存在しないクエスト『違法奴隷商討伐と違法奴隷の解放』
「アヤナンリッタです。よろしくお願いします」
バルカミュードが依頼に来た翌々日、廃村を目指して出発する直前、てっきり彼の奴隷が指示されて案内してくれるのかと思いきや、紹介されたのは15歳の女の子だった。
「えーっと……未成年者ですか?」
「この子は私の店に所属している上級奴隷の娘でして。元々、これから向かう廃村の出身だったんですよ。村までの道はもちろん、村周辺の地形も把握していて、馬も操れるので案内役には最適だったんですよ。もちろん、彼女の両親には許可を得ています」
理屈は解る。それに15歳ならば見ていないけど【学鍛童】もレベル9になっているだろう。それなら身体能力は成人とされる16歳とほぼ変わらない。だとしても一応未成年。危険な場所に送り出すか? ……まぁ、俺にどうこう言う資格はないけどさ。
彼女は大きくて立派な幌馬車の御者台に乗り込む。それを合図にみんなも2台の幌馬車の荷台に乗り込んでいく。
「アヤナンリッタのネックレスは魔道具で、ペンダント周辺を映像として記録する機能があります。これを証拠としますので、アヤナンリッタを連れ歩いて映して下さい。……もちろん、戦闘終了後に安全確保して、違法奴隷を解放するタイミングで良いので」
……一応、「わかった」と返事はしたけれど、凄くモヤっとする。何故か判らないけど。
「行ってきます」
アヤナンリッタがバルカミュードにそう告げると馬車が進みだす。廃村までは1週間ほど掛かり、その道程で襲撃されることは無かった。やっぱり安全な国ということなのだと思う。
「この先が例の廃村となります」
アヤナンリッタは静かに告げる。
「これ以上先に馬車で進むと見つかる可能性があります。どうしますか?」
「じゃあ、隠密行動ができるメンバーに探って貰うかな」
……明らかな違和感。その1つがアヤナンリッタの態度なんだ。町を出てから私語が無い。最初こそ緊張しているのかと思ったが、女同士で話していても表情が動く様子もない。ただの感情の起伏がない礼儀正しい女の子。……はっきり言おう。そんな15歳少女は存在しない。
可能性があるとしたら、元々心が病んでいるパターン。だとするなら、こんな案内役はやらないだろう。……つまり、彼女は何らかの理由があって感情を殺している。何故?
「クレア、メア、ワカチ、ユッキー。偵察頼む」
「わたしも行く」
マオルクスはそう言うと『月』のタロットカードを見せてきた。
「タロット武装……《月》!」
マオルクスがスキルを発動すると、『戦車』の時と同じように変身し、黒を基調とした露出の多い衣装に変わる。その姿にはやっぱり見覚えがあり……。
そんなことを考えている間に彼女の姿が消えた。
……思い出した。『月影の密偵 シャドウドールズ』のアリスのコスプレだ!
マオルクスのスキルであるタロット武装はコスプレしたキャラの能力を得るって感じのスキルっぽいんだけどね。……チート臭いよなぁ、アレ。
「申し訳ないけど、ヴィエルも姿が見えないことを利用して囚われた人達の場所を調べてほしいんだ。お願いできる?」
「いいよ。行ってくるね!」
……素直だ。いや、こういった感じの時はこれまで全員空気読んで協力してくれていたか。
「他はいつでも突入できるように準備」
多くの返事が返って来る。
「サクリさん、わたしは先に向かっても良いかな? 移動速度的に一緒に向かうのは厳しいみたいで」
「わかった」
カオリアリーゼの新しい天職【重戦士】は重装甲のフルプレートアーマーで戦う盾役のユニットである。その防御力で物理ダメージを通し難い分、相手は弱点である鈍器か魔法による攻撃で戦わなければならない。敵だと厄介、味方だと頼もしいユニットなのだが、女性の【重戦士】の場合、魔法攻撃すらも通し難くなる代わりに、特に移動速度がその重さで厳しくなる仕様になっている。……ゆっくり向かってくれ、カオリアリーゼ。
5分くらい待つとマオルクスとヴィエルだけが返ってきた。
「サクリ君、アイツ等変だよ。わたし達が来るのを解ってるみたい。戦闘慣れしていそうな連中が沢山配置されているよ」
「大丈夫です。80人ほどいますが、相手は主に【戦士】と【盗賊】。レベルも最高で5程度です。この前のデンドロム軍よりは弱いです」
マオルクスの報告にレイアーナが情報を補足する。
「ざっくりとした作戦を伝える。先制攻撃はアッチュと【精霊術士】による木属性の範囲攻撃で。その後に前衛が突撃。敵を引きつけたら、最初に偵察いったメンバーと俺、リリアンナで違法奴隷を救出する」
全員の「了解」の声が重なる。
「今の内、強化を」
マオルクス、ユイディア、ユッカンヒルデの強化魔法の詠唱が始まる。
「エルミ、アグリシアさん、ヨシノノアさん。協力ありがとうございます。よろしくお願いします」
「が、がんばりまふ!」
2人が頷き、ヨシノノアさんが返事をしてくれて噛んでしまった。
強化が終わると、俺はリリアンナを連れて先を行くマオルクスを追いかけた。
「見つけたぞ、正面だ!」
「やっぱり30人くらいだ。迎え撃て!」
遠くで怒号が響く。その遠くには今頃頑張って歩いたカオリアリーゼが特攻しているはずだ。
「建物には囚われている人はいないの?」
「いないよ」
サクリの問いにヴィエルが簡潔に答える。
「いないと思う。見張りの配置具合から考えても、この奥だと思う」
マオルクスも答える。……まぁ、彼女にはヴィエルの声が聞こえていないけど。
「奥には雌だけが囚われていて、ヒューム族を中心にグラスビット族とニクシス族がいたよ。全員で30人くらい?」
「なるほど。坑道へ入るよ」
ヒューム語が話せない種族対策にリリアンナを連れてきたけど、正解だったな。
入口からでも見える下り道。坑道は地下にある。死角から飛び出して坑道を駆け下りる。正面突破のチームが敵を引きつけてくれたおかげで、奥の見張りは最低限。数が少なすぎて俺の順番が来る事無く始末されていく。
どんどん地下に降りて行き、先行していたクレアカリンが止まる。
「ここまで辿り着いたか。だが、この先は通さん」
全身フルアーマー。〈アナライズ〉が無くとも判る。【重戦士】だ。本来であれば今、ここにいるメンバーだと俺が奥の手を使わなければ倒すのが大変な相手。しかし、
「火星の星霊よ、我が敵を焼却せよ!」
「ぐあああっ、貴様、【盗賊】じゃ……」
「残念。この姿はコスプレなの」
マオルクスの【占星術士】の火属性攻撃で鎧を熱する。……多分、弱点じゃないかな?
