浮遊島塊群から違うパターンの遺跡へ突入
ちなみに『風霊王の古祠』の場所は当然知っている。
場所を知っているのは、他の古祠でもそうだけど前世でほぼ毎日全体マップや設定資料を読み漁ったから。……もちろん、細かい部分は違っている場合もあったけれど、そこまで大きなズレは無く、目安として充分役にたっていた。
そんな訳で「俺だけが知っている……既に実績もあるから多分大丈夫」なんてフワッとした根拠で仲間を連れ回す。前の実績を知らないメンバーからは不安に思われているかもしれないけれど、文句を言う事無く付き合ってくれる仲間は全員優しい。これだけは間違いない。
一度経験すれば、不安になる仲間はいないんだけどね。全部『未来予知』という形で処理してくれるから。ユニーク職万歳である。
……ユニーク職といえば……。
「ねぇ、ヒカルンの天職【盾機士】ってどんな天職なん?」
「あ、そんな凄い天職じゃないよ。自分専用の盾を呼び出す天職なの。スキルを使っても誰かのために呼び出せないし、違うデザインの盾も出せない。呼び出した盾を誰かに渡すこともできない。無理に手放すとその時点で霧散しちゃうの」
移動中の馬車の中、そんな話を切り出すと彼女は申し訳なさそうに答える。ただ、それではどんな天職なのか判断できない。
「……見る?」
「見たい」
そう言うと、彼女は馬車の荷台から器用に降り、俺もそれに続く。……まぁ、大した速度じゃないから危ないわけでもないんだけど。
「〈マナ・マテリアライズ〉」
そう言うと、彼女の左腕に全身を隠すタワーシールドサイズなカイトシールドが現れる。
「大きいでしょ? わたしの意思で分離はするんだけど、形を変えることはできないの」
そう言って彼女はシールドを分解し、まるで〈サイコキネシス〉のように飛ばして見せる。よく判らないが、盾は大気に含まれているマナという魔素を圧縮して固めたような物質らしい。
〈マーク〉を施した短剣を近くにあった木に突き立てたら準備完了。
「じゃあ、行くよ? ……《自己責任な浮遊》」
目的地である『浮遊島塊群』の1つの下まで辿り着く。トモリルは俺の背中に飛びつき後ろから羽交い締めし、両脚を俺の腰に回す。そして、魔法を発動させると空へと浮く。
「この魔法は一時的に無重力になる魔法なの。今はサクリ君が地面を踏んでいた力で上に上昇している感じ。浮遊島の地面が見えたら〈テレポート〉で移動すれば安全に移動できるはず」
「そうだね。〈テレポート〉の仕様を話しておいて良かったよ」
〈テレポート〉の移動先は視界範囲である。高いところから低いところへは一瞬で移動できるが、低いところから高いところへは地面が見えないので移動ができないというわけで。『だったら高いところへ昇れば良い』とのトモリルの提案により実現したわけで。
……確かにこの方法だったら理論上、〈テレポート〉が有効に使える。
もちろん、高いところへ上がる手段は他にもある。ただ、失敗する確率が高く背に腹を変えられない場合にしか試そうとは思えない。一方、この方法であればトモリル曰く簡単らしい。
浮いて島に移動を繰り返し、目的地に辿り着く。遺跡の手前の木に〈マーク〉を施した短剣を突き立てた。鎧を脱いで上半身全裸になる……これで準備完了。
「じゃあ、行ってくる」
……〈リコール〉。
「あっ、お帰り」
「ただいま。んじゃ、移動するよ。腕を伸ばして、なるべく自分の身体を離すようにして俺に触れて」
こうすることで、より多くの人が俺に直接触れることができるはず。
「無理して全員が触らなくても大丈夫。3往復すれば全員行けるでしょ」
この全員には官職以外のノーマル職とユカルナ達、未成年の3人は含まれていない。
繰り返し輸送をして、最後の輸送時。
「わたしも行きたい」
ユーリンチェルは近づいて俺に触れる。
「大変だけど覚悟できてる?」
頷くのを確認して、最後の〈リコール〉。
「これで全員だね。総勢27名。これなら魔人族の襲撃があっても戦える」
「行く前から物騒なこと言わないで」
クレアカリンに叱られた後、俺達は『風霊王の古祠』へと入った。
『風霊王の古祠』は、他の2つの古祠とは仕様が大きく異なっていた。
これまでの古祠は最下層を目指していくモノだった。ただ、この古祠は上を目指す。
「やっぱり2階から様子が明らかに外観と違うね」
「目指すは11階よ。付いて来られない人がいたら休憩するから言ってね」
ヴィエルが俺達を先導するように飛んでくれている。……今は俺にしか見えていないが上に上がれば見える人が増えていくだろう。
「ありがとう、ヴィエル。……ヴィエルが案内してくれているから、迷うことは無い。焦らずはぐれないように行こう」
みんなに声を掛けながら進む。……それにしても、ヒカルピナは盾役だというのに俺の隣を歩く。流石に空気を読めていないだろう。注意しようと思った矢先、それを察したかもしれないサキマイールが俺の反対隣りへ来て彼女に話しかける。
