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沈黙のストライカー  作者: ムーミンの丸焼き
アストン・ヴィラ3年目

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109/112

移籍オファー


---


一月だった。


移籍ウィンドウが開いた。


ゾーイから連絡が来た。「大事な話があります。電話できますか」


その日の夜、電話した。


「オファーが来ています」とゾーイは言った。「バイエルン・ミュンヘンです」


ニコラスは少し間を置いた。


「金額は」


ゾーイが数字を言った。


大きかった。ヴィラでの現在の契約の二倍近かった。


「期間は」


「五年です。今すぐ動けるなら、今冬の移籍も可能だと言っています」


「バイエルンが直接言ってきたのか」


「代理人を通してです。本気度は高いです」ゾーイは言った。「ニコラス、正直に言います。これは一生に何度もあるオファーじゃない。バイエルンはUCLを本気で狙っている。来季のスカッドにニコラスを組み込みたいと言っています」


ニコラスはしばらく何も言わなかった。


窓の外を見た。バーミンガムの夜だった。


「断る」とニコラスは言った。


「理由を聞かせてください」とゾーイは言った。責めている口調ではなかった。確認するような声だった。


「まだここでやることがある」


「具体的には」


ニコラスは少し考えた。「コーチングを始めた。チームを動かすことを覚えようとしている。まだ途中だ。途中のまま出ていきたくない」


「それはヴィラじゃないとできないことですか」とゾーイは言った。「バイエルンでもできる話では」


「違う」とニコラスは言った。「ここで積み上げてきたものがある。ワトキンスとの二年間。エメリーの指導。チームとの連動。それを途中で切りたくない」


ゾーイはしばらく黙った。


「わかりました」とゾーイは言った。「バイエルンには丁重にお断りします。ただ一つだけ言わせてください」


「何を」


「夏にも同じようなオファーが来る可能性があります。そのとき、今と同じ答えを出せるかどうかを、今から考えておいてください。やることが終わったとき、次に行けるように」


「わかった」


「あと」とゾーイは続けた。「今のヴィラでの働きは本当に素晴らしいです。数字だけじゃなく、チームへの影響が出てきている。それはバイエルンも見ています。だから来たんです」


ニコラスは何も言わなかった。


「おやすみなさい」とゾーイは言った。


電話が切れた。


---


翌日の練習後、ワトキンスがシュート練習をしていた。


ニコラスがボールを出した。


「バイエルンから来たそうだな」とワトキンスは言った。打ちながらだった。


「誰から聞いた」


「エメリーから少し。あとは雰囲気でわかった」ワトキンスは言った。「断ったか」


「そうだ」


「理由は」


「まだここでやることがある」


ワトキンスはボールを受けた。打った。ゴール右下に決まった。


「いい理由だな」とワトキンスは言った。


「ゾーイには、バイエルンでもできる話ではと言われた」


「そうか」ワトキンスは言った。「どう思った」


「違うと思った」とニコラスは言った。「でも言葉にするのが難しかった」


「でも断った」


「そうだ」


ワトキンスは次のボールを待った。「お前が言葉にできなくても断れる理由がある、ということだ。それは本物だ」


ニコラスはその言葉を聞いた。


「言葉にできない理由は本物じゃないと思っていた」とニコラスは言った。


「違う」とワトキンスは言った。「言葉にできないくらい当たり前のことが、本当の理由だ。言葉にしなきゃわからないものは、まだ迷いがある」


---


ボールを打ち続けた。


「やることが終わったら行け」とワトキンスは言った。以前と同じ言葉だった。


「そうするつもりだ」


「俺もやることが終わったとき、終わりにする」ワトキンスは言った。静かだった。「お前と一緒にプレーできる時間は、長くない」


ニコラスはその言葉を聞いた。


何も言わなかった。


ボールを出した。ワトキンスが打った。


二人でシュート練習を続けた。空が暗くなるまで。


---


夜、ニコラスはグレースに電話した。


「バイエルンからオファーがあった」とニコラスは言った。


グレースがしばらく黙った。「断ったの」


「そうだ」


「なんで私にわかるの」


「そういう声で言った」


グレースが少し笑った。「あなたはそういうとき、先に結果を言う」


ニコラスは何も言わなかった。


「正しい選択だと思う」とグレースは言った。「あなたがそう決めたなら」


「そうか」


「バイエルンはすごいクラブだけど」グレースは言った。「あなたには今、ヴィラにいる理由がある。それを大切にしなさい」


「わかった」


少し間があった。


「来月、通院があるわね」とグレースは言った。


「行く」


「仕事が忙しいでしょう」


「行く」とニコラスは言った。


グレースはしばらく黙った。「ありがとう」


電話を切った。


ニコラスは窓の外を見た。


来月、病院に行く。またあの待合室に行く。


エラがいるかどうかはわからなかった。


でも少し、頭の中にあった。


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