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第一章.第2話 魔族会議


 「ん〜!冷てえ〜!!でも、生き返るぅ〜!」


 魔王は、噴水の水で顔を洗いながら先程の出来事について思いをはせていた。

 さっきのあいつがこの世界の勇者で俺は目が覚めたら、いつの間にか魔王になっていた。

 水面に映る厳つい顔、鋼鉄の如く硬い皮膚組織、夢の中にしては、朧げでもなくやけに意識がはっきりとしている世界……これは、本当に夢の中なのだろうか?

 ひとしきり顔を洗い終えると魔王は、先程の部屋に戻り席についた。


「え〜、ごほん。それでは、魔王様も戻られましたのでこれより、より良い魔界を作るための会議、通称魔族会議を始めさせて頂きたいと思います。司会進行は、私、コウネルが務めさせていただきます。それでは、みなさんお手持ちにある書面にお目を通し下さい。」


 テーブルの上には、8枚程用意された紙束と『昨今の気候変動における魔界の被害状況について』と記された書類が上に載せてあった。


「え〜、わが魔界におけます昨年の竜巻被害が例年を凌ぐ甚大な被害を及ぼしており、毎年実施しております従来型の住宅再建案だけでは、新築の住宅を作るのにおよそ数年の時をようすことが判明致しました。

 それにあたり、この問題をなるべく早期に解決させるために皆様から広くご意見を賜りたいと考えているのですが、どなたかご提案される方は、おられますでしょうか?」


 沈黙した空気の中、猪の魔族がスッと手を挙げた。


 「はい。ブレンジルス殿。」


 「人をさらってくる。」


 訝しげな魔族達の視線が一斉に猪の魔族に注がれた。


 「ブレンジルス殿、それでは人との間にいらぬ争いを生じさせてしまうでしょう。その案は、却下させていただきます。次、ガルシウス殿。」


 「木を自生させ、その木が大木になるまで待ち、大木をぶった斬ってから家を建てる!!!」


 「ガルシウス殿…それでは、木が育つまでの間にいったい、いくつの時が流れますでしょうか?これは、今すぐにも解決すべき問題なのですぞ!はいっ。次、チンジャーン殿。」


 「家を建てたいものが家づくりの資材をかき集め、その者が家を建てる。」

 

 

 

 「チンジャーン殿、それは確かに効率的ではありますが、それだと力有る者と無い者との間で家造りの過程に大きな差が生まれてしまうのではないでしょうか?

 我々の支援策は、家を失くし困っている魔族達に等しく提供できなければ意味がありませぬ。他に意見が有られる方は、おられますかな?」


 再び沈黙の時が辺りを支配する。


 「無いようであれば、残念ながらこの問題は、しばしの間先送りにして……うん?」


 魔王が天高く左腕を伸ばしていた。


 「魔王様。どうかなさいましたか?」


 「地図を。」


 「へっ?」


 「この国の地図をここへ。」


 司会を務めていたフクロウの魔族は、慌てた様子で椅子から立ち上がり、中央の戸棚に仕舞ってあった丸まった地図を魔王の前で広げて見せた。


 やはりあったか。とりあえず今は、この流れに上手く話を合わせて…。


 「このヒバラシの森の上流から川で伐採した木を運んでくると言う考えはどうだ?

 そうすれば資材を楽に運び入れ、自由に家を建てることもできよう。」


 魔王の指さした方向を食い入るように眺める魔族達。


 「さすがは、魔王様。見事な提案でござります!」


 まじか、適当に言っただけなのに…。


 「では、早速そのように取りまとめておくことに致しましょう。」


 「意義あり。」


 魔族達の視線が一斉に猪の魔族ブレンジルスに集まった。


 「川の上流の木材を家造りのために使う…だと?

 ふざけんじゃねぇ!俺は、そんなやり方絶対に認めないからなぁっ!!」


 「ブレンジルス殿、いったいどうなされたのですか?何かご不満でも?」

 

 「大有りだぁっ!!!!!」


 ブレンジルスは、テーブルを勢いよく持ち上げるとちゃぶ台をひっくり返すように裏がえしにした。


 「それじゃあまるで!俺が大っ嫌いな人間の真似事をしているみてぇ〜じゃねぇかぁっ!!誰がぁあんな貧弱な奴らの真似事なんざできるかぁ!!!!」


 怒気を孕んだ興奮しきった声で周囲を睨み付けるブレンジルス。


 「落ち着け。ブレンジルス。貴殿の気持ちも分からなくはないが、ここは王の座す玉座の間。あまり調子に乗った行動は慎めよ。」


 「けっ!」


 大鷲の魔族に窘められるとブレンジルスは、そそくさと玉座の間から去っていった。


 何…今の?あんなリアルちゃぶ台返し、生まれて初めて見たんだけど…。


 「魔王様、大変申し訳ありません。あの者には、私の方からきつーく言って聴かせておきますのでどうか今日の所は、ご容赦を。」


 「ああ、気にしていない。それよりも先の件、よろしく頼むぞ。」


 「はっ!」


 魔王は、席を外すと玉座の間から去っていった。


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