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沈黙のストライカー  作者: ムーミンの丸焼き
ルガーノ

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16/110

逆転


---


代表ウィークが終わって、ルガーノに戻った。


ドスサントスがロッカールームで出迎えた。


「三点!代表で三点!しかも合計七十分しか出てないのに!」とドスサントスは叫んだ。「お前、どうかしてる!最高だ!」


チミニャーニが「お帰り」と静かに言った。


ビスリミが「おめでとう」と言った。


ニコラスは荷物を置いて「ありがとう」と言った。


ファリネッリ監督に呼ばれた。


「代表、お疲れ様でした」と監督は言った。「どうでしたか」


「速かったです。特にドイツが」


「そうでしょう。でも三点取りましたね」


「課題があります」


「聞かせてください」


ニコラスはトラップの話をした。ダイレクトで解決したが、それだけでは限界があること。ロングシュートの精度も上げたいこと。


ファリネッリはメモを取りながら聞いた。


「わかりました。練習で時間を作ります」と言った。「ただ今週は休んでください。代表ウィーク明けは体が疲れています。第九節は来週です」


ニコラスは頷いた。


「相手はFCチューリッヒです」とファリネッリは付け加えた。「今季リーグ二位。強いです」


「わかりました」


「ニコラス」


「何ですか」


ファリネッリは少し間を置いた。「代表でどんな結果を出しても、ここでのあなたの立場は変わらない。プレッシャーを感じなくていい」


ニコラスは監督の目を見た。


「感じていません」


ファリネッリは小さく笑った。「そうですね」


---


FCチューリッヒは、確かに強かった。


第九節、ホームゲーム。前半からチューリッヒのプレスが鋭かった。ルガーノがボールを持つ時間が短かった。ドスサントスが前を向けない場面が続いた。


前半二十九分、失点した。


D・レバーソンという右ウィングが、左サイドから切り込んできた。ルガーノのDFが対応に遅れた。ペナルティエリア内からシュート。GKが反応できなかった。


〇対一。


ニコラスはセンターサークルに戻りながら、前を向いた。


まだ時間がある。


前半三十七分、またレバーソンだった。


今度は右サイドから裏に抜け出した。クロスが入った。中央の選手に合わせられた。


〇対二。


スタジアムが静まった。ルガーノのサポーターの顔が曇った。ベンチでコーチが腕を組んだ。


ニコラスはセンターサークルに戻りながら、周りのチームメイトを見た。


コンヤの最終節と同じ状況だった。二点ビハインド。前半まだ残り時間がある。


違ったのは、ニコラスの中に焦りがなかったことだ。コンヤのときは、チームへの不信感と孤独の中で戦っていた。あのときの冷静さは、感情を押し殺した冷静さだった。


今は違った。


ドスサントスが隣に来た。


「取り返せる」とドスサントスは言った。小声だったが、迷いがなかった。


「分かってる」とニコラスは返した。


「俺が前を向く。お前は走れ」


「走る」


---


前半四十分、ニコラスが動いた。


ドスサントスが相手のMFからボールを奪った。すぐに前を向いた。ニコラスはすでに走り出していた。DFの背後を取った。


ロングパスが来た。走りながら受けた。DFが追ってきた。速かった。でもニコラスの方が速かった。


ペナルティエリアに入った。GKが構えた。


フィジカルで時間を作った。右足を振り抜いた。


ゴール左隅。


一対二。


ドスサントスが飛んできた。「言っただろ!取り返せるって!」と叫んだ。


ニコラスはドスサントスの肩を一度叩いた。それだけだった。でもドスサントスには伝わったようだった。


前半終了。一対二。


---


ハーフタイム、ロッカールームでファリネッリが言った。


「一点は取った。後半も同じことをすれば、追いつける。焦るな」


選手たちが頷いた。コンヤのときと違った。誰も俯いていなかった。


チミニャーニが静かに言った。「レバーソンへのケアを一枚増やせば、あちらの右サイドは止められる。その分中央が空くが、俺とドスサントスで潰す」


ビスリミが「後半、俺がもっと走る。ニコラスへのコースを作る」と言った。


ニコラスは水を飲みながら聞いていた。


みんながそれぞれ考えている。コンヤとは全然違った。


---


後半が始まった。


チューリッヒは守備を固めた。二点のリードを守る気だった。ブロックを組んで、前に出てこなかった。


ルガーノがボールを持つ時間が増えた。でも崩せない時間が続いた。


七十八分、ニコラスが動いた。


中盤でボールを受けたドスサントスが前を向いた。チューリッヒのDFラインが高かった。ニコラスは一歩後ろに下がって、DFの視界から消えた。


ドスサントスのスルーパスが来た。


走った。DFが追いかけてきた。追いつかれなかった。


ペナルティエリアに入った。GKが飛び出してきた。


右足。右隅。


二対二。


スタジアムが弾けた。


八十分、今度はドスサントスがボールを奪った場所が違った。自陣だった。長い距離を持ち上がった。チームメイトが並走した。


ニコラスはゴール前に走り込んでいた。


ドスサントスのクロスが来た。ニコラスが飛んだ。ヘディングで合わせた。


三対二。


ドスサントスがニコラスに飛びついた。「三点!逆転!俺たちやったぞ!」と叫んだ。チミニャーニが珍しく両腕を広げた。ビスリミが静かにガッツポーズをした。


八十七分、ペナルティエリア内でドスサントスがボールを持った。ニコラスへのパスコースを探した。チームメイトがショートパスを回した。最後にニコラスへのパスが入った。


受けた瞬間、DFが寄せてきた。フィジカルで弾いた。一歩だけ前に出た。


右足で流し込んだ。


四対二。


---


九十分、ビスリミが追加点を決めた。


五対二。


試合終了の笛が鳴った瞬間、ドスサントスがまたニコラスに飛びついた。


「四ゴール!お前四ゴールだぞ!二点ビハインドから四ゴール!」


ニコラスは倒れそうになりながら立っていた。


「落ち着け」


「落ち着けない!」ドスサントスは笑い続けた。「こんな試合、生まれて初めて見た!レバーソンに二点取られて、そこから逆転だぞ!」


チミニャーニが来た。「今日の逆転、記録に残るだろうな」と静かに言った。


ビスリミが来た。「ありがとう」と言った。「俺のゴールも、ニコラスが四点取って相手が崩れたからだ」


ニコラスは少し間を置いた。


「ドスサントスのパスがよかった」


「俺のパスだけじゃない」とドスサントスは言った。「お前の走りがあったから出せた。どこに走るかが毎回わかる。怖いくらい」


ニコラスは少し考えた。


「お前がどこにパスを出すかも、毎回わかる」


ドスサントスはしばらく黙った。それから笑った。


「俺達、相性いいな」


「そうだ」


それだけだった。でもその短いやり取りの中に、この試合全部が入っていた。


---


夜、ゾーイから短いメッセージが来た。


「四ゴール見ました。コンヤの最終節を思い出しました」


ニコラスは少し間を置いて返した。


「違う」


「何がですか?」


「コンヤのときは一人だった。今日は違った」


ゾーイはしばらく間を置いた。


「成長していますね」


「当然だ」


「そのくらい言えるようになりましたね」とゾーイは返した。


ニコラスはスマホを置いた。


窓の外、ルガーノの夜に湖が静かに広がっていた。


コンヤのあの夜と同じ星空ではなかった。でも同じくらい、静かだった。


一人ではない静けさが、そこにあった。

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