……戦闘において、俺の出番は多分ないな。マオルクスの強さが異常すぎる。
「さぁ、奥へ向かお! まだいるかもしれないし」
マオルクスはそう言うと先に走っていく。
……本当に普通の敵なら圧勝だな……やっぱり苦戦するような強敵との戦闘が変なんだよ。
適正レベルよりかなりレベルを上げているのだから、楽勝なはずなんだよ。本来はね。
「サクリ、居たよ!」
「わかった! じゃあ、リリアを連れてくる」
俺は壁にナイフを突き立て、〈マーク〉する。そして、リリアンナの元へ〈リコール〉した。
「リリアは依頼で助けに来たことと勝手に逃げると危ない事の説明と通訳、クレアとユッキーはリリアの説明が終わり次第解錠、メアとワカチは皆さんをアヤナンリッタのところまで護送して」
俺が指示を出すと各自動き出す。
「わたしはいいの?」
「マオは俺と同じで敵の警戒。レイアやユッカンがいないから位置を把握できてないしね」
「そっか、わかった」
違法奴隷ということだから、もしかしたら男相手に嫌な事をされているかもしれない。なら、念のため配慮するべきだ。……まぁ、相手もプロだから商品に傷をつけるような真似はしないと思うけれど。
「全員解放したけどさ、多分全員が既に隷属契約だっけ? をしていると思うよ」
「そっか……了解。それは後で考えよう。とりあえず上に出よう」
ユキサーラの報告を受けて、撤収を始める。刺した短剣を引き抜き上に向かって歩く。幸い捕えられていた女性達に体調の悪い人は無く、食事も食べていたようで健康そのもの。少しだけ不衛生ってくらいで帰るのには問題なさそうだ。
……やっぱり問題は隷属契約の解除か……。
魔道具のようなモノで拘束されているだけなら、解放する手段はあるが、魔法での契約となると解除の難易度が判らない。
そんなことを考えている間に坑道を出る。想定通りではあったけれど、敵は殲滅されていた。
……魔人族との戦闘に比べたら、楽勝だよなぁ……。
「みんな、おつかれ」
「サクリさん!」
ユイディアが気づいてレイアーナと共に駆け寄って来る。
「捕らえられていた女性達、全員が隷属契約の魔法を掛けられているようなんだ。解除方法って知ってる?」
「……わたし、できるよ?」
そう答えたのは、レイアーナでもユイディアでもなく……サキマイールだった。
「……解除、できるんか……」
「うん。……する?」
……多分、アレだろ? こことは違う異世界の魔法だろ? 解除方法を調べるところから始まると思ったのに、そんな簡単にできるもんなんだ……。
いや、簡単でもないか。確認したところ、【神官】のユイディアも【付与術士】のユッカンヒルデも解除できなかったわけで、本来は術者しか解除できない魔法を【聖女】というユニーク職のスキルで解除するってことだから……正攻法ではなくチート? そんなことを言ったら異世界の魔法もチートだから……よく解らん。
……まぁ、何でも良いか。違法奴隷から解放されることが大事。
「あっ、ちょっと待って。先に報告だ」
違法奴隷の方々のことを思うなら手段があるのなら即解除というのが最善の行為と思うけれど、これは依頼。アヤナンリッタを介してバルカミュードへ報告しないと依頼達成の証明ができなくなる。
「アヤナンリッタ。安全は確保されたから例のネックレスを使って、俺と一緒に中を見回ってほしい」
「はい」
……やっぱり変なんだよな。最初は緊張のせいかと思ったけど……。
廃村、坑道を見て回り、亡くなった見張りや解放した奴隷達の姿を見せる。全員救出、被害ゼロ。依頼を完璧に完了したことを見せる。
「映像、送られました。依頼達成です」
アヤナンリッタのお墨付きを頂いたことで、改めてサキマイールに解呪を頼んだ。
奴隷達の契約魔法に関しては解除され、生き残っていた見張り達は魔法によって強制的に自害をさせられていた。
多くの女性がこの廃村に近い村で暮らす人達だと判明し、軽く話を聞いた後に自力で帰っていく。……徒歩でも数時間で到着するらしいからとは言われたが、要は知らない冒険者と共にいるのは不安なのかもしれない。……どんな環境だったか想像できるしなぁ。
「……あの、ここは何処? なんであたしはここに?」
アヤナンリッタの言葉は明らかに異常で、自分の状況を理解していないようだった。
「今までの経緯は憶えていない?」
彼女は頷いて、戸惑っている姿は芝居には思えなかった。……キッカケに関しては気づいている。サキマイールが解呪をする際に効果範囲にアヤナンリッタもいたことだった。
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