変わり過ぎて未知の街になりすぎた王都ヴァンバード
無事、エステヴァトルに帰ってきた俺達は、まず囚われていた3人を風呂に入れた。道中で入れなかったのは、自分自身の保身と他の囚われていた冒険者連中への配慮である。
もちろん、コテージは持ち歩いていたので道中で利用することも可能だったし、風呂を使うこともできた。しかし、帰り道の間は仲間も含め全員にコテージを使用させなかった。野営も当然テントである。
その行為がケチ臭いと思われようとも、俺はルールを一貫する。……俺達は善人ではないし、無料働きもしない。
町まで送り届けるのに風呂は必須ではない。食事は依頼の範囲とカウントするとして、彼女達に何らかの恩があるわけではないし、恩の押し売りもしたくない。助けて貰った恩を彼女達が感じているかどうかは不明ではあるものの、それは依頼主に向けられるべき感情であり、仲間入りを断った手前、過剰な世話をやいても迷惑というものだろう。
……かといって、仲間だけは当然のようにコテージを利用するのも違うと考え、帰りの道中は全員が行動を合わせる。……これが妥協できる精一杯の配慮だろう。
解散後にコテージを展開。全員が風呂に入った後、冒険者カード発行とチームに登録する都合も考えて既にレベルクラウンに達していたユーリンチェルに『天職進化の儀』を受けて貰った。
「サクリさん、わたし、【再現師】でした」
「おー、成人おめでとう」
「ありがとうございます」
淡々と表情を変えずにペコリと頭をさげて礼を言うと、手伝いに戻って行った。
コンコン。
「どうも、お邪魔します」
現れたのは確かバルカミュードに付いていた使用人だったはず。
「サクリウス様。こちら、依頼達成報酬です。お確かめ下さい」
ドサッと如何にも重そうな袋をテーブルに置くので、それを直ぐ確認する。
「それと、アヤナンリッタを回収に参りました。……さぁ、戻りましょう」
「嫌よ。戻らない」
きっぱりと意思表示をしたアヤナンリッタに男は驚いていた。当然ながら揉めることにはなったが、最終的には俺達が王都に送り届けるということで割と強引に妥協させた。
現在、俺達は王都ヴァンバードへ向けて移動中。ユーリンチェルがリリアンナと並んでいる後ろ姿を見て、再認識した。彼女も髪色が特殊だと。
リリアンナの髪が淡いピンクである桜色なのに対し、ユーリンチェルの髪は桃色。俺の飴色の髪やジュリエルの藤色もそうだが、この世界……は盛り過ぎかもしれないが、少なくとも大陸では珍しい髪色だ。というのも、基本的に髪を染めるという文化がない大陸で髪色は基本14色しか存在しない。……髪色が何を意図しているかは知っているが、特殊な髪色には何の意味があるかは推測できない。最初こそ転生者の印とも思った事はあったけど、他の転生者を見ると違うようだし。
「はい、お団子完成したよ、ユーリンちゃん」
「見えてきましたよ、ヴァンバード」
リリアンナがユーリンチェルの踝まである髪を結い終えると、御者台から声が聞こえた。
御者をしてくれているのはリンクルム。彼女は馬も虜にして、指示も手綱を使わずに伝達できるため正直助かっている。
「……あ~、やっぱりそうだよね」
荷台から顔を出して前方を眺めるが、そこにはヴィエトゥールと似た雰囲気の外観をした街並みが存在していた。残念ながら知っているヴァンバードではないようだ。
「やっぱり?」
声が聞こえてしまったのか、不思議そうにアヤナンリッタが尋ねる。
「俺が知っているのは昔のヴァンバードの街並みだったから」
「来たことあるの?」
「……いや、ないけどね」
何て答えれば良いかと考えていた。しかし……。
「サクリはね、【念動士】のスキルで未来がわかるんだよ」
そう話したのはサキマイール。
「ちょ、おいっ!」
俺の短い抗議に思わずバツの悪そうな表情を浮かべる。
