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魔術系唯一の推しユニット【魔術士】カノエルン

 ナッツリブア冒険者支援組合から戻って一週間は休養……とはならず。コテージの1階でユミウルカを中心に行われている工房直販。元々は大々的に直販をしていたわけでなく、偶然発見した人に販売するくらいの事だったけど、アルボンニウでの“エイゴー”を参考にノーマル職の職人が工房として利用している1階で直販を開始したことで、俺達も休養返上で彼女等のサポートをするべく、忙しく素材調達を行っていた。……“エイゴー”はあまり真似て欲しくないけれど、推奨しないだけでそもそも悪い事じゃないからなぁ。


 そんなことをしている間に1週間はあっという間に経過し、武器も戻ってきてから数日後。


「落ち着いて。さぁ、あなたが賜った新たな天職は?」


 例の予知夢を見ていた。


「ウソ……良かった……本当に【魔術士】を賜れた……女神ナンス様、ありがとうございます!」


 この時点で、もう誰か把握した。【魔術士】の女性で推しは1人しかいないから。


 童顔に金色の瞳。そして腰まである艶々な黄髪。イヴァルスフィアでは黄髪と呼んでいるけど、イーベルロマに居た頃は普通に金髪だと思っていた。本物の金髪を見たことが無かったからというのもあるけど、今思うと、黄髪とは前世でいうところの金髪だったからかもしれない。


 ……いや、流石に偶然か。


 そして、声も可愛いし演技も可愛い。だから推しではあるんだけど……それがカノエルン=サラリスハートである。


「それで、職業はどうされるのですか?」


「はい、レア職を賜ったら冒険者になると決めてます」


 『竜騎幻想』をやっている時は気にもしなかったけど、これって【職審官】に仕事先を紹介して貰うために希望する職業を言っているだけなんだよね。ゲームでは関係ないけど、天職が何であれ職業を選ぶ自由はあるからね。


「冒険者ですか?」


「はい、なので王都へ向かいます」


 驚く【職審官】に気にすることなく彼女は答える。


 ……まぁ、彼女は冒険者をするような好戦的な性格にも見えないし、むしろ怖がりにも見える。だから荒事には向いていないと思われたかもしれない。……実はそんなことないんだけど。


 アニメーションが終わり、ゲーム画面に切り替わる。そのタイミングで場面も切り替わる。


「ただいま、お父さん」


「おかえり」


 純木製の家のように見えるログハウス……いや、実際はどうか知らんけど……に彼女が入ると、姿は見えないものの奥から父親と思われる声だけが聞こえる。


 ログハウスの奥にいる工房に父親は居る。彼は有名な彫刻家で、父娘の2人暮らし。離婚したわけでなく、母親はヴァンバードで美術館を経営している。ちなみにオープニングに母親は出てこない。


「お父さん。今日『天職進化の儀』を受けて【魔術士】を賜ったの。だから、冒険者になるために王都へ行くよ」


「……そうか」


 思ったよりリアクションが無く、成人したことを祝ってくれそうもない父親にガッカリしつつ、彼女は静かに自室へと向かう。


「……お父さん」


 部屋に入ると、テーブルの上にプレゼントと思われる魔導書と手紙が置いてあった。




 視界が暗転する。……まだオープニングが終わっていないのに。


 彼女は北方の村で暮らしていたんだけど、冒険者になるべく村を旅立つ寸前に村の男に告白されたり、女友達に冒険者は危ないとか色々言われたりするんだけど、全部拒否して冒険者になるという強い意志を見せる。……まぁ、止められる理由は彼女が控えめで臆病な性格なので冒険者として不向きだと思われているから。


 そんな描写はカットされ、別のシーンに飛んだ。


 ……これはクエストのイベントアニメかな?


