【風水士】サオリスローゼ=フォリデシア
「落ち着いて。さぁ、あなたが賜った新たな天職は?」
……予知夢? いや、もう驚かない。もう「このタイミングで?」という疑問が無駄であることは今のトゥーベント王国なら当然とも言えた。だって、先が予想できないんだから。
「【風水士】です。職業は冒険者ですね」
「冒険者ですか……危険ですよ? 何故冒険者に?」
【職審官】が少女に尋ねる。これ、実は珍しいパターンなのでトゥーベント王国での推しの【風水士】ユニットは2人いるが……今、誰か判った。
「村を出るため。もう、限界だから」
彼女はそう言うと、深々と【職審官】に頭を下げると教会を出ていく。
彼女の名はサオリスローゼ=フォリデシア。尻まで届く淡い藍色の髪と深い藍色の瞳。髪と瞳の色が同色なのは【風水士】として適性が高い証だと攻略サイトを漁っている者にとっては有名な話。一応、大切に育てれば報いてくれる程度には適正のあるユニットである。
視界が暗転し、アニメーションが始まる。
「ただいま」
……返事は無い。ただ、僅かに聞こえる音が主の存在を主張した。
「……」
真っ直ぐに自室に入り、急いで荷物を纏める。
家の奥に居るのは父親だ。音がしているので、きっと酒を飲んでいる。それでも返事をしないのは既に泥酔している。または、寝てしまっているか?
判断は難しいし、確認も行かない。何故なら藪蛇になることが間違いないからだ。
冒険者になって家を出たいと思っていた。今日という日に備え、こっそりと荷造りはしていた。あと詰め込むべきは普段使いの日常品のみ。……もう帰って来ることはないだろうから忘れ物は許されない。
……そんなモノローグが流れ、彼女はそっと出ていく。
「冒険者になります。もう帰って来ません」
そんな置手紙を玄関の扉に張り付けて、家を出る。……どうせ、部屋に置手紙を残しても、直ぐに見つけることはできない人だから。
……これで自由。
サオリスローゼは真新しい装備に身を包み、お世話になった人達へ挨拶に向かう。翌朝出発した方が良いかも知れないけど、彼女は一刻も早く家を出たかった。
最後に彼女は振り返り、幸せだった幼い頃の思い出を詰まった家を記憶に焼き付けた。
視界が暗転し、別のシーンに飛ぶ。今回はサオリスローゼの何を見せたいのだろうか?
またアニメーションだ。サオリスローゼ関連のクエストの最初、過去回想シーンだ。
「わたしには父がいるの。職業は画家。……もう画家なんてトゥーベントには数えきれない程いるというのに、画家。しかも素質もなくて描いても売れない。それでも描いている内は良かったよ」
彼女は語る。幼いサオリスローゼと若き売れない画家。そして家族を支える母。
「お父さんは幼い頃から画家になりたかったわけじゃないらしいの。昔、お母さんがしてくれた話によると、お父さんの両親は城で務めていた人達らしくて、王族では無いけど平民としては裕福な家だったらしくて……お父さんはずっと立派な人になりたいと思っていたらしいの」
城勤めは裕福な生活を保障される。だから、ノーマル職でも『官』の文字が入った天職は当たりと言われている。希望すれば城勤めや国営機関への就職が可能になるから。
「そんなお父さんの天職は【算術官】。女神ナンス様は銀行員になりなさいって言っているようなものだった。銀行員になっていれば優秀な人材になれたかもしれない。それなのに、お父さんは結婚を機に仕事を辞めた。画家になるために」
……まぁ、初見でこれを見た時は何故って思ったけれどね。この世界の住人になって改めて思うのは、父親が屑すぎるってこと。
