冒険者チームの生活すらも支える観光客向け娯楽施設『賭博場』
ヴィエルの自称不可抗力により目が完全に覚めてしまった俺は普段より早めに下に降りたが、他のメンバーでも早起きの連中は当然居る。
「おはよう、ユーリン」
「おはようございます」
笑顔で挨拶をしたが、ユーリンチェルは無表情で返してきた。……まぁ、仕方ない。彼女を助けた時からこうなので、きっと知り合う前に何かあったのだろう。
「早起きだね?」
「はい、お手伝いをして仕事を憶えないと……不要に思われてしまいます」
「……うーん」
淡々と彼女が話すものの、その仕事について考えてしまう。
彼女の天職はノーマル職の【再現師】。その時代の価値観において美形と称される人達が割と多く賜る天職であり、その天職持ちが就職する先は主に歌手や俳優、画家や彫刻家など、元あるモノを表現や再現することに特化したスキルを活かす職業に就くことが多い。
「冒険者資格をとって冒険者にはなったけど、今日のイベントが終わったらエステヴァトルに戻る。……王都なら就職先は結構あると思うけど、本当にこのまま冒険者を続ける?」
「……嫌ですか? わたし、要らないですか?」
「そんなわけがない。……俺は、一般的に考えて冒険者として生きるメリットが無い天職であるユーリンが危険な目に遭うことを心配しているだけ」
「一緒に居たいです。天職のメリットとか関係ないです。もう捨てられたくない」
「……わかった」
今の口振りから察するに、彼女は捨てられたのだろう。しかも数回。そして、それは彼女の中でトラウマなのかもしれない。
「じゃあ、色々覚えないとね」
「はい、頑張ります」
表情からは判らないものの、声色に感情が乗っているような気もする。偶然かもしれないけど、彼女の感情は当面声で判断するしかないだろう。
「もう聞かないからね? 冒険者が辛いなって思ったら遠慮なく俺に言ってね」
「はい。でも、言いません。ずっと一緒に居たいです」
本格的な戦闘を経験するまでは、彼女の気持ちは変わらない……そのくらい決意は固かった。
朝食を食べ終えた後、賭博場へと向かう。ギャンブルのためではなく、情報収集のため。主に『ダンジョンタイムアタック』という競技についての情報を集めるためだ。
「わぁ、サクリさん。ちゃんと来てくれた~。良かったぁ、怒って無視されちゃうかと思ったよ。来てくれてありがとね」
……うわぁ、よく言うわ……。
声を掛けてきたのは、美しい顔と容姿と甘い声色の持ち主。桜色の瞳に股上まである藍色の艶やかな髪。そして、見ただけで高そうなお洒落なドレスで着飾ったアヤカリカだった。……彼女はどうやら金持ちのようだ。
「その言い方だと現れない可能性も考えていたみたいだね?」
「まぁ、強引にエントリーさせちゃったから。本当にごめんなさい。……わたし、このDTAが大好きなんだけど、4組のパーティが参加しないとゲームが流れちゃうのよ。だから、参加してほしくて、つい……」
申し訳なさそうに言っているが、彼女が内心考えている事に気付いているので、鵜呑みにはしない。もちろん、本気で言っている可能性と嘘を言っている証拠もないので、面と向かって疑いを口にしないけれど。
「そんなに好きなんだ? 一体、どんなゲームなのさ?」
「あれ? 言ってなかったっけ? ごめんねぇ……えっと、DTAというのはね、ランダムで選ばれた国内のダンジョン。そのダンジョンが洞窟か遺跡か迷宮かはランダムなので当日まで判らないけれど、そこへ魔法で転移されるの。そんな事前情報の無いダンジョンの中で最下層を目指して競争して、最下層のゴールに設置されている宝箱を開けたチームが勝ちってゲームよ。楽しいのは、リーダーが映像を撮影する魔道具を持たされていて、チームの様子がこの撮影された映像を映す魔道具で賭博場内から観戦できるってところなの」
……それ、カメラとモニターだよね? 絶対に転生者のアイデアだよなぁ。確かに思いつきそうなアイデアだとは思うけれどさ……その物語の世界観を大事に……はぁ。
「……中継されるのか……」
少々イラッとしつつも、決まっているなら仕方ないし、別に悪事でもないから阻止する気もない。……不満はあるけども。
「そんな表情しないで~。ね? 応援するし、勝ったら貴方にはご馳走するからさ。何なら他のご褒美も用意するし。いいでしょ? ね?」
そう言って、ご立派な胸を俺に押し付けてくる。……これ、普通の思春期男児であれば有効な技ではあるかもしれんけど、残念ながら好意を抱いていない女性にされても動揺しない程度には免疫があるんだよな、俺には。……だって、慣れているし。
「わかった。約束な」
ちなみに嬉しく無くはない。ただ、この約束に関しては守られるとは思っていなかった。
「そろそろ、行くわ~。また後でね。応援してる!」
小さく手を振ると彼女はこの場から離れ、入れ替わりのようにリリアンナとクレアカリンが来る。すると、2人とも俺にくっつけそうな勢いで顔を近づける。
「な、何?」
「……これは、マーキングされたでしょ?」
「マーキング?」
マーキングと聞いて、猫の身体を擦り付ける行為や犬のトイレを思い出す。
「男相手に商売する女がね、自分の香水の匂いを男に擦り付けるの。自分の獲物だから手を出すなって意味でね」
「そんなのあるのか……」
丁寧にクレアカリンが説明してくれるが、彼女は心の底から嫌そうにしている。するとリリアンナが俺に抱き着いて来た。
「そういう時は、上書きしちゃうのが良いですよ?」
「……なるほど、それはいいね」
そう言って、普段スキンシップをして来ないクレアカリンまで俺に抱き着いて来た。絶対に悪ふざけである。……もちろん、嫌な気分なわけがなく、表情も緩む。……思春期男児だからね!