 まだ新しいログハウスのような大きな工房。そこに彫刻家の父と元美術館スタッフだった母、まだ幼いカノエルンとメイドの女性。


「こんなところまで付いてこさせて済まない」


「良いじゃない? 育児には良い環境だと思うわ」


 名言されていないけど、まだ村に越してきたばかりのようなんだよな。だから、カノエルンはもしかしたらヴァンバード生まれなのかもしれない。


 この後、早送りでカノエルンの成長を見守る。赤ん坊だった彼女はすくすくと育ちつつ、クローゼットには洋服が沢山増えていく。女の子だからなのか、アクセサリー類や縫いぐるみが沢山ある可愛らしい部屋で、天涯付きベッドで本当にお嬢様な生活を送る。


「こんちには」


「ども」


「こらっ、お兄ちゃんなんだから、ちゃんと挨拶しなさい。ごめんね、カノエルン」


 近所の少年とその母親。カノエルンが外に買い物へ向かう際に会う。


「大丈夫です」


「今日もおめかしして可愛いわね。お買い物?」


「はい」


「そう、気を付けてね。……あぁ、この子は息子のワッツアール。カノエルンより1歳年上だけど、仲良くしてあげてね」


「母ちゃん、恥ずかしいよ……だけど、一緒に遊ぼうな!」


 これが、彼女の運命を狂わせる元凶、ワッツアールとの出会い。……えぇ、ワッツアールのアンチですが何か?


 時間は再び早送りで進んでいく。何度もワッツアールと会い、彼を経由して村の子供達とどんどん交流を増やしていく。カノエルンにとってワッツアールが特別な存在になるのに時間はそんなに掛からなかった。


「なぁ、カノン。俺、もうすぐ成人するんだけどさ。レア職を賜ったら冒険者になろうと思ってるんだ」


「わぁ、凄いね。でも、何で冒険者?」


「なんていうか、俺が衛兵とか自警団とかって柄じゃないのは判ってるし、堅苦しい感じの職業をするくらいなら、冒険者かなって」


「レア職、賜ると良いね!」


 ……こんな風に話していて、数日後に再び一緒のシーンになる。


「俺の天職、【盗賊】だった。何となく俺らしいと思う」


「おめでとう!」


「ありがとう。……それでさ、あと半年くらい後にはカノンも成人するじゃん? もし、カノンの天職がレア職だったらさ……一緒に冒険者やらないか?」


「……うん、いいよ。レア職賜ったら、ヴァンバードに会いに行くよ」


「おう! 待ってる!!」


 ……まぁ、これが彼女を壊すキッカケの約束。


 そこで視界が暗転する。……あぁ、予知夢はここを見せたかったか……まぁ、この後は彼女なりに冒険者を調べようとして、母親が持っていた土の魔導書に触れて魔法に目覚めるんだよな。……発動はしないんだけど。


 これは考察であって正解は判らないんだけど、彼女が【魔術士】を賜ったのは魔導書に触れた経験が大きいのかもしれないと考えている。何故なら、【魔術士】になりたかったユッカンヒルデが【魔術士】を賜らなかったことを考えると、魔導書に触れるかどうかって大事なのかと。まぁ、もしかしたら触れたとしても才能の有無が関係するかもしれないけどね。




 カノエルンの母親はヴァンバードで暮らしているので、彼女も何度も来ている。だから、道に迷うこともなく、冒険者の店に向かう。……多分、冒険者支援組合のシーンは制作段階でカットされたに違いない。……『竜騎幻想』には冒険者支援組合は出てこないしなぁ。


「いらっしゃいませ」


 アニメーションで映される冒険者の店の中は酒を飲む冒険者達で賑わっている。壁には依頼が張り出されていて、ウェイトレスが忙しなくフロアを動き回る。


 周りをキョロキョロと見回しているとウェイトレスが近づいて来る。


「お食事? お泊り? それとも待ち合わせ?」


「えっと……友人を探していて……ワッツアールという名前なんですけど」


「あぁ、ワッツ? ……まだ来てないけど、いつもならそろそろ……」


 そんな話をしていると扉が開く。そして6人組の冒険者が入って来る。


「あっ!」


 入ってきた5人目を見て彼女が思わず声を出し笑顔が零れる。


「ワッ……」


「到着!」


「おい、くっつくなって……」


 続いて入ってきた6人目の女性がワッツアールに抱き着いた瞬間にカノエルンの動きが止まる。


 前を歩く4人は彼女の横を通って店の奥へと向かい、振りほどいだ彼は奥へ行こうとしてカノエルンに気付いた。


「ん? ……え? もしかしてカノン?」


「うん。成人、したんだ……」


「おめでとう!」


「ありがとう」


 彼が何かを言おうとしたタイミングで、後ろの女が再びワッツアールに抱き着く。


「ねぇ、知り合い?」


「あぁ、同郷の……」


「そうなんだ! 初めまして。わたし、ワッツと一緒の冒険者チームの【魔術士】でエミルっていうの。よろしくね~……会いに来たんだし、あたし達のことは気にせず話しておいでよ」


