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もはやメインもクエも歪み過ぎて先が読めない

 アヤナンリッタの様子の変わり具合は心配しているが、状況説明は他の連中に任せる。


 俺はと言うとリリアンナと共に対応に追われた。


「ごめんなさい。わたし達を町まで連れて行って貰えませんか?」


 総勢12名の女性。衣服は見るに汚く寒そうなTシャツ。下はパンツもスカートも無く……その長い丈のシャツで下半身も隠している。……まぁ、どんな扱いをされたかは想像ができる。


 むしろ、毅然とした態度でいることで只者では無いんだろうなと予想できた。


「それは構わないけれど、話を聞かせてほしい。まず、どうして違法奴隷に?」


「わたし達は6人ずつのカッパー級冒険者で、依頼で違法奴隷の解放のために来たんです。結果、返り討ちにあってしまったのですが」


「わたし達の時もですが、事前に向かっていることを知られていて待ち構えられていました。恐らく、女性構成のわたし達を最初から奴隷にするために依頼したのだと思います」


 ……それは薄々予想していた。俺達も厳密には俺以外を奴隷にするために依頼した可能性は高い。


「依頼主の名前は教えて頂けますか?」


「ジブラールという男です」


「プッチムラという女性ですね」


 ……依頼主は別……そう簡単にボロは出さないか。


「あの、エルフの女性は見かけませんでしたか?」


「いえ、亜人の方々とは離されていたので……」


 他の人達も首を横に振る。


 奴隷商関連の仕事をするにあたり、ワカナディアから相談を受けていた。……とはいえ、そんな直ぐに見つかるとも思っていないけども。


 彼女達の他に移動しない女性は4人。……その中に知った顔が1名だけ居た。




 気になる人から行きたいところだけど、まずは近くにいる子から。


 ……子供……だよな?


「大丈夫? 帰り道わかる?」


 無言。彼女はこちらをジッと見るも何も言わず。


 すると、リリアンナが慌てて彼女に聞いたこともない言語で話すと何か返していた。


「サクリさん、彼女はニクシスですよ。名前はアーマネルというそうで、帰る手段も大丈夫だそうですよ」


 ニクシス。平均身長135センチくらいの綺麗な淡水付近で暮らす亜人種で、特徴は手と足の指の間にある水掻き。あと水中でも陸上でも呼吸可能な身体構造。主に泉を生活の場所としているが、場合によっては川にも居るし、熱に耐性があるので温泉にも居る。


 見た目はヒューム族の子供と変わらず未成年のニクシスはヒュームと間違えてしまうほど。……以上が、『竜騎幻想』におけるニクシスについての公式設定。


「えっと、何故残っているか聞いて欲しい」


「……姉がエルフの子供と共にヒュームに連れて行かれた。探して欲しいと言っています」


 ……売れてしまったってことか。……待て、エルフ?!


「そのエルフの子の名前、わかる?」


「……わからないそうです」


「むぅ……何かヒントになるような事言ってなかった?」


「……アスパラが何とかって言ってたと……」


 アスパラ? 野菜の?? ……アスパラ……あっ!


「もしかして、アスパラオウム?」


「……そうかもしれないって」


 それは直ぐに助けるのは難しそうなところに売れてしまったもんだ……。


 アスパラオウム王国は大陸の北西に位置する砂漠の国だ。現在地であるトゥーベントからは遠すぎる距離。直ぐに向かうことは正直難しい。


「時間が掛かっても良いなら……それとも一緒に来るかい?」


「……姉……アリーエルをお願いしますだって」


 それだけ伝えると、彼女は頭を下げて北へと歩き出した。




 ……さぁ、次だ。


 内心、ドキドキしていた。とりあえず、知らないフリをしなきゃ……初対面だからね。


「えっと、帰るのが困難な感じですか? 助けは要りますか?」


 黄髪金眼の少女に声を掛ける。


「実際に凄く困っているんですけど、実はお願いがあって」


「お願い?」


 他の囚われていた冒険者集団と同じTシャツ一枚の姿。彼女も被害にあっていたのなら、俺も倒してやるべきだった。いや、知らずに倒していたかもしれんけど。


 気丈に振る舞っているのだから触れないのが優しさ……だよな?


「わたしはカノエルン=サラリスハート。冒険者で【魔術士】です。見ての通り装備が無く、持ち物もない状態です。実家もこの有り様ですし……頑張りますので仲間に入れて頂けませんでしょうか?」


 実家? 今、実家と言いました? ……この廃村がカノエルンの生まれ故郷?!