「そのままで聞いて。そのDTAってゲームイベント、毎日やってるものじゃないんだって。でも、このゲームも廃れる寸前らしい」
「廃れる? 何で??」
「月に1度のペースで開催されるらしいんだけど、ある人が参加するようになってから、その人がいるチームが毎回優勝するようになったんだって」
「そうなると、観客はその人がいるチームの勝ちに賭けてしまう。そうなると、賭けが成立しなくなるわけです」
クレアカリンの説明にリリアンナが続く。
「賭け?」
「このゲームの本質は4組の冒険者を観戦して、どのチームがゴールにある宝箱を開けるか予想することになるの。だから、同じ人が所属するチームばかり優勝されると困るわけ」
……確かに、ここが何処かを思い出せば、そういうシステムだよなと納得した。
「あと、アヤカリカって人の情報も調べてみましたよ」
「そいつ、このゲームで荒稼ぎしている奴らしくて、ゲームが存続できるよう何も知らない冒険者をゲームに参加させてゲームをずっと成立させてきたらしい」
……まぁ、つまるところ出来レースという奴か。どうやって力量を計っていたか謎だけど、多分、その毎回勝つ凄い人に対する信頼が厚いんだろうなぁ。
「なんか、その人が動いてDTAをプロデュースしているんじゃないかって噂もあるくらいですよ? ……まぁ、その辺は根拠が乏しいので噂止まりですけど」
競うようにクレアカリンとリリアンナが耳元で囁き続けるのだが、俺はいい加減周りの視線に耐えられなくなった。
「いい加減離れる! ……くっつき過ぎ」
「「え~!」」
いや、気分良かったけれど、時と場所を選んで欲しい。……男共の嫉妬で女難発動するのも勘弁してほしいのだから。
「……でも、そうなると……多くの連中がそいつに賭けるよな? 俺達が勝てばボロ儲け間違いなし……とか?」
「それ良いね」
俺のボソッとした呟きにクレアカリンが乗る。
「よし、ベストメンバーで挑もうじゃん。1チームは1パーティだったよな? ……ということは上限6人と。残り5人は……マオとサキチ、アッチュとレイア。それと……クレア。行けるよね?」
「もちろん!」
「え~、わたしは~?」
「悪いけど、【詩人】は留守番。応援よろしく。ところで、その常勝の人って誰?」
「えっと……ヨークォットって人らしいよ」
……あ~、ここで出てくるのか。
選抜メンバーと合流し、選んだことを説明している間に時間は刻々と過ぎ……。
「DTAにエントリーされる冒険者様に連絡。事前説明がありますので、近くの係員へ声を掛けて説明会場までお越しください。繰り返しご連絡致します……」
丁度自分達に大金を掛け終えたところでアナウンスが賭博場内に流れる。
声を掛けて、関係者以外立ち入り禁止エリアを通って、説明会場まで。ほぼ同時に他の3チームも集まってきて、それぞれがそれぞれを観察するといった様子。
……居た。ヨークォット。やっぱり見た目は可愛い……。普段は膝まである青い髪はツイン団子にしていた。……童顔だから似合うんよなぁ。
「お集まり頂きまして、ご協力ありがとうございます。これより、競技『ダンジョンタイムアタック』についての説明を行います。我々運営の【魔術士】が空属性の魔法にて、国内にある何処かのダンジョンへと転送します。4チームとも同じダンジョン内ですが、違う場所に配置されることになります」
……まぁ、そりゃそうだ。違うダンジョンじゃ、運営側のインチキが簡単になっちまう。
「皆さんは同じ一番上の階層に転送されますので、最下層を目指して貰い、宝箱が置いてある部屋に到着したチームが勝利という判定にさせて頂きます。尚、全員が入室することが勝利条件ですので、単独先行などは気を付けて下さい。……それと、リーダーである登録者様には、この撮影用の魔道具のネックレスをお渡しします。服の中に入らないように気を付けて下さいね。……最後にギブアップやタイムアップの際にはこちらの帰還用スクロールをお使い下さい」
……至り尽くせりって感じだなぁ。
「説明は以上になります。ご質問はありますか?」
「……あの、全チームがゴールに到達できなかった場合は?」
「一番低い層に。同じ層であれば、より下り階段に近い方が勝者となります」
「転送された後、一度ダンジョンの外に出て、何処か確認しても大丈夫ですか?」
「もし、ダンジョンから出た場合は失格となります。罠で排出された場合も同じです。他に質問はありますか?」
……うん、他のチームの方が聞いてくれた質問で俺の知りたかったことは全部わかった。
「それでは転送され次第、スタートとなります。好きな【魔術士】のところに集まって下さい……目を瞑って……それでは、スタートです!」
その合図と共に目を開き、全員が居る事を確認するとダッシュで下り階段を目指した。
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