……全く。部外者には秘密だって言ったのに……。この国に滞在している間は例外的に良いけども、他の国では勘弁して欲しいところ。
何故、例外的に良いか? それは、ユニークスキル持ちであることがバレたらチーム入りを狙う人達の扱いが面倒だからなのだが、ユニークスキルに関係なくファッションショーのせいで人気になってしまったため、隠す意味が無くなったからなんだよ……。
「……ゴメン」
「気を付けて、マジで。アヤナンリッタちゃんも秘密にしてくれたら嬉しいな」
その場では彼女も「うん」とは言ってくれたが……人の口に戸は立てられないからねぇ。
ヴァンバードへ入って、エルミスリー、アグリシア、ヨシノノアの3名は城へと向かった。その間に俺とリリアンナ、クレアカリンはアヤナンリッタを連れて『バルカミュード奴隷事務所』へ向かう。
理由は1つ。未成年であるアヤナンリッタの保護問題をどうするかという話をするため。
アヤナンリッタの意思は俺達と共に来たいらしい。彼女の様子を考えても拒否しない方が良さそうなことも理解できる。しかし、彼女の両親も『バルカミュード奴隷事務所』で上級奴隷をしているらしい。そうなると、親と引き剥がすのが良い事かどうかを判断し難いわけで。
ただ、間違いないのは彼女が【学鍛童】のレベル9であること。未成年故に働けない年齢であること。……ちなみに未成年の奴隷は違法である。
「ようこそ、王都へ」
「約束通り、アヤナンリッタちゃんを連れて来ました。ですが、彼女からご両親がこちらに所属していると聞きました。今は事務所にいますか?」
彼は一瞬真顔になるものの、直ぐに笑顔に戻って彼女の両親を呼びだした。
「パパ、ママ、それにバルカミュードさん。あたし、『サクリウスファミリア』の方達と一緒に行動して冒険者として色々学びたい。成人した時にノーマル職だったら帰って来るので、一緒に行かせて欲しい」
アヤナンリッタの希望は事前に聞いていた。通常であれば考えるまでもなく断っている。未成年は親に養われる義務がある。……いや、本来は親が養う義務と言うべきところなんだけどね。どっちも同じ意味ということで。
ただ、今回は話が別。そもそも未成年を魔法でコントロールして仕事の手伝いをさせるなんて奴の傍に置いておけない。それでも、親の許可は必要と考えて連れて来た。……もちろん、最悪の場合は親が既にコントロールされている可能性も考慮している。
「冒険者になりたいのか? ……そうか。サクリウスさん、本当に娘が世話になって良いのでしょうか?」
「こちらは構いません。本人が言うように成人した際にノーマル職であれば、責任をもって送り届けますので」
父親が母親に視線を送り、意思を確かめ合うと……アヤナンリッタにとっては最善の返事。
「それでは申し訳ありませんが、娘のことを宜しくお願いします」
……内心、俺なんかを信用して良いのかとツッコミを入れつつも、彼女の面倒を引き受けた。
俺達が『バルカミュード奴隷事務所』に行っている間、他の連中には『邪竜討伐軍』の動向を探って貰っていた。
元々、ヴァンバードから『邪竜討伐軍』が移動したという話を冒険者支援組合で聞いてからアヤナンリッタを送り届けようと思っていたため、実は長々と時間を稼いでやろうと思っていた。だが、そう考えた翌日……つまり、新たに加わったユーリンチェル達を冒険者支援組合に登録しに行ったタイミングで移動したという情報が入ってしまったため、王都まで来てしまったというわけだ。
ただ、何処に向かったという情報は無かったようなので、今はそれを調べて貰っていた。
「すげぇな……」
前世でも当然行ったことがないので、初めての場所にキョロキョロ辺りを見回してしまう。
