ハピネス藤井
「人間関係にお悩みのようですね」と俺が言うと、その婆さんは「わ、わかるんですか?」と言った。
そりゃ、わかるさ。 人生相談なんて人間関係に悩んでるに決まってる。
俺は、ハピネス藤井。スピリチュアルオーラカラー人生相談を生業にしている。ようはセコいペテン師だ。日本中の町を回って年寄り相手に人生相談を受けて金を貰ってる。
「実は、旦那が…」
「わかります。オーラカラーが淀んでいますよ」
「そうなんです、聞いてください…」
ちょっと相槌を入れば、勝手に喋り出す。少し落ち着いたら、こう言う。
「オーラカラーが本来の色に戻ってきましたね。澄んだブルーです。魂が落ちついてきたのでしょうね。あなたの思うようになさると良い。きっと上手くいきますよ」
「ありがとうございます。ハピネス先生!」
チョロいもんだ。たったの1000円で愚痴を聞いて貰えるなら彼女らも安いもんだろう。実際、愚痴を吐き出すだけで心が整理され問題が解決する事も多いもんだ。
こんな俺だけど、幼い頃は本当にオーラが見えた。
酒を飲み暴れる父の、不条理な怒りの赤いオーラ。
俺を庇う母の、悲壮な暗い紫のオーラ。
母は、父のDVから自身と俺を護る為に俺を施設に預け失踪した。
※
次の相談者は小さな婆さんだった。面持ちが暗い。このような相談者には、少し黙っておけば良い。
彼女は顔を伏せて言った。
「息子に謝りたいんです。息子は許してくれるでしょうか」
彼女の小さい身体から、悲壮な暗い紫のオーラが見えた。俺は震えながら彼女の肩に手をのせて言った。
「許すよ。母ちゃん…」
「幸一… なのかい?」
「そうだよ。幸一だよ」
母ちゃんのオーラが冷たい紫から温かいオレンジ色に変わっていく。覚えてる。優しい母ちゃんのオーラだ。
俺は、やっと探していた母ちゃんに会うことができたんだ。
※
俺は、ペテン師を辞めた。
今は介護の仕事をしながら、この町で母ちゃんと暮らしている。




