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沈黙のストライカー  作者: ムーミンの丸焼き
ルガーノ

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17/111

突破


---


第十四節の前週、クラブからアナウンスがあった。


「今週土曜日、地域の子供たちを招いたサッカー教室があります。全選手参加でお願いします」


ドスサントスが「今年も来たか!」と叫んだ。


チミニャーニが「また今年もか」と苦笑いした。


ビスリミは何も言わなかったが、かすかに表情が柔らかくなった。


ニコラスは何も言わなかった。子供たちと触れ合う、という経験が自分にどれだけあるか考えて、ほとんどないと気づいた。


「楽しいぞ」とドスサントスがニコラスの肩を叩いた。「毎年やってるが、毎年いい。子供たちのエネルギーはすごいぞ」


「そうか」


「お前、子供は好きか」


「分からない」


「分からないって、なかなかの答えだな」ドスサントスは笑った。「まあ行ってみればわかるさ」


---


土曜日の朝、グラウンドに子供たちが集まってきた。


六歳から十二歳くらいまで、五十人近くいた。ルガーノと周辺の街から来た子供たちだった。コーチスタッフが引率していて、子供たちはユニフォームを着ていたり、私服だったり、様々だった。


選手たちがグラウンドに出ると、歓声が上がった。


ドスサントスが真っ先に子供たちの方へ走っていった。子供たちが群がった。ドスサントスは腰を折って子供の目線に合わせ、次々と握手して、名前を聞いて、笑わせた。五分もしないうちに十人以上の子供に囲まれていた。


「あれは毎年だ」とチミニャーニがニコラスの隣で言った。「ドスサントスは子供の扱いが天才的にうまい」


「そうだな」


「俺は苦手だ」チミニャーニは正直に言った。「何を話せばいいかわからない」


「俺もだ」


「だろうな」チミニャーニは少し笑った。


「子供と話す機会がほとんどなかった」


チミニャーニはしばらく黙っていた。「まあ、一緒にボールを蹴れば何とかなる。言葉より先にボールだ」


その言葉が、思ったより的確だった。


---


グループに分かれて、選手が一人ずつ担当することになった。


ニコラスには八歳から十歳くらいの子供たちが六人、割り当てられた。


最初、子供たちはニコラスを見て固まった。


百九十センチの体格、肩から手首まで黒いタトゥー、無表情。子供たちにとっては、明らかに「怖い大人」だった。一人が半歩後ずさった。


ニコラスはしばらく子供たちを見た。


どうすればいいか、わからなかった。


膝をついた。子供たちの目線に合わせた。


「ボール、蹴れるか」と聞いた。


子供たちが少し動いた。一人が恐る恐る頷いた。


「じゃあ蹴ってみろ」


ニコラスは立ち上がって、少し離れたところに立った。GKの位置に立った。


子供が一人、おそるおそるボールを蹴った。力のないシュートだった。ニコラスはわざと少し遅れて動いて、ボールを止めた。


「もう一回」


今度は少し力強く蹴ってきた。ニコラスはまた止めた。


「もっと強く」


三回目、子供が思い切り蹴った。ボールはニコラスの横を通り過ぎた。


子供が顔を輝かせた。


「入った!」


ニコラスは何も言わなかった。でも頷いた。それだけで、子供はまた笑顔になった。


残りの五人も、ゴールを決めると次々と顔が輝いた。ニコラスは全員に一度ずつ、わざとゴールを許した。


---


しばらくして、一人の男の子がニコラスの腕を見た。


八歳くらいだった。ショートカットで、眼鏡をかけていた。


「それ、痛かった?」と男の子は聞いた。タトゥーのことだった。


「痛かった」


「なんで入れたの?」


ニコラスは少し間を置いた。


「そういう時期だった」


男の子はしばらく腕を見ていた。「かっこいいね」と言った。


ニコラスは何も言わなかった。でも、その言葉がどこかに刺さった。


コンヤで、食堂のおばさんが笑ってくれた。その笑顔と少し似た、温かさがあった。


---


別のグループでは、ドスサントスが相変わらず子供たちに囲まれていた。


子供の一人がドスサントスの真似をして派手なフェイントを試みて、転んだ。ドスサントスが走り寄って助け起こして、何か言って笑わせた。子供が立ち上がって、またボールを蹴り始めた。


