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沈黙のストライカー  作者: ムーミンの丸焼き
ルガーノ

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18/110

サカ


-----


十一月の代表ウィーク、ウクライナとの親善試合だった。


集合場所はセント・ジョージ・パークだった。前回と同じ施設だった。でも前回と違ったのは、ニコラスが施設に入ったとき、すでに顔見知りが何人かいたことだった。


「ニック!」


廊下の向こうからアリスターが手を振った。


「また来たね」とアリスターは言った。「ニックが代表に来るのも、もう普通に思えてきたよ」


「そうか」


「そうだ。スイスリーグで四十点近いペースで取ってたら、呼ばれない方がおかしいよ」


「まだ四十じゃない」


「細かいな」アリスターは笑った。「今回はサカとちゃんと話してみなよ。前回、試合後に少し話しただけだろ」


「話した」


「あれは話したとは言わない」アリスターは首を振った。「サカはああ見えてすごく気にかけるタイプだ。お前のことも気にしてると思う」


「なぜ」


「前回の試合後、俺に聞いてきたんだよ。『ロメロってどんなやつだ?』って」


ニコラスは少し間を置いた。


「何て答えたんだ」


「『言葉は少ないけど、全部ピッチで表現するやつだ』って言った」


「正確だな」


「だろ」アリスターは笑った。


-----


夕食のとき、サカが隣に来た。


「また同じ代表になれたな」とサカは言った。朗らかな声だった。「ルガーノ、調子いいな。得点ランキング見てたら、スイスリーグの得点王争い、お前だけ別次元になってる」


「チームメイトがいい」


「それはそうだけど、お前が決めてるんだろ」サカはトレーに食事を並べながら言った。「ドスサントスって選手、映像で見た。いい選手だな。プレスが速くて、賢いパスだ」


「そうだ。あいつのボールは取りやすい」


「どの辺が?」


ニコラスは少し考えた。


「どこに出すかが、パスを出す前からわかる。だから動き出しが早くなる」


サカはしばらく考えた。「それはお前がドスサントスを読んでるのか、ドスサントスが読みやすいパスを出してるのか、どっちだろうな」


「両方だと思う」


「面白いな」サカは笑った。「俺のパスはどう見えてる?」


「正確だ」とニコラスは言った。「でもドスサントスとは少し違う。どこに出すか、直前まで読めない」


「それは褒めてるのか?」とサカは言った。


「読めないのに、毎回いいところに来る。それがすごい」


サカはしばらくニコラスを見た。それからゆっくり笑った。「お前、そういうことさらっと言うんだな」


「本当のことだから」


「ありがとう」サカは言った。「じゃあ俺もお前のことをさらっと言う。ゴール前の嗅覚は、今まで一緒にやった選手の中でも特別だ。どこにボールが来るか、お前がわかってるのが見えてる。だから出せる」


