銀髪銀眼の【風水士】誕生と彼女の意外な進路希望
「お、丁度良いタイミングだったか」
納屋に着いたが留守で、どうしようかと思ったがタイミング良くサティシヤが森から帰って来た。大きな袋を持っていることから、森で食料を探していたのだろう。
「サクリさん? ……あの、そっちの方は?」
俺以外の人が居たことで近づくことに躊躇し、表情や声音からも警戒しているのが伝わる。
「彼女は大丈夫。村の外の人だし信用して大丈夫な人だから」
「……村の外?」
怯えるサティシヤに対し、エルミスリーは怖がらせないように笑顔で話しかける。
「こんばんは、初めまして。エルミスリー=カラミティです」
紺色のチュニックとスカート。茶色のレザーブーツ。そして、白染めの革鎧を身に付けた彼女の姿は彼女の職業を知らなければ冒険者に見えなくもない。深い赤の瞳に仕事中団子状に纏めている腰に届きそうな淡い茶色の髪はプライベートなので下していた。
「サティシヤ=エヴィネットです」
ペコッと頭を下げる。
「何故、こんなところに?」
「彼女が銀髪銀眼だから……本当にふざけた話なんだ」
「あっ……」
俺の短い説明にエルミは直ぐに理解をしたようだ。
「わたしはイーベルロマの村中に入ることを許されなくて、ここでこうして村の人達に気付かれないように、こっそりと……」
「そんな、酷い……」
そうそう。この反応が普通なんだよ。
「何時からこんな生活を?」
「1年以上前からですね」
そう彼女が伝えると、俺の方に怒りが来た。
「何故、もっと早く教えてくれなかったの?」
「教えられる状況ではなかったことと、これを話した時に俺だけじゃなくてエルミの立場も悪くなるからだよ。それに、今まではどうにもできなかった」
彼女の反応は想定の範囲内。俺も初めの頃は彼女のような怒りを感じていた。……まぁ、今は怒り以上に村に対して絶望している。
「今までは?」
「うん。多分ヴォルリックさんも彼女の存在は知っている。知っていて放置しているのは、理由があると思うよ」
「師匠が……」
……確証はないけれど、ヴォルリックさんも彼女を助ける方法がなかったのだと思う。
だけど今、俺には助ける手段がある。問題はその成功率なんだよな……正直自信はあまり無い。それでも、やり方は簡単なので試そうと思っている。
問題は成功した場合のサティシヤのその後なんだよな。だからこそ、その方針を定めるためにエルミスリーを連れてきたわけで。
そもそも、サティシアを助けたいという願望は『竜騎幻想』プレイヤーの前世の想いより、今の俺の気持ちの方が比重は重い。
前世の自分としては、可愛いキャラデザの少女がどうでも良さそうなモブに殺されてしまうのは理不尽すぎるというもの。……というか、推しキャラではあるものの、他のユニット達に比べれば正直思い入れはそこまで無い。……元気な姿のアニメーションもCGも無いし。
強いて言うなら、その可哀想な物語と可憐な姿(亡骸)から、「生きていたら」的な同人誌が大量に出たことで推しに加えられたと言っても過言ではない。
でも、今の俺は違う。
俺の数少ない会話が可能な相手。それも1年間以上してくれていたわけだ。クレンやカロラインもだけど、サティシヤも何時折れてもおかしくない俺の心を支えてくれた友人達の1人だ。
会ったばかりの彼女は俺にも綺麗だと感じた。だからこそ、銀髪銀眼だからという理由だけで、非人道的な扱いに嫌悪感を覚えた。服装だって良いモノを身に付けていたし、きっとお金持ちのお嬢様だったのではとも思った。それでも、困っている彼女に対しディック達は金品を剥ぎ取った。
だから、俺は彼女を救出し、怪我を治療した。……まぁ、薬は購入したものだけど。
それがキッカケで彼女と会話をするようになって、名前や両親が行商人だったこと。両親と共に世界中を旅して回っていたこと。野盗に襲われて、おそらく亡くなっていること。色々教えて貰った。
彼女にいっぱい話して貰ったのは、彼女の心も壊れて欲しくなかったから。ただでさえ両親を失った悲しみで絶望しているのに、今の仕打ちは無い。俺には微々たることしかできないが、可能なことはしてあげたいと思っていた。