「わかった。みんなにも言っておいて……店の外へ出よう」


 なんか知っているワッツアールと雰囲気と違う彼の後ろをついて店を出る。来たのは喫茶店で冒険者姿では若干抵抗があるものの、彼が入って行くので黙って付いて行く。席について食事を注文し、ウェイトレスが下がったのを見てから彼が口を開いた。


「本当にビックリした。いつ成人したのさ?」


「1週間くらい前かな。それから冒険者としての装備を用意して、今日ヴァンバードに着いたの」


「そっか。宿は?」


「とりあえず、お母さんのところに泊めて貰う。もうお母さんには伝えてあるから」


 カノエルンは期待するように彼を見る。今後のことを決めるのだと期待している反面、不安でもあった。


「……カノエルンは約束、憶えていてくれていたんだな。だけど、ゴメン。一緒のチームで活動するっていうのは正直言って難しいと思う。リーダーは許可しない……」


 ……その一言に彼女は絶望した。




 視界が暗転する。また中途半端なところで……。


 初見の時は、きっと沢山罵詈雑言を彼にぶつけるのだろう……そう思っていた。でも、彼女はそうしなかった。


 何も聞かなかったかのようにワッツアールが出た後の村の様子を語り、一緒に食事をする。彼がお金を全額払おうとしたが、彼女は自分の分だけお金を払う。


 ……以降、実際の彼がカノエルンの前に現れることは無い。回想では出てくるんだけどね。


 そう言う訳で、多分予知として見せたい内容に無関係だからカットされたのかもしれない。


 その証拠に次はゲーム画面。しかも場所が北の町ウインドノルドの今は無き冒険者の店。この予知夢には何かしら意図がある。予知夢を見たいと思って見ているわけでない以上、見せている側に思惑がある……可能性があるっていう仮説。


 カウンターでポツンと飲み物を飲んでいるカノエルン。そこに【剣の乙女】が入って来た。


「貴女、泣いているの?」


「……実は……」


 そこでアニメーションムービーが始まる。


「わたし、冒険者なんですけど、チームをクビになったんです」


「それは気の毒に」


「一生懸命チームに貢献していたつもりだったんですが……」


「じゃあ、チームの人達が鈍いのか、思っていたのと違ったのか……」


 ……本当に役に立っていなかったのか……という言葉は呑み込まれる。実際は判らないけど、多分役立たずなんだよね。何故なら彼女には性格的な問題があったから。


「まぁ、判らないけれど。話を聞くよ? 話せば少しはスッキリするかもしれないし」


「……そうですね。わたし【魔術士】なんですけど、チームに所属したばかりで……」


 2人の語りは止まらないまま、無言で映像だけで回想が始まる。台詞があったら回想に没入できそうではあるんだけど……きっと制作側の事情なんだろう……多分ね。


「【戦士】、【盗賊】、【狩人】、【修道士】、【獣操士】のパーティに入れて貰った感じです。この前初仕事があって、坑道にいる魔獣を全部駆除するという依頼で」


「まぁ、普通ね。それで?」


「教えられた坑道に到着すると、そのまま坑道へ入ったんです。打ち合わせ無しで」


「うーん」


「坑道は狭くて戦闘をすることを考えると横に並ぶのは2人が限界で、そんな狭い行動ですから、使える魔法が無かったんです」


「照明の魔法とか、狩人が攻撃する際にタイミングを合わせて攻撃魔法を使うとかは?」


「照明の魔法は使えないんです。わたしが使えるのは土魔法だけなので。そして土魔法だから狭い坑道内で使用すると危なかったりします。結果、ただ付いて行くだけになったんですけど」