ニコラスはその様子を少し離れたところから見ていた。


ドスサントスがピッチの外でもこういう男だとは思っていた。でも実際に見るのは初めてだった。子供への接し方と、練習中の接し方が、全然変わらなかった。いつも同じ温度で、いつも同じ笑顔で、誰に対しても同じだった。


---


チミニャーニは担当の子供たちに、丁寧にパスの技術を教えようとしていた。


足の内側に当てる場所を言葉で説明していた。子供たちは少し困惑した顔をしていた。


一人の子供がボールを蹴って、全然違う方向に飛ばした。チミニャーニが「違う、こうだ」と言って自分で見本を見せた。完璧なパスだった。でも子供たちにはその完璧さが伝わっていなかった。


ニコラスはそれを見ながら、チミニャーニがチームで一番技術が高い選手だということを改めて思った。技術が高い分、なぜできないかがわからないのかもしれない。


練習中のチミニャーニは完璧だ。でも今日は、少しだけ不器用だった。


その不器用さが、なぜか好ましかった。


---


ビスリミは無言で子供たちの横に立っていた。


一人の女の子がうまくボールを止められずに悔しそうにしていた。ビスリミは何も言わずに隣に来て、同じ動きをゆっくりやって見せた。女の子が真似した。うまくいかなかった。ビスリミがまたゆっくりやって見せた。


何度か繰り返した後、女の子がボールを止めた。


ビスリミは小さく頷いた。それだけだった。


女の子が嬉しそうに笑った。


ニコラスはその光景を見て、ビスリミのことを思った。練習でも試合でも、ビスリミはいつも静かだった。派手なプレーはしない。でも必要な場所に必ず現れる。ゴール前でニコラスのためにスペースを作り続ける。誰も気づかないことをやり続ける。


