手に選ばれた。


連絡が来たとき、ニコラスはドスサントスに「月間最優秀選手というものをもらった」と言った。


「知ってる!」とドスサントスは叫んだ。「二回目だろ!お前、毎月候補に入ってるじゃないか!」


「そうだったのか」


「知らなかったのか」ドスサントスは呆れた顔をした。「週間最優秀も何度もらったと思ってる」


「数えていない」


「俺が数えてる」ドスサントスは言った。「今季だけで週間が八回、月間が今日で二回だ」


ニコラスは少し間を置いた。


「そういうものは、ゾーイが気にしている」


「お前の代理人、仕事熱心だな」ドスサントスは笑った。


-----


ヨーロッパリーグの話をしなければならない。


ルガーノはグループステージを二位で突破して、ラウンド32に進んでいた。十二月の試合で、ニコラスはグループステージで六ゴールを追加していた。


ヨーロッパの舞台は、スイスリーグとは別の空気があった。


相手が違った。スウェーデンのクラブ、ポルトガルのクラブ、ギリシャのクラブ。どのチームもスイスリーグの平均より強かった。プレスが速く、DFの寄せが鋭かった。


それでもゴールは入った。


グループ最終節、ポルトガルのクラブとのアウェイ戦だった。


ニコラスがボールを受けたとき、DFが二人寄せてきた。速かった。スイスリーグとは動きが違った。でもニコラスの体が速かった。フィジカルで弾いた。


ペナルティエリア内、シュートの時間を作った。


右足を振り抜いた。


ゴール。


欧州の舞台でのゴールは、スイスリーグのゴールと感触が少し違った。うまく言葉にできなかったが、何かが確かめられたような感覚があった。


ここでも決められる。


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年が明けて一月、グレースがチェスターフィールドに戻った。


空港で見送った。


グレースが振り返って言った。「来てよかった」


「また来てよ」


「今度はいつ」


「プレミアに行ったら」


グレースは少し笑った。「プレミアのスタジアム、連れて行ってよ」


「連れて行くよ」


グレースはまた振り返って、出発ゲートに向かった。碧いスカーフが遠ざかっていった。


ニコラスはそれが見えなくなるまで立っていた。


-----


一月の移籍市場が動き始めた。


ゾーイから連絡が来た。


「プレミアから三件、正式な関心が届いています。一件は冬の移籍を打診してきましたが、またお断りしました」


「わかりました」


「来夏はかなり競合しそうです。今から準備しておきたい」


「何を準備するんですか」


「あなたはピッチで準備してください。私が残りをやります」ゾーイは言った。「ただ一つだけ。背番号の希望はありますか」


ニコラスは少し間を置いた。


「9番があるなら、9番がいい」


「わかりました」


少し間があった。


「ちなみに」とゾーイが続けた。「今季のリーグ得点ランキング、二位との差が二十点を超えました」


「そうか」


「そうです。しかもリーグ十七節消化時点での四十ゴールは、スイスリーグでも異例のペースだそうです」


「記録は気にしていない」


「私は気にしています」ゾーイは言った。「あなたが気にしなくても、記録はあなたを証明してくれます。スカウトが数字を見るから」


「ありがとう」


「どういたしまして」ゾーイは少し間を置いた。「三回目ですね、お礼を言うのが」


「数えてたのか」


「数えています」


ニコラスはしばらく黙っていた。


「覚えておく」と返した。


「ええ」とゾーイは返した。「覚えていてください」


電話が切れた。


ニコラスは窓の外を見た。


一月のルガーノは、湖が少し霞んでいた。空が白かった。チェスターフィールドの灰色とは違う白さだった。


四十ゴール。でもまだ十六節ある。


次の五十を目指すほど先は長くないが、まだやることがある。


グレースが「プレミアのスタジアムに連れて行って」と言った。


連れて行く。


そのためにも、まだやることがある。


ニコラスはスマホを置いて、ボールを持って外に出た。


一月の冷たい空気が体に当たった。


湖の方から、風が来た。

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