「お父さん、それまでの人生で絵を描いたことがないんだって。それなのに何故画家になろうと思ったのかお母さんが聞いたんだって。そしたら、たかが絵を一枚描いただけで自分より金と名声を得ている画家なんてボロい商売だ。銀行で働くより楽に稼げる……だそうで、それを初めて聞いた時は本気で呆れたわ」
……それでも本気で絵を描きつつ、【算術官】がレベルクラウンになった暁には画家の才能が含まれる天職を賜れたかもしれない。
「幼い頃は本当に毎日、お父さんは絵を描いていた。だから、お母さんはお父さんを応援するために専業主婦だったのに仕事を探した。お母さんの天職は【調理師】で、早朝から夜遅くまで働いた。幼い子供であるわたしの面倒を見ながら」
実際は違うんだろうけど、アニメーションではずっとサオリスローゼをおんぶしながら厨房で仕事をし、サオリスローゼがそれなりの大きくなると、店のマスコットとして母親と一緒に居る。……その間、父親は1人で絵を描いていた。
「元々、それほど身体が丈夫じゃなかったのかもしれない。仕事中にお母さんは倒れた」
駆け寄る店主、そしてサオリスローゼ。お客さんは「【薬研師】だ、【薬研師】!」と騒いで店から出ていく。
しかし、母親は亡くなる。
葬儀で墓地に埋葬される母親を見るサオリスローゼと父親。ただ何も言わずに泣く彼がその時何を考えていたのかは描写されない。ただ、これを機にサオリスローゼの人生が大きく変わる。
「……俺はもう、ダメかもしれない」
「……お父さん?」
最後にポツリと呟く父親。サオリスローゼは不安そうに父親の顔を見上げていた。
視界が暗転し、時系列的には次のシーンに飛ぶ。イベントアニメーションを見る順番としては逆なんだけどね。
……これは、オープニングで流れるアニメーションの後半だな。
「お腹……減ったよぉ……」
村の中を汚れた格好でフラフラと歩く。何か食べ物を求めて。
母親が死に、父親は完全に壊れてしまった。多分、サオリスローゼの視点で話が進行しているからなのだと思うが、父親の心理描写は流れない。明らかなのは、自身の妻を失い生きる気力を失ったということだけ。
「何か……食べ物……」
家に食べ物は無かった。お金も無かった。いや、厳密にはあった。何故なら父親は酒を飲んでいたから。それでも、娘に食べ物を与えるということはしなかった。声をかけても反応しない。もしかしたら、父親の目には娘が映らないのかもしれない。
だから、家を出た。食べ物を誰かに恵んでほしくて。自分を知っている大人の誰かに助けてほしい……そう願って。
でも、誰も助けない。……村全体が貧しく、他人を助けられるほどの余裕がないから。
「……誰か……助け……て……」
遂に立っている事も難しく、倒れる寸前に大きくゴツイ腕が彼女を支える。
「大丈夫か?」
「あっ……」
ぐぅぅぅぅぅぅぅ。
腹の虫が爆音で鳴る。それを聞いた大男はニヤリと笑う。
「なんだ? 腹減ってんのか? しょうがねぇ。こっち来な」
その大男は食堂に入る。
「好きなもん、食え。ガキが空腹で倒れるとか洒落にならねーからな」
「いいの? わたし、お金……ない……」
「ガキがそんなもん気にするな。遠慮せず食え」
そう言って、大男はウェイトレスを呼んで適当に注文し、彼女も何かを注文。すぐにテーブルいっぱいに料理が運ばれてきて、彼女は一心不乱に食べ漁る。
「……何、泣いてんだ? そんなに旨いか?」
「美味しい……久しぶりのご飯……美味しいよぉ」
大男は、苦笑しながら「ゆっくり食え」と彼女の食いっぷりを自身も食べながら見守った。
「……お前、親は?」
彼女が満腹になった頃を見計らって、大男が尋ねる。
「お母さんは死んじゃった。お父さんはいるけど……」
そこで彼女の口が閉ざされる。
「……歳はいくつだ?」
「10歳」
「……はぁ……しょうがない。また腹減ったら飯食わしてやるけど、タダ飯はやらん。手伝いをして貰うぞ?」
「……手伝い?」