今日も同じだった。


---


サッカー教室が終わる頃、先ほど眼鏡の男の子がニコラスのところに戻ってきた。


「サインしてほしい」と言って、ユニフォームを差し出した。


ニコラスはサインペンを受け取って、ユニフォームに書いた。


「ニコラス・ロメロ」と書いて、「29」と番号を添えた。


男の子がユニフォームを受け取って、じっと見た。


「なんで29なの?エースは9番じゃないの?」


ニコラスは少し間を置いた。


「次のクラブでは9番になるかもしれない」


「そうなったらまたサインして」と男の子は言った。


「そうなったらな」


男の子は満足そうに走っていった。


ニコラスはその背中を見ていた。


マッコールがスマホで見せてくれた三人の子供のことを、ふと思い出した。あのときは何も言えなかった。でも今日、少しだけわかった気がした。


子供のああいう顔が、大人を動かすのだと。


---


その夜、グレースに電話した。


「子供のサッカー教室をやった」と言った。


「どうだった」


「わからない部分もあった。でも悪くなかった」


「そう」グレースは少し笑った。「あなた、子供に好かれそうよね」


「なんで」


「怖そうに見えて、全然怖くないから」


ニコラスはしばらく黙っていた。


「タトゥーをかっこいいと言った子がいた」


「そう」グレースの声が少し変わった。柔らかくなった。「よかったわね」


ニコラスは何も言わなかった。でも電話を持ったまま、しばらくそのままでいた。


---


第十四節、FCヴィンタートゥール戦。


相手は今季の降格圏内のクラブだった。力の差はあった。でもニコラスは手を抜かなかった。手を抜く理由がなかった。


前半七分、ロングシュートを打った。


ペナルティエリアの一歩外。DFが距離を取っていた。打てる場面だった。


右足を振り抜いた。ボールは低く速く飛んだ。ゴール右隅に突き刺さった。


スタジアムが沸いた。


ニコラスはゴールの前に立って、距離を確認した。エリアの一歩外。打てた。


ファリネッリが練習で言っていたことを思い出した。「あの距離から打てる選手がいると相手は知った。次から守備ラインが下がる」


今日はそれが形になった。


前半十一分、ドスサントスがボールを奪った。チミニャーニに展開した。チミニャーニが前を向いた。


ニコラスは走り出した。DFの裏を取った。


チミニャーニの縦パスが来た。受けた。GKと一対一。


左に流した。


二対〇。


---


前半のうちに、ドスサントスがもう一点追加した。チミニャーニのアシストだった。三対〇で前半を終えた。


後半五十八分、ペナルティエリア内でボールが動いた。


ドスサントスがキープした。チミニャーニに預けた。チミニャーニがビスリミに展開した。ビスリミが落とした。ドスサントスが受けた。また展開した。


ショートパスが続いた。相手の守備が対応に追われた。隙間が生まれた。


最後にニコラスへのパスが入った。


ゴールまで一歩。右足で押し込んだ。


四対〇。


---


後半八十六分、ニコラスがボールを奪った。


相手のMFがトラップしたボールが少し大きくなった。コースに入った。体を当てた。奪った。


DFが二人来た。右のDFの重心を読んだ。左に動くと見せかけて、右に行った。かわした。


もう一人のDFが来た。そのDFの左足に重心が乗っていた。右に行けばかわせる。


右に動いた。かわした。


ゴール前。GKと一対一。


右足で打った。


五対〇。


八十八分、同じ形でもう一点取った。プレスで奪って、ドリブルで二人かわして、ゴール。


六対〇。


---


九十分、最後のボールがニコラスに来た。


ペナルティエリアの少し外だった。いつもより距離があった。DFが一枚来た。


ニコラスは打った。


ボールはゴールバーに当たって、跳ね返ってきた。


惜しかった。でもニコラスの表情は変わらなかった。


次だ。


そのまま試合が終わった。七対一。ニコラスは五得点。


---


試合後、ドスサントスが言った。


「七分のやつ、ロングシュートじゃないか。エリアの外から決めた」


「一歩外だ。まだ遠くからは決められない」


「それでもすごい。ロングシュート、練習してたもんな」


「ファリネッリが時間を作ってくれた」


ドスサントスは頷いた。「監督はお前のことをちゃんと見てる」


チミニャーニが来た。「八十六、八十八分のドリブル」と静かに言った。「あれはどうやって抜いた」


「DFの重心を読んだ」


「シュートのときと同じか」


「応用だ」


チミニャーニはしばらく考えた。「シュートの技術をドリブルに使う発想は、なかなか出てこない」


「シュートとドリブルは別じゃない。どちらも相手の逆を取るだけだ」


チミニャーニは少し間を置いた。「面白い考え方だな」と言った。チミニャーニにそう言わせるのは、簡単ではない。ニコラスにはそれがわかった。


---


夜、ゾーイから連絡が来た。


「今日の試合、見ました。七分のロングシュート、エリア一歩外から決めましたね」


「まだ遠くからは難しい」


「でも三節前はポストでした。着実に伸びています」


「もっと遠くから打ちたい」


「焦らなくていいです。それより」ゾーイは少し間を置いた。「プレミアの動きが具体的になってきました。来夏の移籍市場で、正式なオファーを出す準備をしているクラブが少なくとも二つあります」


「どこですか」


「まだ言えません。でも、背番号9番を用意しているクラブがあると聞いています」


ニコラスは少し間を置いた。


今日サインした「29」という番号を思い出した。眼鏡の男の子が「なんで29なの」と言った声を。


「次のクラブでは9番になるかもしれない」と答えた自分の言葉を。


「分かりました」と返した。


「今季あと十三節あります。このペースを続けてください」


「続ける」


「あと、今季三十三得点です。このペースだと最終的に七十点台は見えてきます」


「数は気にしていない」


「分かっています」ゾーイは言った。「でも私はあなたの代わりに気にしています。」


ニコラスはしばらくその言葉を見た。


「ありがとう」と打った。


「どういたしまして」とすぐに返ってきた。「珍しいですね、お礼を言うの」


「そうだったか」


「そうです。一回目はいつか覚えていますか」


ニコラスは少し考えた。


「ルガーノに来る前の電話だ。お前が最初から全試合見ていると言ったとき」


しばらく間があった。


「覚えていたんですね」


「覚えている」


また間があった。今度は少し長かった。


「……おやすみなさい」とゾーイは返した。


「おやすみ」


スマホを置いた。


窓の外でルガーノの夜が静かに広がっていた。湖の水面が風に揺れていた。


チェスターフィールドから始まった。コンヤでは孤独だった。ルガーノで信用できるチームと出会えた。


次は9番を背負う場所へ。


その日まで、まだやることがある。

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