アリスターと代表合宿
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十二月、イングランド代表の合宿があった。
ヴィラから数人が招集された。ニコラスもその一人だった。
合宿地に着いた。ロッカールームへ向かう廊下で、アリスターがいた。
「ニック」とアリスターは言った。
「アリスター」
「久しぶりだな。チェルシー戦どうだった?」
「見た」
「ロングシュート、良かっただろ」
「チームの動かし方が良かった」
アリスターが少し笑った。「メッセージで言ってたな。お前、本当に変わったよ」
「何が」
「そういう部分を最初に言うようになった。前のお前ならゴールの話しかしなかった」
ニコラスは少し間を置いた。「コーチングをやっている」
「そうだろうな」アリスターは言った。「だからだと思った。話したいことってそれの話なんだ。後で時間ある?」
「ある」
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午前の練習が終わった。
食堂で昼食を取った。ベリンガム、サカ、他の代表選手たちがいた。ベリンガムがニコラスを見て軽く頷いた。ニコラスも頷いた。
サカがアリスターに話しかけていた。ユナイテッドとアーセナルの話だった。アリスターが笑いながら返していた。
ニコラスは黙って食べた。
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午後の練習後、アリスターとニコラスはグラウンドの隅に残った。
空が暗くなりかけていた。十二月の空気は冷たかった。
「話したいことって何だ」とニコラスは言った。
「ペドリの話だよ」とアリスターは言った。
「ペドリ」
「ワールドカップで俺たちと当たった。お前とも話したろ、試合後に」
「そうだ」
「あのとき俺、ペドリに話しかけたんだ」アリスターは言った。「試合前に少し時間があって。どうやってゲームをコントロールするか聞いた」
「何と言っていた」
アリスターは少し間を置いた。「『ボールを持つ前に、チームを見ろ』と言っていた」
ニコラスはその言葉を聞いた。
「ボールを持つ前に」
「そうだ」アリスターは言った。「ボールを持ってから考えるんじゃない。持つ前に、誰がどこにいて、誰が次に動けるかを見ておく。そうすれば、受けた瞬間に答えが出る。俺はそれを今季やっている」
「チェルシー戦でやっていた」とニコラスは言った。
「そうだ」アリスターは言った。「でもペドリがもう一つ言っていた。『自分が見えていても、相手に見えていることを気づかせろ』と」
「どういう意味だ」
「パスが来ると思って動いた選手は、強く動ける」アリスターは言った。「来るかどうかわからない状態で動く選手より、来ると確信して動く選手の方が速い。だから、パスを出す前に、相手に気づかせる。目を合わせるとか、体の向きを向けるとか。そういう小さなサインで、相手の動きが変わる」
ニコラスはその言葉を聞いた。
「コーチングだ」とニコラスは言った。
アリスターが少し驚いた顔をした。「そうか。そういう言葉になるのか」
「言葉で伝えることもそうだが、体で伝えることもそうだ。エメリーが言っていた。言葉だけがコーチングじゃない、と」
アリスターはそれを聞いて少し考えた。「なるほどな。俺がやっていることはコーチングだったのか。意識したことなかった」
「意識せずにやっていたのか」
「そうだ。ペドリに言われて、感覚でやってきた」アリスターは言った。「ニックも感覚でプレーする選手だろ。それは見ていればわかる。でも今はそこに言語化を加えようとしている」
「エメリーが言った。感覚だけだと、怪我やスランプで崩れたとき戻れなくなる。言葉にできれば、崩れても戻れる、と」
アリスターはそれを聞いて少し考えた。「なるほどな。俺もそうなのかもしれない。感覚でやってきたものが、ある日突然通じなくなったとき、俺は何も持っていないかもしれない」
「だからペドリの言葉を言語化しようとしているのか」
「意識してなかったけど、そうかもしれない」アリスターは言った。少し間を置いた。「お前と俺、根っこは同じで、積み上げ方が違うのかもな」
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しばらく二人は黙って空を見ていた。
「今季どうだ」とアリスターは言った。
「難しい」
「何が」
「コーチングを始めた。言葉が少しずつ出るようになった。でも変わった相手にどう接するかがまだわからない」
「変わった相手?」
「新しい選手が来た。最初は生意気だった。でもある試合で変わった。今は俺のプレーを見ている。でも何を言えばいいかがわからない」
アリスターはそれを聞いた。「その選手、今は何をしてるの?」
「俺へのパスを選ぶようになった。でもまだ自分で仕掛けたい気持ちが強い。両方あって、迷っている感じがする」
「それ、俺も似たような時期があったよ」とアリスターは言った。
「いつ」
「二年目かな。自分でやりたいけど、チームのために出した方がいいとわかり始めた時期」アリスターは言った。「あのとき、誰かに言われたわけじゃなかった。試合の中で気づいた。誰かがいいタイミングで動いてくれたとき、出すしかなかった。出したら点が入った。そこから変わったよ」
「言葉じゃなかったのか」
「言葉じゃなかった」アリスターは言った。「状況がそうさせた。その選手も、状況が変えるかもしれない」
ニコラスはその言葉を聞いた。
「ニックが何か言わなくても変わるかもしれない」とアリスターは続けた。「でもニックが状況を作ることはできる。いいタイミングで動いて、その選手がパスを出したくなる場面を作る。それもコーチングなんじゃないか」
ニコラスは少し間を置いた。
「そうかもしれない」
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「チェスターフィールドの話していいか」とアリスターは言った。
「何だ」
「お前、最近グレースさんの通院に付き添ってるんだろ」
「そうだ」
「体の具合はどう?」
「良くなってきている」とニコラスは言った。「薬が合ってきた」
「そう」アリスターは言った。「良かった」
少し間があった。
「俺、チェスターフィールドに帰ったとき、お前のことを町の人に聞かれるようになった」とアリスターは言った。「ニコラス・ロメロはどんな人間だ、あいつを最初に連れてきたのはお前だろ、って」
「そうか」
「誇らしいんだけど、少し複雑でもある」アリスターは言った。「俺が声をかけたのは事実だ。でもお前がやってきたことは、俺には何もできない。俺はただ声をかけただけだ」
ニコラスは少し間を置いた。「声をかけなければ始まらなかった」
「それはそうだけど」
「十分だ」とニコラスは言った。
アリスターが少し黙った。
「ニックに言われると、そうかもしれないね」とアリスターは言った。小さな声だった。
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夜の練習が終わった後、ニコラスはアパートの部屋に戻った。
アリスターの言葉が頭に残っていた。
「お前が状況を作ることはできる。いいタイミングで動いて、その選手がパスを出したくなる場面を作る。それもコーチングなんじゃないか」
言葉で伝えるコーチング。
体で見せるコーチング。
状況を作るコーチング。
エメリーが始めろと言ったときは、言葉で伝えることだと思っていた。でも今は、もっと広いものだとわかってきた。
パブロに何を言うかより、パブロがパスを出したくなる場面をどう作るか。
それが今の課題かもしれなかった。
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