ニコラスは少し間を置いた。


「父親がGKだったから、かもしれない」


「そうなのか」


「GKがどこに動くか、本能的にわかる。だからコースが見える」


サカはしばらく黙った。「それ、すごい話だな」と静かに言った。「GKとしての視点を攻撃に使ってるわけか」


「意識したことはない。でも、そういうことかもしれない」


サカはしばらく考えていた。それから「一緒にやるのが楽しみだ」と言った。言葉の重さが、前回より増していた。


-----


翌日の練習中、サカがニコラスに話しかけてきた場面が何度かあった。


パスの受け方について。動き出しのタイミングについて。サカは質問する形で話しかけてきた。答えを押しつけるのではなく、ニコラスの考えを聞きたそうだった。


練習が終わった後、アリスターが言った。


「サカ、お前に懐いてるな」


「懐くというのか、あれは」


「じゃあなんと言う」


ニコラスは少し考えた。


「気にかけている」


「それが懐くということだよ」アリスターは笑った。「サカがあそこまで話しかけるのは珍しい。あいつは人当たりがいいが、自分から深く関わろうとする相手は選ぶ」


ニコラスは少し間を置いた。


「なぜ俺なんだ」


「さあ」アリスターは肩をすくめた。「でもニックに友達が増えるのは嬉しいよ。」


「友達というのか」


「じゃあなんて言うんだい?」


「まだよくわからない」


アリスターはしばらくニコラスを見た。それから「いつか分かるよ」と言って、食堂に戻っていった。


-----


ウクライナ戦は、十一月の中旬だった。


ウェンブリースタジアム。今回も満員だった。


ニコラスはまたベンチから始まった。スタメンに名前はなかった。まだその段階ではない、と分かっていた。だから割り切ってピッチを、サカの動きを見ていた。


前半、イングランドが支配した。でも得点は入らなかった。ウクライナの守備は整っていた。


後半も同じ展開が続いた。


五十九分、コーチが呼んだ。


「行ってこい」


ニコラスがピッチに入った。スタジアムから歓声が上がった。前回よりも大きかった。ニコラス・ロメロという名前が浸透してきたのだろう。


ピッチに入って、最初にサカと目が合った。


サカが小さく頷いた。ニコラスも頷いた。


-----


七十八分、サカが右サイドから切り込んだ。


DFを一人剥がした。ゴール前が開いた。サカの足がシュートモーションに入った。


スタジアムが息を呑んだ。


その瞬間、サカは横を見た。


ニコラスがいた。ゴールまで一歩の位置に。マークが外れていた。


サカはシュートを打たなかった。パスを出した。


ニコラスの足元にボールが来た。後は流し込むだけだった。


ニコラスは足を振った。


空振りした。


スタジアムから落胆の声が上がった。


ニコラスは一瞬だけ止まった。ボールがゴールラインを割っていた。ゴールにはならなかった。


何が起きたか、自分でもすぐにはわからなかった。体が滑った。芝の状態が悪かった。踏み込みが甘かった。


サカが走ってきた。


「大丈夫か」


「大丈夫だ」


「切り替えよう」サカは言った。責める気配が全くなかった。「また出す」


ニコラスは頷いた。


また出す。サカはそう言った。


-----


九十分、またサカが右サイドから仕掛けた。


今度はDFを二人剥がした。ゴール前が完全に開いた。シュートを打てる体勢だった。完全に打てた。


でもサカは横を見た。


またニコラスがいた。今度はしっかりした体勢で。


サカはパスを出した。


ボールがニコラスの足元に来た。


今度は滑らなかった。踏み込んだ。右足で流した。


ゴール。


スタジアムが揺れた。


ニコラスはゴールの前に立って、サカを見た。サカが走ってきた。


「よかった」とサカは言った。笑っていた。


「七十八分、流してくれてありがとう」とニコラスは言った。


「当然だろ。ニコラスがいた」


「でもサカが決めた方が確実だった」


サカは少し笑った。「そうかもしれない。でも俺は、お前に決めさせたかった」


ニコラスは少し間を置いた。


「なぜ」


「なんとなくだ」とサカは言った。「七十八分に外しても、またチャンスは来るって信じてた。だから」


信じてた。


その言葉の重さが、じわじわと伝わってきた。


試合は三対〇で終わった。


-----


試合後のロッカールームで、アリスターがニコラスに来た。


「サカが二回ともお前にパスを出した」とアリスターは言った。「七十八分は外したのに、また出したんだぞ」


「知ってる」


「それがどういうことかわかるか」


ニコラスは少し間を置いた。


「信頼だと思う」


「そうだ」アリスターは頷いた。「サカが信頼した選手には、とことん信頼する。あいつはそういうやつだ」


ニコラスは着替えながら聞いていた。


「ニック、プレミアに来たらサカとやってみなよ」とアリスターは言った。「二人が一緒になったら止まらないと思う」


「同じクラブになれるかはわからない」


「まあそうだけど」アリスターは笑った。「夢の話だよ。でもあながち夢でもないだろ、ニックなら」


-----


その夜、サカからメッセージが来た。


「今日の試合、また一緒にやれて楽しかった。来年プレミアに来るだろ。そしたらまたやろう」


ニコラスは少し間を置いて返した。


「そのつもりだ」


「楽しみにしてる」とすぐに返ってきた。「あと、GKの父親の話、面白かった。いつかもっと聞かせてくれ」


ニコラスはしばらくその文章を見た。


父の話をした。夕食のとき、さらっと言ってしまった。サカはそれを覚えていた。


「いつか」と返した。


「いつかな」とサカは返した。


それだけだった。


-----


翌日、ゾーイに電話した。


「昨日の試合を見ていました」とゾーイは言った。「七十八分のシーンは残念でしたが、九十分で取り返しました」


「足が滑った」


「見ていました。でも切り替えが早かった」


「サカが来ると言ったから」


ゾーイは少し間を置いた。「サカとうまくやれていますね」


「そうかもしれない」


「移籍の話なんですが」とゾーイは言った。「プレミアの動きが早まっています。冬の市場で打診してきたクラブが一件、実際にありました」


「断ってくれ」


「すでに断りました。ただ、来夏は本格的に動くと言っていました」


「分かった」


「あと」ゾーイは続けた。「サカがいるクラブも、あなたに関心を持っているという話が入っています」


ニコラスはしばらく黙っていた。


「それは確かか」


「ええ。ただ、まだ初期段階です」


ニコラスは窓の外を見た。ルガーノの夜だった。湖が風に揺れていた。


サカと同じクラブで。


昨日、ロッカールームでアリスターが言った言葉を思い出した。「夢の話だよ。でもあながち夢でもないだろ」


「このまま続ける」とニコラスは言った。


「それだけでいいです」とゾーイは言った。「あなたがやることをやれば、向こうが動いてきます」


電話が切れた。


ニコラスはスマホを持ったまま、湖を見た。


波が静かに繰り返していた。


サカが「信じてた」と言った。


その言葉が、まだ胸の中にあった。


信じてもらえる選手になる。ピッチの上で。数字で。結果で。


それだけでいい。


窓の外で、ルガーノの夜が静かに続いていた。

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