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違法奴隷商の討伐依頼と合法ではない違法奴隷という存在

 予知夢を見た日、夕飯前。


 エステヴァトルを拠点にしてメンテに出した武器が戻ってきた後からレア職メンバーには素材集めのため、森や坑道などに向かっては狩りや採掘、伐採や採集をしていた。


 何故レア職メンバーか? それは経験値を稼ぐため。ちなみに残念ながらスーパーレア職では経験値が微妙だった。理由はゲームの仕様通りであれば敵が弱いから。それを確認した時点で素材集めはレア職の仕事としてお願いしている。


 その結果。


「サクリさん、【神官】に進化しました!」


「おめでとう、ユイ」


「わたしも【精霊使い】になったよー」


「カナディもおめでとう」


 進化したのは2人だけでなく、カオリアリーゼは【重戦士】に。ユッカンヒルデは【付与術士】に。ユキサーラは【曲芸士】に。リンクルムも【魔獣操士】に進化した。


 ただ、ワカナディアとサキマイールはレベルクラウンには届かない。やっぱりユニーク職と亜人種は必要経験値や取得経験値量が違うのだろうか? どっちも『竜騎幻想』には出てこないユニットだから推測の域を出ないけどね。


「本当にどうなっているのよ……サクリ君の指示に従うだけでレベルが上がるのが早くなるだけじゃなく、天職進化率100%じゃない」


「エルミもレベル上げる?」


「わたしはいいわ。レベルが上がっても面倒なことを押し付けられるだけだもの」


「確かにそうだよね……国に仕えているわけだから」


 多少の事では驚かなくなっていたエルミスリーも再びレベルクラウンメンバー全員が進化したことに驚いていた。


 尚、シオリエルとユミウルカはレベル9になってから最後は戦闘抜きで技術を磨く努力をするってことで、ひたすら作っては販売してって繰り返しているが、レベルの上がる気配はしない。やっぱり戦闘で得られる経験値は多いのだろう。そして、何も考えずに経験値を稼ぐと進化が止まる……そういう仕様になっている……そこが『竜騎幻想』とは違う部分だと思っている。何をすればどのくらい経験値が入ってくるのかゲームみたいに数値化され確認できれば良いんだけど……ゲームじゃないから、こればかりは感覚頼りになる。


 俺にとって好都合なのは、育成方針が『竜騎幻想』と一緒で間違いないというところか。それでもスーパーレア職になってからの経験値の入る少なさがエグイと思うけど。


「ユイディアさん、ユッカンヒルデさん。装備を新調しますか? お仕立てしますよ?」


「「お願いします!」」


「じゃあ、わたし達は買いに行きますか?」


 この日を最後にカオリアリーゼはフルプレートアーマー姿がメインになってしまった。




 予知夢を見た翌日の昼過ぎ。


「サクリさん、お客様です。仕事の依頼をしたいという話なのですが……」


「仕事の依頼? わかった」


 昼食を食べようと思い部屋で待っていたのだが、工房の客達の流れが途切れない。空腹を耐えているとシオリエルが部屋に呼びに来た。


 ……本当にタイミングが悪い。


 1階に降りる。思ったより空いていて、昼食まであと少しだったと気づく。


 マユシェが運営している料理店のテーブルを1つ借りて待っていた客の元へ訪れる。


「お待たせしました」


 先に相手をしていただろうリリアンナが俺の姿が視界に入ったのを確認して席を立つ。


「貴方がこの“サクリウスファイミリア”のリーダーの?」


「はい、サクリウス=サイファリオです」


「初めまして。私はヴァンバードで俳優系を扱っている奴隷商のバルカミュードと申します」


 彼は俺を見ると立ち上がり挨拶をしながら手を差し出され、握手に応じた。


 年齢は30代後半。癖のある深い青色の髪に淡い藍色の瞳。ワイルド系の美形おじさんって感じで、服装やアクセサリー込みで見た目は金持ちってイメージだ。


「ヴァンバード? 王都から来られたのですか? どうやって俺達の事を知ったのですか?」


「この前のヴィエトゥールでのファッションショーを私も見ていたんですよ。奴隷スカウトする際に“サクリウスファミリア”の名を聞きまして」


「そうだったんですね」


 内心、実は緊張していた。何故なら、未知の依頼だから。ファッションショーが起因なのだから当然な話。もちろん、『竜騎幻想』に全ての依頼がクエストとして公開されているわけではない。むしろ、存在しない依頼の方が多いだろう。けれど、難易度が判らないからこそ判断が難しい。