そんな彼女が死ぬ運命を背負っていると聞いて放置できるはずがない。
「彼女は銀髪銀眼という理由だけで船にも乗せて貰えない。船に乗れなくて、どうやって島を出て行けるのかって話だ」
「……確かに……でも、そんなに酷いの?」
エルミスリーに頷くと、彼女はサティシヤをハグして……すぐ離れた。
「貴女、お風呂は?」
「その……森の中の川の水で……」
「シャンプーは?」
「その、川の水を汚染させるのはダメだって教えて頂いたので……」
あ~、今思うと、これ自体おかしいんだよな。ファンタジー世界なのに、風呂やシャンプーが存在する世界。思えばこれも、日本人のデザイナーが作った世界観だから存在するし、さっきのお辞儀だって、アジア系の文化だからな。……不思議と記憶が戻る前は違和感なかったんだよな……。確かに、ここは中世ヨーロッパでも日本でもなく、異世界だしな。
「早く島を出て、お風呂に入った方が良い!」
「……俺もそれは願っている……その前に宿屋に拒否されそうなのが怖い。獣臭さで……」
そう話すと、サティシヤも自覚があるのか苦笑いする。
「島、出られれば良いですけど……」
サティシヤはまだ島を出たいと思っている。それなら話は早い。
「実は、今回それに関する要件でエルミを連れてきたんだ」
「「え?」」
2人の声がハモる。
「いや、実はサティって16歳なんですよ。でも、こういう状況だから『天職進化の儀』を受けられていないってわけ」
「……つまり、わたしに何とかしてってこと?」
「いや、『天職進化の儀』をして頂けたらと……」
「はぁ?!」
……何時も余裕のある穏やかなエルミスリー姉さんも素が垣間見えていますよ?
「あのね、サクリウス君。わたしは確かに【職審官】だけれども、まだレベル2の見習いなの。つまり、一般的にそういうことが師匠の補助無しでは許されない立場なの。判る?」
「重々承知しております。ですが、頼れるのはエルミスリー様しか居ないのです。どうか……」
少し小芝居して彼女を持ち上げる。……いや、持ち上がらんだろうけど、彼女も賢い人だから、状況が多分判ると思う。断ったのも、多分職務上の規則のようなもの……だと思う。
「……そうね、返事する前に話を聞かせて頂戴?」
「話って?」
「島を出る話と、『天職進化の儀』に何の関係があるの?」
……話さず有耶無耶にできると思ったけれど甘かったか……怒らなければ良いけど……。
「えーっと……サティ、君の身の上の話、して良い?」
コクッと頷く彼女を確認してから、エルミスリーに答える。
「今後の方針の話なんですよ。既に彼女の家族が亡くなっている可能性が高いんです。なので、子供のままでは森の外で生きていけない」
「普通は森の方が危ないと言いたいところだけど……食料の話ね?」
「うん。金策手段が必要。もし、サティがレア職を得られれば、生活基盤ができるまで一緒に居れば良いけれど、もしノーマル職だったら落ち着く場所を考えなきゃならない」
そう話すと、彼女は考えを整理するためか数秒の沈黙。
「……あの、とりあえず村を出る手段は既に用意済みで、必要としているのは村を出た後の彼女の生活基盤ということで良い?」
コクコクと首を縦に振る。
「なら、村を出た後、町に行けば何時でも受けられるよ?」
「知ってる。でも、そもそも自力で村を脱出できるかもしれない天職を賜る可能性だってあると思う。だとすれば、これからする小細工も省略できる」
「……念のために言うけど、失敗する可能性の方が高い上に、失敗した時はわたしが再度儀式をすることはできないけど、その時は町でやってもらってくれる?」
そこで承諾するとエルミスリーは覚悟を決めたようだった。
「仕方ない。やるだけやってあげる。でも、失敗したからって文句は受け付けないし、言わないようにね?」
「ありがとうございます」
……俺が返事をする前にサティシヤが深々と頭を下げる。
「引き受けた。じゃあ……とりあえず、納屋の中でやりましょうか? サクリ君は中に入ることも、覗き込む事も禁止。わかった?」