「ヒカルピナさんは前世でサクリのゲーム仲間だったんでしょ? どんなゲーム?」
「『フロンティア・オンライン』っていうMMORPGで……」
……いや、その話は俺を挟んですることですか? まぁ、サキマイールのことだから意図があると思うんだけど……。
「えっと……スキル制のファンタジーモノで。経験値を稼いでレベルが上がるとスキルポイント上限が増えるんだけど、その増えた分だけ使用したスキルのポイントが上がって、上限以内でポイントをやり繰りして自キャラを育てて……」
「それって、今みたいに役割を分けて行動する感じ?」
「そうですね。タンカー、アタッカー、スカウト、ヒーラー、キャスター、バッファーと役割を決めてスキルを育てる感じです」
それぞれの役割を饒舌に説明するヒカルピナ。それを一通り聞き終えた後。
「なるほど。じゃあ、今のヒカルピナさんはタンカーって感じ?」
「ですね……あっ……ごめん、サクリ君。仕事してくる……ありがと、サキマイールさん」
ヒカルピナはサキマイールに頭を下げると隊列の前へと向かって行った。
ある意味名前通りではあるのだが、風が強い。救いはその風が冷風ではないこと。微妙に温かい風は追い風で背中を押されるようで、個人的には楽ちんだ。それもヴィエル曰く、歓迎されているからだという。
1~2階は大したことがなかったので油断したのだが、3階以降は風が強くなり女子達の内、下ろしている髪型の人は髪が暴れて大変なことになっていた。……まぁ、冒険者をしている時点で髪を気にする人はいなかったけれど。それでも、視界を妨げるのは危ないからとフード付きのローブを着て貰った。
そんな風が強くても他の古祠同様に敵は現れる。敵は妖魔のハーピー。よく女性型のモンスターとして前世でも有名ではあるが、現実は……男も女も当然居る。しかも女も美女ではない。
初めてハーピーを見たんだけど、イメージが前世のモノだったので、ガッカリ感が半端ないが、考えてみればガッカリされたハーピーも勝手にヒューム族にガッカリされて憤慨しているに違いない。……この場合、悪いのは俺だと思う。
しかし、悪いからって殺されるわけにもいかないわけだが……結論から言うと俺の出番は無かった。
ザシュン!
ワカナディアの鋭い矢の一撃がハーピーを貫く。ハーピーは向かい風故に動きが鈍く、背後を取ろうとするが、矢と魔法により阻まれている。
たまらず低い位置に降りてくると、鋭い一撃に仕留められる。
「おっし! やった~!」
嬉々として喜ぶヨークォットを見ていると脳がバグる。まるで、クレーンゲームでぬいぐるみを取って喜ぶような可愛い声なのに、やっていることは一方的な殺戮行為。行動だけ見ればドスのきいた低い声で圧を感じそうなものなのに……いや、逆に怖いのか?
……目を閉じたら、絶対に戦闘しているとは思えない。
どんなゲームでも適正レベルよりかなり高レベルな上に大人数で攻略すればヌルゲーになる。特に今回は、充分にレベル上げをしてきたので無傷で進む。尤も、無傷で進めている一番の功労者は何かと問題行動の多いヒカルピナである。
彼女の盾は最大20個のパーツに分離し、その20個のパーツを〈サイコキネシス〉で動かしているかのように彼女の意思で自由自在に動く。それだけでなく、3個のパーツで結んだ面をバリアにして攻撃を弾く。この盾の仕様により、バリアを張ったまま移動も可能なのだ。……弱点は盾で攻撃を受けている間は盾が動かせないことだけ。
……充分すぎる機能である。
順調に上へと登るにつれてヴィエルの姿が他のメンバーにも薄っすらと見えてくる。【精霊術士】の3人には声も聞こえるみたいだが、フェアリー語なので意味が解らないらしい。
「あれ? ……えっ、嘘……」
先導してくれたヴィエルが動揺している。しかし、特に何かあったようにも思えない。
「どうした?」
「変なの! 何かあったのかもしれない。お願い、少し急いで」
多分、本当は俺達を放置してでも先を急ぎたいという雰囲気が感じられていた。
「みんな、何か問題が発生したらしい。あと少しだし移動速度を上げるよ!」
もしかしたら追い風は早く来て助けて欲しいというメッセージだったのかもしれなかった。
最上層である11層目。視界に納まる範囲だけでも、壁や柱が壊されていて、戦闘の跡が残っていた。
「……これは……」
ヴィエルはしばらく茫然としていたが、急に動き始める。それに付いて行こうとすると彼女が止まった。
「サクリ君達は一番奥、上位精霊であるガルーダ様の元へと向かって!」
「1人で平気? 付いて行こうか?」
「平気。元気なあたしより、今はガルーダ様が心配なの。早く行って!」
不安そうなヴィエルのことが心配ではあったが、俺達は一番奥へと向かった。
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