「……それは(チームの方々が)気の毒に……」


「戻ってきたらクビと。事情を説明したのですが、事前説明責任放棄ということらしいです」


 ……まぁ、尤もな理由だよな。けれど、多分なりたての冒険者なんて普通そんなもんなのかもしれない。しかも自分以外のメンバーが既に連携をとれているなら、見て学ぶこともできん。




 目が覚める。……むしろ、このタイミングで目が覚めるのかと思ってしまった。


 このまま夢を見ていたら、その後の展開まで見られると思うんだけど……今回は妙に短く感じる。


 実はカノエルンの物語は謎に包まれている。……いや、悪いのは俺だったりするけど。


 カノエルンは間違いなく俺の推しユニットである。そして、推しの中では唯一の【魔術士】だ。だから、ゲームをやれば絶対に仲間に加えている。……結果、仲間にしなかった場合のその後を知らない。動画検索して調べれば見れたと思うんだけど、何となく悲しい話なんだろうなと決めつけて見なかった。……まぁ、自業自得。


 では、クリアした後の後日譚は?


 どんなユニットにも後日譚には3パターン存在する。グッドエンド、ノーマルエンド、バッドエンド。普通に遊んでいればノーマルエンド。それは見たことがあって、実家に戻って自警団に入って村を守るために魔法を使うっていう多くのユニットが辿るパターン。


 問題はクエストなどで条件を満たすと進むグッドエンドとバッドエンド。まぁ、バッドエンドはどうでも良いとして、グッドエンドを見たことが無い。条件を調べたけど出てこない。調べ方が悪いのかもしれんけど、ノーマルエンドしか見たことがない。


 ……それは何故か? キャラクター人気はあってもユニットとしての人気が低いから。


 この世界のヒューム族女性の平均身長より気持ち低い身長に腰まで届く黄髪、金色の瞳、発育の良い容姿。内気で臆病に見える性格、年齢より幼く媚びるような口調。もう薄い本のネタとしてレギュラーであり、男性人気と女性不人気の上位常連だった。


 一方、【魔術士】は育成が難しい。魔法の種類は魔導書の数に依存する。序盤はゲームで全く手に入れるタイミングがない。……いや、彼女が仲間になるタイミングなら少しは手に入っているけどね。


 彼女自身の問題として、初期装備の土の魔導書。実は彼女と相性が良くない。上位職である【魔道士】になるためには別の魔導書を渡すことが必須条件である。だけど、魔導書は装備させると使いまわしができない。そして別の魔導書を渡したとしても威力が弱い。苦労して育てても強くならない。だから、ユニットとしては不人気で情報も少ないというわけで。


「……次はカノエルンだってさ」


 どうせ寝たふりで起きているだろう周りの連中に伝える。


「おはようございます、主人マスター。予知夢をご覧になったのですね」


「ま~た、名前からして女の子ですねぇ」


 ……まぁ、推しは総じて女性ユニットだけですが?


 サヤーチカは純粋に心配、ユカルナは少し拗ねた感じで反応を返す。彼女達はオートマタ。基本的に人で言うところの寝るという行動は必要無いらしい。ただ、主人マスターの眠りを妨げないようにオートメンテナンスモードになって、見た目は寝た状態になるらしい。


「それで、そのカノエルンって何者なんですか? 会いに行くんですよね?」


 サヤーチカが来てから、ずっと不機嫌なユカルナからの問いに「多分」と答える。


「俺の知る知識だと、ウインドノルドの冒険者の店に行かないと出会えないはずなんだけど、もうそこには冒険者の店は無いらしいし、どうしたものか……」


主人マスターの予知夢は外れたことがありません。ですから、多少の展開は変わっても得られる結果は今回も変わらないと思いますよ」


「……どう展開が変わるかが心配だけどね」


 サヤーチカに同意で俺も近日中に彼女に会ってしまうとは思っていた。

読んで頂きありがとうございました。

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尚、5日間連続投稿2日目+本日中にあと3回投稿します!

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