俺が頷くのを確認して、2人は納屋の中に入って行く。当然ながら、そんな都合良く自力で島を出られる天職を賜れるとは思えないので、サティシヤを島から連れ出す準備を行う。……まぁ、直ぐに終わるんだけどね。
普段使いのウエストポーチから短剣を取り出して近くの木に力いっぱい突き立てる。根本まで刃を入れるつもりだったけど……まぁ、1日くらい大丈夫だろう。
「〈マーク〉」
……これで終わり。
【念動士】の天職でやれる内容は超能力者のソレである。だけど、前世で思い描く超能力者とは若干違う。どちらかというと超能力者は念動術士っぽい感じだろうか? こちらでは術士という扱いには絶対ならないけども。
天職には紐づいてスキルが付いて来る。仮に念動術士という天職が存在したとして、『念動術』というスキルが存在し、〈サイコキネシス〉等の術が魔法として位置づけされている。けども、【念動士】の場合、スキルとして〈サイコキネシス〉がある。なので、魔法扱いではなくスキル扱いである。
じゃあ、スキルと魔法の違いは何か? ……それは、発動に詠唱の時間や発動の条件が必要かどうかという問題になる。スキルにはそういう制限はなく、体力が許す限り使える。
〈マーク〉は【念動士】のスキルで、〈アポート〉というスキルで別の場所にある〈マーク〉した物体を瞬間移動で手元に取り寄せたり、〈リコール〉というスキルで、逆に別の場所にある〈マーク〉した物体の元に瞬間移動したりする目印用のスキルである。
今回はその〈リコール〉を使ってサティシヤを大陸まで瞬間移動させてしまおうという作戦である。
魔法ではなくスキルなので、まず失敗は無いと言われているけども、今回はメインシナリオを歪める行為。女神ナンス様が認めてくれるかどうか。……まぁ、物は試しである。
「……おまたせ、サクリ君。終わったよ」
そう告げるエルミスリーの笑顔で『天職進化の儀』が無事成功したのだと判った。
「成人、おめでとう」
「ありがとうございます」
とりあえず納屋に入って、嬉しそうなサティシヤを確認する。
「それで、どんな天職を賜ったの?」
「レア職の【風水士】です」
自力で島を出ることは不可能な天職ではあるけど、レア職であれば、とりあえず行動方針が定まるまでは一緒に行動しても問題なさそうだ。
「おお、おめでとう!」
「これで冒険者になれます」
……ん? 冒険者か……。それは正直厳しいかもしれんなぁ。
【風水士】は、森羅万象に宿る妖精達を誘導して、精霊術のような効果を得る【精霊術士】の見習い的ポジション。まぁ、それ自体は問題ないのだが、問題はレア職の中で一番人口の多いのが【風水士】だったりする。しかも、仲間に何人も必要な天職でもないから供給過多になる。仲間を見つけるのに苦労すること間違いない。
余談だが、【風水士】の天職を得て一番人気の職業は気象予報師である。
「そうだね」
「サクリさんと一緒に!」
……ん?
「俺と?」
「はい」
……ん~、まぁ良いか。もしかしたら途中で目的が見つかるかもしれんし、それまでの間。
「じゃあ、一緒に行こう」
こうして、1人目の仲間が加わった。
「さて、そうなるとますます島からの脱出を成功させないとだな」
「どうやるんですか?」
うーん、3人いる状況でこの話は拙いかな。
「エルミ、お疲れ様。とりあえず、あとは2人で打ち合わせするから教会でゆっくり休んで」
「おや? お邪魔だったかな?」
そう言うと、何も聞かずに納屋から出ていく。……正直助かる。脱出計画を聞かせてしまうとエルミスリーも俺と同罪になっちゃうからね。彼女は『天職進化の儀』を行っただけ。村の人達との因縁は何も発生していない。
「サティは明日の朝までにここを出る準備をしておいて。そして、明日だけは朝になっても納屋から離れないで。迎えに行くから……良いね?」
彼女に了承させると、俺も明日に備えて自室へと帰った。
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