「装備が無いと言いましたよね? もしかして、魔導書も?」


 彼女は黙って頷いた。


 魔導書が1冊もない魔法使いは魔法を使えない。戦えないわけではないけれど、正直弱すぎて育成難易度が最高峰の内の1つになる。そして、【魔術士】がレベルクラウンになっても進化しない。しかも、魔導書は貸し借りが簡単にできない。ちょっとアッツミュの魔導書を借りて使うとかできない。……実質、頭打ちである。


 いくら推しでもリーダーとして仲間に入れるのは難しい。仲間の命を預かっている身として鍛えれば何とかなるという類でもないし……いや、鍛える……か。


「わかった。まずは事情を聞かせてほしい」


 記憶が確かなら、マニアックな手段ではあるが魔導書を使わない育成方法を思い出した。




「わたしは、冒険者になって日が浅いですが、カッパー級の冒険者でした」


 カノエルンから事情をちゃんと聞く必要があった。多分、予知夢を見たのだから仲間にすることになるのだろう。それでも、この歪んだ未来で彼女はどういった事情で今に至っているのか、それによって対応も考えなければいけない。


「王都で冒険者をする予定だったのですが、仲間を得られず……チームに入れて貰うためにエステヴァトルに滞在していました」


 もう、この時点で違うんだよな。それもウインドノルドに冒険者の店が無くなってしまったことが原因だけど。


「そこでチームに誘って貰ってカッパー級の冒険者になったんですけど、そこでわたしは仲間だと思っていた人達に騙されて違法奴隷を扱う奴隷商に売られてしまったんです」


 ……おいおい。じゃあ、カノエルンは別に依頼を受けて来た冒険者じゃないってことか。


「わたしの装備は魔導書も含めて、きっとその冒険者に売られてしまったに違いありません」


「事情はわかった。だけど、冒険者を辞めるという選択は無いの?」


「……確かに、わたしは冒険者に向いてないのかもしれない。1つ間違えていたら既に死んでいたと思いますし、生きていたとしても不幸だったに違いないです。だとしても、もう実家に戻って故郷で暮らすという選択は無くなっています。これで冒険者まで辞めてしまったら、わたしは故郷で得たものを全て失うことになる」


 ……その命があるから良いと思うんだけど……確かにそのままじゃ、こんな国の有り様である以上、後日譚がハッピーエンドとはならないか。


「お願いします。仲間に入れて下さい!」


 彼女はその場で土下座して、驚き過ぎたために一瞬硬直してしまった。




「もし、断られたら……魔導書の無い【魔術士】なんて需要はないんです。ですから、生きていくために仕方なく借金奴隷になるでしょう。運よく守れたこの身体も……」


 そこで彼女の言葉が止まる。彼女の下げられた頭……その先の地面が涙で濡れる。


 ……こう言っちゃなんだけど、俺は前世も現世も女の涙に騙されて来た。自分の保身のために流す偽りの涙は迫真の演技すぎて、俺の目にはそれが本当なのか芝居なのか見抜くことができない。……何が言いたいかというと、この時点で割と詰んでいる。


 正直、ズルいと思う。……でも、相手は俺の女難のことを知らないのだから、手札の1つとして行使することは理解できる。そして、抗う手段がない俺の方が悪い。


 ……願わくは、カノエルンの性格が『竜騎幻想』での彼女と一緒であることを祈って。


「うん、わかった」


「え?」


「支度金も貸してあげる。魔導書が無くとも強くなる方法も教える。……だから、俺を信じて指示に従える?」


 ……解ってるよ、甘いって。予知夢で見たから運命に抗えないだろうとも思ってる。


「はい、よろしくお願いします」


 色々理屈を考えたけれど、結局推しの願いは断れない……これも結果論だけどね。


「わかった、俺は許可する。一応全員にも確認してから正式に仲間として迎えることになると思うけど、過去の例から考えて仲間になったと思って良いと思う。でも、本当に良いの? 正直、俺が指示する戦い方は【魔術士】らしくない戦い方になると思うし、魔法を使うより弱い。……それでも良い? 今ならまだノーマル職が就くような職場に就職して平和に暮らすという道を選べるよ?」


 そう言って、まだ地面に座っている彼女へ手を差し出す。


「いいえ、お世話になります。そして、助けて頂いたお金と恩はちゃんと返します」


 彼女は俺の手を取り立ち上がった。




 3人目。この子は俺が近づくと自ら寄ってきて抱き着いて来た。最初は身体を洗っていない不衛生な匂いが鼻を襲ったが、そんなことがどうでも良いと思える程に彼女は震えていた。


「大丈夫?」


「お願いします、一緒に居させて下さい。パパもママも死んじゃいました。家族はいません。生きていく手段がないです。何でもします。何でも言う事聞きます……お願いします」