それが彼女の転機。視界は暗転して、次のシーンに飛ぶ。
その大男は村で雑用屋という店を営んでいた。……多分、アイアン級の冒険者で村には冒険者の店が無いから、兼ねる感じだろう。女性と2人だけで運営されていて、見た目で夫婦だろうなとは思ったが、会話で事実を明らかにされることはない。
サオリスローゼはその実質従業員としてお手伝いをしていた。その代わりに昼と夜の食事とお小遣いを貰っていた。そのお小遣いは店で管理されていて、家にお金を持ち帰ることは彼女が拒否した。
視界が暗転して再び明るくなると、そのシーンは時系列的にオープニングBパートのアニメーションの続きだった。多分、意地でも時系列順に見せるつもりなのだろう。……まぁ、ゲームではないから謎を小出しにする必要もないからかもしれない。
「サオリスローゼを出せ。この店で働いているのは知っている」
雑用屋に現れたのはサオリスローゼの父だった。彼女は店の奥で姿を咄嗟に隠して聞き耳をたてる。
「お嬢ちゃんはもう辞めたよ」
……扉に張った手紙、見なかったの?! ……とテロップが流れる。
「なら、未払いの給料分を渡せ。あとで娘に渡しておく」
「そんなもんは無い。辞めた時に清算済みだ」
しばらくの口論の後、父親はトボトボと帰っていく。そんな後ろ姿を3人で見送った。
……んっ……目が覚めた? まだ、仲間に入るシーンとか見てないが?
父親の背中を見送った後でアニメーションが終わって、多分タイミング的にあの直後に【剣の乙女】が現れて、話しかけると仲間に加わるんだよな。タイミングだけがシビアなだけで仲間に招くのは簡単。
そんなサオリスローゼの強さだけど、普通に育てた場合は中の上程度の実力。もちろん、仲間に入れた後、積極的に戦場に送り出し、ステータス調整を行った状態での話。更に強くするには装備やアイテム類を充実させないと、最終戦でレギュラーユニットの地位は厳しい。
それでも俺は彼女を毎回最終戦まで連れて行く。理由は明確。……可愛いからだ。性格だって保護欲を刺激する甘えん坊キャラである。まぁ、そのせいで女性人気は微妙ではあるものの、何より声が好き。演技力があることは前提となるものの、普段可愛い系の演技が少ない声優さん故に初めて聞いた時は「誰? 可愛い!」ってなったもんである。
しかし、俺みたいなタイプではなく、強さ至上主義やRTA走者、効率厨な方々、女性プレイヤーにはあまり人気がない。……当然、攻略動画も少ない。
彼女のバッドエンドは冒険者になりましたというだけのもの。ノーマルエンドは雑用屋に戻ってきて、お店を手伝うというモノ。グッドエンドはやはり残念ながら見たことがない。攻略対象者が少ないユニットは条件を見つけるのが難しい。
「……あれ?」
いつも横に転がっているユカルナとサヤーチカが居ない。起き上がらずに首だけで部屋を見回すと、部屋の中には居た。
「あっ、おはようございます」
2人はどうやらホーコリンをずっと持った状態で椅子に座っていたようだ。
「何してんの?」
「聞いてよ。この子、武器の癖に主人の布団に入ってこようとしたんですよ!」
ユカルナはご機嫌斜めだが……お前さん、前に自分は武器だから一緒に寝るようなこと言ってなかったっけ?
「そんな硬い身体では主人を怪我させかねないので、仕方なく2人がかりで見張っていた次第でして」
……あ~、うん。痛い思いを不意打ちで喰らうところだったのね……助かった。
「そっか、ありがと」
……いい加減、股間で寝ているヴィエルに起きてほしいと思いつつ、環境が歪んでもサオリスローゼの性格までは歪まずに賢く優しいままでいて欲しいと願っていた。
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