賭博場。ヴァンバードの収益のほとんどを担っている、この街のお金回収施設である。賭博場とは言っても、ファンタジーには似つかわしくないトランプやスロット、ルーレットなんていう賭博場での馴染みな物はもちろん、闘技場やレース……目新しい物だとリバーシや五目並べのトーナメント大会なども行われていて、その会場の広さとギャンブル内容の節操の無さに驚愕してしまう。
……まぁ、元々トゥーベントには存在しない施設なわけで、転生者がやりたい放題している証拠とも言えるよな。悪意がないとして、ただの知識無双したいだけの転生者だったのかもしれない。……かもしれないけれども、折角の世界観をぶち壊しやがって……。
かなりモヤモヤしつつも、それはそれ。そのアイデアを出した転生者の思惑通りに稼げているのは見て判るほど沢山の客がギャンブルを楽しんでいた。
……とりあえず、仲間と合流を……。
「もしかして、ここは初めて?」
周りに見惚れて、リリアンナ達とはぐれて1人のところに女性から声を掛けられた。
「わたしはアヤカリカ。ここの常連よ。折角来たんだし楽しめるように案内してあげる」
そういうと、彼女は俺の腕に抱き着いてリードするように歩き出した。
……本当に最悪だ……。
勝手に案内役として押し売りしてきたアヤカリカとかいう姉ちゃん! 確かに案内はしてくれたけれど、散々金を使わされたあげく、よくルールも知らないイベントに参加させられた。……ただ、どんな遊びなのかを聞いただけでだよ? ありえん。
エントリーさせられた後にイベント内容については説明してくれたし、勝ったらご馳走するとか言っていたけど、信用ならんし。
そんな事を思いつつ、ご機嫌斜めな状態でコテージに到着すると、俺の入った後に直ぐエルミスリー達が戻ってきた。……俺の後ろを歩いていたようだ。
話しかけて来なかったのは、俺の機嫌が悪いのを見抜いたからかもしれん。
「もう謁見終わり?」
「うん、終わり……それで、また1人増えたんだけど……」
そう言ってヒョコッと後ろから現れた女性は……美人だった。
「初めまして。【魂葬官】ミユルシア=シャロラインです。エルミスリーさんから話は伺っています。長い旅路になると思いますが、よろしくお願いします」
背は165センチと女性としては大きく、黒い瞳と膝まである長い銀髪が美しい。声は見た目に反して幼く、甘い声で癒しを感じ、俺のイライラした気持ちが若干和らぐ。
【魂葬官】とは、死者の魂を弔う祭事を戦場で行ったり、アンデッドを冥界に送り返す。戦える葬儀専用聖職者といった感じだ。
……国として協力しない代わりに勝手に動いてよい。彼女はその免罪符代わりらしい。
「まぁ、これで王都に留まる理由は無くなったわけだけど、ゴメン。明日の『ダンジョンタイムアタック』、通称DTAと呼ばれるイベントにエントリーすることになったんだ。だから、それが終わったら帰ることになる」
「アレに出るんですか?」
そう聞いてきたのはミユルシアさん。
「やっぱり何か問題があるんですか?」
「あの競技はですね、毎回4組のパーティが参加しているんですけど、ここ数回は優勝するチームが決まっていて、そろそろ勝負不成立になるんじゃないかって言われているんですよ」
……なるほどね。つまり、俺達は何も知らない輩ということで、ゲーム不成立にならないように優勝チームのための数合わせで強引にエントリーさせたってことね。
読んで頂きありがとうございました。
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします!
もし続きが気になって頂けたなら、ブックマークして頂けると筆者の励みになります!
28、29人目の読者様を確認できました。ブックマークありがとうございます!
また、☆満点の応援も本当にありがとうございます。「面白い」を共有できることがとても嬉しいです!
続読して下さる方がいるということを励みに頑張ります!!
何卒よろしくお願いします。
尚、5日間連続投稿3日目+本日中にあと4回投稿します!




