陰口
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十月の半ば、練習が終わった後だった。
ニコラスはグラウンドに残ってシュート練習をしていた。ほとんどの選手はロッカールームへ戻っていた。
グラウンドの隅に、パブロとパウ・トーレスがいた。スペイン語で話していた。
ニコラスには内容はわからなかった。でも時々こちらを見ていた。
パブロが何か言った。パウ・トーレスが苦笑した。パブロがまた何か言った。笑っていた。
ニコラスはシュートを打ち続けた。
パウ・トーレスがパブロに何か返した。今度は笑っていなかった。声のトーンが少し下がっていた。パブロが軽く手を振った。気にしていない様子だった。
しばらくして、パウ・トーレスがニコラスの方を一度見た。目が合った。パウ・トーレスはすぐに視線を外した。居心地悪そうにロッカールームへ向かった。
パブロはその場に残った。スマートフォンを見始めた。
ニコラスはもう一本打った。ゴール左上に決まった。
何も言わずにロッカールームへ向かった。
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ロッカールームに入ると、デュランがロジャーズに話しかけていた。
「さっきパブロとパウが何話してたんだ」とデュランは言った。
「聞こえなかった」とロジャーズは言った。
「スペイン語で話してるのはわかった。パウの顔が途中から曇ってたけど」
ロジャーズは少し間を置いた。「パブロは言いたいことを言う子だから」
「ニコラスの話だろ、どうせ」デュランは言った。「あいつ最近、何かあるたびにニコラスに絡んでくる。マルティネスさんに言われても、俺に言われても、共感してもらえないし叱られるばかりだ。その分、直接ニコラスにぶつけてる」
ニコラスは着替えながら聞いていた。
何も言わなかった。
デュランがニコラスを見た。「気にしてるか」
「していない」
「そうか」デュランは言った。「でもパブロ、才能はあるぞ。口が悪いだけで」
「知っている」
ロジャーズが言った。「パブロはヴィラに来たばかりで、まだ試合にも出られていない。焦っているんだと思う。ユースでは無双していた。でもトップチームに上がったら誰も自分の言うことを聞いてくれない。その焦りの向け先がニコラスになってる」
「ユースで無双していた、か」とニコラスは言った。
「そうだ」とロジャーズは言った。「パブロくらいの年齢で、あれだけ動けるのはプレミアでも珍しい。本人もそれをわかってる。だから余計に今の状況が受け入れられない」
ニコラスは着替えの手を止めた。
「チェスターフィールドに来たとき、俺も似ていたかもしれない」とニコラスは言った。
デュランが少し驚いた顔をした。「お前が?」
「言葉に出さなかっただけだ」とニコラスは言った。「自分が何者かわかっていた。でも周りはわかっていなかった。それが苛立たしかった時期がある」
ロッカールームが少し静かになった。
「でもお前は人に絡まなかったろ」とデュランは言った。
「そうだ」とニコラスは言った。「でも絡まなかっただけで、苛立ちがなかったわけじゃない」
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着替えが終わった後、ニコラスはロッカールームを出た。
廊下でパブロとすれ違った。
パブロがニコラスを見た。何か言おうとした。でも言わなかった。
ニコラスもパブロを見た。
「さっき、グラウンドで話していたとき」とニコラスは言った。「何か言いたいことがあるなら直接言え」
パブロが少し固まった。
「スペイン語で話していたのは知っている。内容はわからなかった」とニコラスは続けた。「でも直接言ってくれた方がいい」
パブロは少し間を置いた。「なんで直接言った方がいいんですか。どうせロメロさんは何も言わないじゃないですか」
「今、言っている」
パブロはその言葉を聞いた。
少し口を開いた。何か言おうとした。でも何も出なかった。
ニコラスは廊下を進んだ。
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その夜、ニコラスはアパートで今日のことを考えた。
パブロに「直接言え」と言えた。
でもそれが伝わったかどうかはわからなかった。パブロの表情が固まった。それだけだった。
ロジャーズが言った言葉が頭に残っていた。「言葉じゃないかもしれない」。
コーチングは言葉で伝えることだとエメリーは言った。でも伝わり方は言葉だけじゃないのかもしれなかった。
パブロが変わるとしたら、どういう瞬間なのか。
ニコラスにはまだわからなかった。
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