「仕事の依頼と聞きました」


 そう話すと周りを見回し、人が少ないことに満足したのか彼は声のトーンを落として話し始めた。


「とある違法奴隷を扱う奴隷商から奴隷を助けて欲しいのです」


 依頼内容を聞いた最初の印象は、「何故、俺達に?」ということだった。


 借金奴隷も含め、奴隷は原則成人していないといけない。けれど、違法奴隷は未成年も扱う上に、そもそも奴隷として扱うことが禁止されている亜人種や、国外の人、借金をしていないのに強制的に隷属契約をさせた人……そういった人達が違法奴隷であり、それらを扱う奴隷商は犯罪者である。そして、当然ながら違法奴隷は法に守られていないので人権を無視した扱いをされることになる。


 そんな違法奴隷を扱う奴隷商から奴隷を助ける仕事であれば受けるのは別に問題ない。ただ、今のトゥーベント王国は兵士の数が充実しており、国が取り締まることは可能なはず。それなのに、何故冒険者に依頼するのかが謎である。


「申し訳ありません。それだけでは判断が難しいです。もう少し詳しい話をして頂けませんか?」


 リリアンナも判断に困ったのか詳細の話を促す。ただし、俺達が断る可能性を考慮して全部公開することもしないだろうけど。


「国の北にウインドノルドという町があります。その北東……少し離れたところに今はもう廃村となった場所があります。そこから違法奴隷を救出してほしい」




 割と距離がある。本来であればウインドノルドを拠点としている冒険者に依頼するべきではあるのだが、今は異常なので冒険者もいないだろう。その代わり、兵士が町に駐在しているはず。そっちに通報すれば取り締まってくれるはず。でも、その前に、根本的な問題がある。


「質問、よろしいですか?」


 リリアンナも当然気づいている。


「何故、自分の奴隷を奪われたわけではないのに依頼しに来たのですか?」


「私はトゥーベント王国内でも所属奴隷数と奴隷貸与契約している事業主の数、収益においても屈指と自負しています。奴隷のブランドイメージ低下は自身の仕事にも影響が大きい……それなのに大々的に違法奴隷の話が広まったら、例え奴隷商が捕まったとしても奴隷に対するイメージが大きく損なわれるでしょう。それにより若くて才能ある人材が奴隷になることを躊躇してしまう。それは奴隷商を生業にする者にとっては痛手なんですよ」


「つまり、奴隷のイメージを落とさないため?」


 自分で何を言っているか一瞬理解できなくなるが、俺の問いに彼は首を縦に振る。


「もしも、サクリウスさんがトゥーベント国民だと仮定したとして、パッと奴隷商を見て奴隷商が真面目に合法的な運営をしている奴隷商か、非合法に手を染めた悪徳奴隷商か、見分けをつける自信がありますか?」


「無い」


「リリアンナさんはどうでしょう?」


「正直、わからないですね」


「お2人は国外の方なのでご存知ないかもしれません。合法とは言われていますが借金奴隷もかなり人権を無視した酷い扱いをされます。……まぁ、私に言わせれば返せない程の借金をするからダメなわけで、自業自得としか思えないのですが。簡単な仕事の例をあげると、労働内容選択不可、労働時間超過&サービス残業は当たり前。……あっ、サービス残業というのは労働時間外に働いても給料が出ない事を言うらしいです。危険な労働環境での過酷な肉体労働や、美人局目的の強制的な売春行為。奴隷の労働能力を向上させるための体罰。これらは全て基本的に違法なのですが、借金奴隷は借金返済のために見て見ぬフリをされます」


 ……それ、ダメじゃね?


「まぁ、借金奴隷だから何しても良いってわけでなくて、実際のところは余程反抗的でない限り酷い待遇はないです。お金さえ返して貰えれば奴隷商は問題ないわけですから、効率よく回収したいと考えているだけです。その結果、違法行為に高額報酬が出ると、それを条件に奴隷が了承するだけの話です」


 ……腐ってるな……。


 隣をチラッと見るとリリアンナも同じ考えなのか表情が気持ち歪んでいる。


「ですが、違法奴隷はそれらを全て強要されます。借金しているわけではないのに。それらが周知されているからこそ、違法奴隷を許容する悪徳奴隷商は潰さなければならない」




 彼の主張は解った。……解りたくなかったけれども。


 純粋な正義感だけじゃなく、ビジネス的にもよくない状況になる可能性があること。だから直接被害が無くとも自費で冒険者を雇いたいという事情も理解した。


「あの、何故我々が? 失礼とは思いますが国に伝えれば……」


 リリアンナの素朴な疑問。……まぁ、普通そう思うよな。


「それだと奴隷も拘束されてしまいます。奴隷は無罪だと考えていますが、法的には強制されたとはいえ、違法行為をしています。そうなると、国民に不安を与えてしまうでしょう。それはイメージ的に良くないんです」