「『天職進化の儀』は受けた?」


 彼女は首をブンブンと横に振る。話し方は幼いけど……多分もう成人しているんだよなぁ。


「わかった。一緒に行こうね。……それで、名前は言える?」


 そう尋ねると、彼女はユーリンチェル=アイトメアと答えた。




 最後の1人も子供かな……。


「もしかして、帰る手段がない?」


「ん~? 残念。正解は君に興味があったのだよ」


 話しかけると、彼女は俺を見てニパッと笑う。でも、そう笑う彼女の印象は取り繕う笑顔ではなく、まるでお気に入りの玩具を見つけた子供のようだった。


「初めまして。あたしはトモリル。ヒューム族の方には幼い子供の用に見えると思いますが、グラスビットというヒューム族が言うところの亜人種でして。これでも立派なレディというやつです」


 ……レディ……? どうみても悪戯小僧ならぬ悪戯小娘に見えるんだが……?


 グラスビットは名前だけ知ってる。成人しても平均して125センチくらいにしか成長しない小人種族。好奇心旺盛で子沢山。そして、死亡率もナンバー1と言われているけど、事実は知らない。でも、根拠のない度胸と無尽蔵に思えるスタミナは誇張されてネタになるほど有名だ。


 彼女は踝まである茶色の髪と茶色の瞳。服装は……他の人達と一緒。つまり剥ぎ取られたといったところだろう。そして、流暢なヒューム語を話すのだから本当に成人しているということだ。……本当にグラスビットであるならね。


「そっか。じゃあ、俺に用事かな? でも、その前にここに来た経緯を聞かせてくれると嬉しいかな」


「いいよ。……ん~、ヒューム族の街って賑やかだし、便利だし、面白いの。知らないと思うけど、ヒューム族以外の集落なんて不便なんだよ? 何でもお金で解決とはいかないし、無自覚差別が酷い」


 無自覚差別ということなら、ヒューム族も一緒だと思うんだけど、それは種族の問題ではなく、教育……とりわけ親から学ぶべき道徳的な指導の問題なんだよな。それ故に簡単に改善できる問題でもないし……個人では放置するしかないよなぁ。


「なので、自分はこれからもヒューム族に紛れて生きるつもりなんだけど……お兄さん、あたしを仲間にしてみない? 絶対役立つよ? 今ならサービスもしちゃう!」


 ……あざといセールス……けど、声も好みだし、問題もない……。


「わかった。全員の賛同を得られれば……でも、その容姿でヒューム族の街は目立つでしょ?」


「あ~……確かに……」


 彼女は死んだ人達を漁って……腰紐を奪うと、奪われた者はリザードマンになった。


「……変身!」


 トモリルがそう言うと、身長が伸びてヒューム族の姿になった。


「これでどう?」


「わかった。それで良いから……いったん元に戻って!」


 着ていた服がとんでもないことになっていた。……本当にグラスビットだったんだな。


「……みんな、ちょっと聞いて。3人が仲間になりたいと言って来た。反対する者は?」


 無言……やっぱり『ザル』か。こうして、賛成多数で3人は仲間に入ることになった。


「あの、わたし達もその仲間に……」


 そう話す最初の冒険者チームにはリリアンナが淡々と丁重に断っていた。




 エステヴァトルへの帰り道。


 参考までにクレアカリンに話を聞いたところ、カノエルンは借金奴隷不可避なのと、最初に俺へ仲間入りを打診したことが高評価。ユーリンチェルは生きて行けなさそうだから人道的な保護。居場所を見つけたら辞めても問題ないと考えていた。最後にトモリルは見張りにリザードマンが紛れ込んでいたことを発見した功績を評価といった感じのようだ。


 他の冒険者も女性だったのに断った理由というのが、便乗したい感が満々だったのと、俺が先に接しているのに、その時に何も言わなかったことが決定打となったらしい。


「……まぁ、これだけ歪めば犠牲者もいるよな……俺の知るトゥーベントはほぼ無いか」


 多分、本来のトゥーベントであれば、カノエルン以外は幸せな人生を送っていたと思う。


「気持ち、解るけど……サクリにはどうにもならないことだよ? 今は仕方ないし頑張ろうよ、ね? ……あたし、何があっても世界がどうなっても、ずっとサクリの味方だよ!」


 ヴィエルは俺の胸元へ飛び込んできたので、赤ん坊を抱っこするように受け止めた。

読んで頂きありがとうございました。

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何卒よろしくお願いします。

尚、5日間連続投稿2日目+明日も5回投稿します!

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