ワトキンスとの会話②
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十一月の末だった。
リーグ戦が続いていた。ヴィラは首位から三ポイント差の三位だった。CLはグループステージを二勝一分けで通過しつつあった。
ニコラスのコーチングは少しずつ形になっていた。試合中に声が出る場面が増えた。ロジャーズとティーレマンスは反応するようになっていた。ワトキンスはほぼ毎回反応した。
でもパブロには届いていなかった。パブロはニコラスの声を聞いても、自分の判断で動いた。
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練習後、グラウンドに二人だけ残った。
ワトキンスがシュート練習を続けていた。ニコラスがボールを出した。ワトキンスが打った。ゴール右下に決まった。
「最近、声が出てきたな」とワトキンスは言った。次のボールを待ちながらだった。
「少しずつだ」
「試合中に聞こえる。ロジャーズが動く場面が増えた」
「ワトキンスはもっと前から動いてくれている」
「俺はお前の声に慣れているからな」ワトキンスは言った。「慣れれば動ける。他の選手もそのうちそうなる」
ニコラスはボールを出した。ワトキンスが打った。今度はポストに当たった。
「パブロはまだだ」とニコラスは言った。
「あいつは今、自分のことしか見えていない」ワトキンスは言った。あっさりしていた。責めている口調ではなかった。「でも変わる。ああいうタイプは何か一つきっかけがあれば変わる」
「きっかけが何かはわからない」
「わからなくていい」ワトキンスは言った。「お前がきっかけを作ろうとしなくていい。来たときに受け止めればいい」
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しばらくシュートを打ち続けた。
日が傾いていた。グラウンドが橙色になっていた。
「ニコラス、今季のサッカーは楽しいか」とワトキンスは唐突に言った。
ニコラスは少し間を置いた。「楽しいかどうかはわからない」
「わからない」
「ゴールを決めたとき、他のことが消える」とニコラスは言った。「それが楽しいというものかどうか、比べるものがない」
ワトキンスはそれを聞いた。「比べるものがない、か」
「サッカー以外でそういう感覚になったことがないから」
ワトキンスはしばらく何も言わなかった。ボールを蹴った。ゴール左上に決まった。
「俺はな」とワトキンスは言った。「去年より今季の方がサッカーが好きだ」
「去年より」
「年齢を重ねるごとに好きになっている」ワトキンスは言った。「若いころは夢中でやっていた。でも夢中とは少し違う。今は一つ一つの試合の重さがわかる。残り時間が見えてくるほど、一試合の重さが増す」
ニコラスはその言葉を聞いた。
「残り時間が見えてくる」とニコラスは繰り返した。
「そうだ」ワトキンスは言った。静かな声だった。「お前にはまだ遠い話かもしれないが、俺にはそれが見えている。だからこそ、今日のこのシュート練習も、馬鹿にできない」
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「子供たちの話をしていいか」とワトキンスは言った。
「聞く」
「先週、下の子が初めてボールを蹴った」ワトキンスは言った。「まだ三歳だ。うまく蹴れなかった。でもその顔がな」
ワトキンスが少し笑った。珍しかった。練習中にそういう顔をする人ではなかった。
「どんな顔だった」とニコラスは言った。
「初めてボールが転がったとき、目が変わった」ワトキンスは言った。「何かに気づいたときの目だった。俺もあの目をしたことがあるんだろうなと思った」
ニコラスはそれを聞いた。
初めてボールを蹴った日のことを思い出そうとした。十六歳だった。アリスターに誘われてグラウンドへ行った。サッカー教室だった。
あのとき、目が変わったかどうかは自分ではわからなかった。でも何かが始まった感覚は覚えていた。
「お前はどんな感じだったんだ、最初に蹴ったとき」とワトキンスは言った。
「遅かった。十六歳だ」
ワトキンスが少し笑った。「相変わらず信じられないな」
「そうだ」
「それで今ここにいる」ワトキンスは言った。少し間を置いた。「それはすごいことだぞ」
ニコラスは何も言わなかった。
「すごいことだと思っていないか」ワトキンスは言った。
「考えたことがなかった」とニコラスは言った。「やるべきことをやってきただけだ」
「それがすごいことだ」ワトキンスは言った。「大抵の人間は、やるべきことをやれない」
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「家族のことを聞いていいか」とワトキンスは言った。
「何を」
「お父さんのことだ。よければ」
ニコラスは少し間を置いた。「いないも同然だった」
「そうか」
「ラ・リーガ2部のGKだった。俺が十六歳のとき死んだ」ニコラスは言った。「それだけだ」
ワトキンスは何も言わなかった。
しばらく沈黙があった。
「俺に子供ができたとき」とワトキンスは言った。「自分はどういう父親になるかを考えた。うまくやれているかはわからない。でも考えている」
ニコラスはその言葉を聞いた。
前に、ワトキンスが言っていた言葉を思い出した。「家族がどういうものか知らないなら、自分がどういう家族にしたいかを考えればいい」。
「考えることが大事なのか」とニコラスは言った。
「そうだ」とワトキンスは言った。「考えている人間は、いつかやれる。考えることをやめた人間は、やれない」
しばらく沈黙があった。
グラウンドに風が吹いた。芝が揺れた。
「お前はいつかここから出ていくのか」とワトキンスは言った。
ニコラスは少し間を置いた。「オファーは来ている」
「知っている」ワトキンスは言った。「ゾーイさんから断ったと聞いた」
「まだここでやることがある」
ワトキンスは頷いた。「それが理由か」
「そうだ」
「他には」
ニコラスは少し考えた。「ここで終わりたくない」
ワトキンスが少し首を傾けた。「ヴィラで終わりたくない、ということか」
「ここで完成したくない」とニコラスは言った。「まだ途中だ。途中のまま出ていきたくない」
ワトキンスはその言葉を聞いた。少し間を置いた。
「それでいい」とワトキンスは言った。「やることが終わったら行け。それまでここにいろ」
ニコラスは頷いた。
「俺も」とワトキンスは続けた。「やることが終わったとき、終わりにする」
ニコラスはワトキンスを見た。
ワトキンスは前を向いていた。グラウンドの向こうを見ていた。
何も言わなかった。でもその言葉の重さはわかった。
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ロッカールームへ向かいながら、ワトキンスが言った。
「サッカーへの熱を大切にしろ」
「前にも言っていた」
「何度でも言う」ワトキンスは言った。「それがなくなったとき、俺たちはただ走っているだけになる。お前のその『他のことが消える』感覚、それが熱だ。大切にしろ」
ニコラスは頷いた。
グラウンドを出た。空が暗くなっていた。
ワトキンスの言葉が頭に残っていた。
残り時間が見えてくるほど、一試合の重さが増す。
ニコラスにはまだその感覚はなかった。でも今日、少し、その言葉の重さがわかった気がした。
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