 ……まぁ、そこに繋がるよな。


「もし悪徳奴隷商を取り締まりたいというだけならば、私も国に訴えると思います。ですが、それでは困ります。私がお願いしたいのは奴隷商のイメージ低下を防ぐことですから」


 ……正義感ではなく自己都合……そこは説得力があって個人的には好感が持てるけど、彼は王都で奴隷商をしているのなら、大きな違和がある。


「バルカミュードさんの依頼の趣旨は理解しました。ですが、何故ヴァンバードで冒険者を手配しなかったんですか? ヴァンバードにはナッツリブア冒険者支援組合や冒険者の店もあると聞いていますが?」


 悪徳奴隷商の存在が問題で、国の兵士に頼めないのであれば冒険者に頼めば良い。選り好みの必要は少なく、冒険者であれば誰でも良いはず。バルカミュードがヴァンバードで暮らしているなら、地元で依頼した方が現地へ向かう距離も考えて、そっちの方が簡単なはずなんだよ。依頼達成を確認するのも、報酬を支払うのも。


「それはですね、無理だからです。トゥーベントがここ10年くらいで発展したことの弊害かもしれない……昔はあれだけ居た冒険者がすっかり姿を見かけなくなったんですよ」


 ……そうでしょうね。


「今では国内にいる冒険者は数チーム、しかも全てがカッパー級以下です。違法奴隷を保護しつつ、悪徳奴隷商を何とかするというのは、荷が重いのです」


「それで、俺達にって事ですか」


 辻褄は合っているように感じる。けど、違和を感じる。……問題はそれが何か判らない。


 リリアンナを見ると彼女は頷く。それは依頼を受けても良いと考えている合図。俺も違和はあれども悪意を感じない上に問題もないのに依頼を何となくという理由で断ることはリスクがある。……嫌な予感がするという理由だけで依頼を断るのなら冒険者辞めろって話だしな。


 ……不安はあるけれど、受ける方向で話を進めるか。




「それで、どうですか? 引き受けて頂けますでしょうか?」


 バルカミュードは立ち上がって頭を下げる。


 成人とはいえ、まだ16歳の子供に頭を下げる礼儀の良さとか、流石は日本人が作ったゲーム……とは思うけれど、そもそもこのクエスト自体がゲームに存在しないわけで。そう考えると彼の態度が不自然なんだよな。……こういうのも違和感の1つだったりする。


「そうですね。では、依頼の詳細と達成条件、報酬の話をしましょうか」


「……おぉ、それでは……」


「まず、報酬の話。俺達は知っての通りブロンズ級冒険者です。相場が1人10万ナンスです。貴方が思う依頼を達成できる人数は何名ですか?」


 参考までにカッパー級だったら1人1000ナンス。手頃に雇える価格だから、カッパー級が多いわけで。


「そうですね……30人くらいでしょうか。そうなると報酬は300万ナンス……前金30万ナンス、後金270万ナンスでどうでしょう?」


 ……30人って、ほぼ全員じゃん……ノーマル職は戦闘要員に数えたくないんだけど。


「構いません。移動に関する必要経費ですが……」


「移動に必要な馬車を含め、道案内役を御者として同行させましょう。道中の食費に関しても食材という形で提供します」


 ……至れり尽くせりすぎる……。


「案内役がいるなら、廃村の詳しい場所を聞かなくても大丈夫そうですね。最後に依頼達成条件ですが……目的は違法奴隷の解放ですよね?」


「そうです。ですから、案内役に囚われた奴隷が解放されたことを確認させて下さい」


 ……普通、それでは案内役の発言次第でどうにでもなる……となるだろう。けれど、それは可能性として備えれば大丈夫……そう考えて依頼を承諾した。




「それでは、明日までには準備を終えて明後日には何時出発でも対応できるようにしておきます。宿屋に泊まっていますので、出発時間が決まったら連絡下さい」


 彼はそう言うと席を立って頭を下げるとコテージを出る。


 ……何だろうな……聞いている限り問題がないはずなのに、何故か引っかかる……。


「すごい気前の良い依頼主でしたね?」


「確かに。ブロンズ級としての依頼は初だからな……逆を言えば、この依頼はブロンズ級に依頼するような難易度ってこと。当たり前なことを言っているけど、俺達はその当たり前の難易度を経験していない」


「……準備、進めます」


 リリアンナはそう言うと、周りに声を掛け始める。……本当に気掛かりが気のせいであることを祈るよ……マジで。

読んで頂きありがとうございました。

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何卒よろしくお願いします。

尚、5日間連続投稿2日目+本日中にあと2回投稿します!

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