正式に仲間が増えて、変な知名度まで上がってしまった
トゥーベント王国の東にある町『エステヴァトル』。実は一度ここに来ていて、サキマイールとユキサーラの冒険者カードの発行とチーム登録をした経緯がある。ただ、当時はコネがないので紹介状も無い。それでも大きな街に入るのに身分証の提示を求められる可能性もゼロではないと思い、仕方なく作った。詳細は語らないが、今後から利用にはちゃんとコネによる紹介状を用意して貰ってから行こうと心に決めている。
「この町をとりあえず拠点にするのが一番だと思います。この町が国で最も流行から遅れていて、伝統を大事に思っている町なので。……それでも、少しは影響を受けていますけどね」
町の東側の外れにコテージを設置し終えたタイミングで、リンクルムがそう話す。この町に移動したのも彼女の勧めがあったからだ。
「他の町じゃまずかった?」
「他の町もヴィエトゥールと変わりませんよ。ナッツリブア冒険者支援組合と冒険者の店があるのは王都を除けばエステヴァトルだけ。そして、住民は他の街や町の雰囲気に馴染めなくて集まった流行に取り残された古い町なんですよ」
確かにこの町の様子は『竜騎幻想』に存在するエステヴァトルと近い。ここでなら、勘でどの辺に何があると判る。もちろん、完璧に同じではないので違う場合もあるんだけどね。
「それにとても便利でもあるんですよ。……鍛冶屋はもちろん、各種お店も揃っています。アイアン級ではありますが冒険者の店“駆け抜ける爽風”亭もあります。普通、アイアン級の店には仕事の依頼が来る事は無いのですが、ここは例外で仕事が来ます。理由は王都以外にここしか冒険者の店がないからです」
エッヘンと言わんばかりにおどけて話す。
「じゃあ、この町には結構冒険者が?」
「……そんなには居ないですね」
「何故?」
「国外から来た冒険者は王都ヴァンバードへ向かいます。国内の冒険者は仕事が少なくて国外へ向かってしまうのです。なので、多くの冒険者の店は廃れたんですよ。……まぁ、以前と違い、衛兵の数が増えて治安は格段に良くなったのですけどね」
少し寂しそうに話す。
……国民にとっては住みやすくなった国という事実に元王族として至らなさを感じているのかもしれない……多分ね。
「あっ、そうそう。少し離れてはいますが、坑道もあるし、魔獣が暮らす森もあります。そして、それらで得た素材を売却できるお店もあります。ですので、活動拠点とするにはとても良いと思いますよ」
……実は、王都も似たような環境だった。だから、最初こそヴァンバードを拠点にして少し金策とレベル上げを考えていたんだけどね。ヴィエトゥールを見てしまうとそれも難しいのは行かずとも判るんだよね。
……念願の武器メンテ!
全員分で結構な数の武器を預けたけれど、1週間後には全部修繕完了しているから受け取りに来るように言われた。本当に大感謝。
1つ学習したのは、紹介状が無くとも紹介する本人が居れば問題ないということ。今、凄く当たり前なことを言っているように聞こえるけれど、残念ながら当たり前とは言い切れない。
そして、武器を預けた後に俺とリンクルム、フカネーゼとジュリエルの4人はナッツリブア冒険者支援組合へ。驚いたのはその待遇の明らかな差。
「あっ、いらっしゃ……って、姫様っ?!」
そう言うと、受付にいた2人はカウンターの前にでて片膝をついて跪き、頭を下げる。……前来た時、隣国の姫様が一緒だったんだけどな。
「頭を上げて下さい。今はもう王女ではないのですから。それよりも、今日はわたし達の冒険者登録と彼のチームに所属することになったのでチーム登録をお願いしたいのです」
「はい、畏まりました!」
……前に来た時の適当に相手された感じを知っているだけに少しモヤッとする。でも、良い勉強になったと思うことにした。
何処の冒険者支援組合でも、登録などやる事は一緒。リンクルムが【獣操士】なのは知っているし、フカネーゼは【裁縫師】。そしてジュリエルは【再現師】……じゃない?
「えっと……ジュリエルって【再現師】じゃないの?」
「あれ? 話してませんっけ? わたしは【奇術師】ですよ」
……【奇術師】って、要は手品師のことだよな? 『竜騎幻想』には無い天職なのはもちろんだけど、サクリウスとしての人生においても【奇術師】は初めて聞いた。
「サクリさん、【奇術師】に興味津々ですね? では、少しだけ説明しましょう!」
冒険者カードが出来るまでの待ち時間。彼女が時間つぶしを兼ねて話し始める。
「サクリさんが知らないのも無理ない話です。実は【奇術師】はノーマル職の中でも珍しい天職でして。お客さんに不思議な現象を見せる天職です」
そう話しながら、コインを取り出しては簡単なコイン消失手品を見せる。
「お~」
拍手をすると、彼女がニコッと微笑む。
「拍手、ありがとうございます。わたしの天職は一見冒険者に不向きに見えるかもしれません。ですが、〈罠感知〉や〈施解錠〉といったスキルは冒険者としても使えるでしょう? 他にも〈嘘言感知〉や〈隠蔽〉という面白いスキルや〈奇術〉という属性に分類できない魔法も使えます。ね、冒険者として使えそうでしょ?」
「えっと、〈奇術〉って、MPを消費するってこと?」
「そうですよ」
……えー!! それって手品じゃないじゃん! そういえば、彼女は一度も手品とは言ってない。でも、前世の記憶的には奇術も手品も同じだと思うじゃん!
「あの、ジュリエルさん。ちなみに手品って知ってます?」
「もちろん知ってますよ。視覚の錯覚を利用したスキルですね。パッシブスキルで〈視線誘導効果アップ〉がありますから、わたしもできますよ」
「お~」
「何を隠そう、この胸元の露出が多い服も、髪型を高い位置でポニーテールにしているのも、視線を散らす小細工なんですよ」
そんな風に話しても手品に影響が無いと言える程、腕に自信があるということだろう。
受付の人が新しい冒険者カードを持ってきた際に毎度のお約束を聞いてみる。
「それで、あれから『邪竜討伐軍』に動きはありました?」
「えっ? ……あっ、あの時の!」
……気づいてすらなかったよ、この人……。
「そう、あの時の者です」
「えっと……その……あの時は失礼しました」
「いえ、仕方ないっすよ。コネない冒険者の扱いはそんなもんって知ってます」
「申し訳ないです」
知らなければ凹んでいたかもしれないけど、知ってたからなぁ。気も済んだし、仕方ないって感じで。
「それで、どうですか?」
「『邪竜討伐軍』の情報ですよね? 相変わらず王都にいるようです。これは推測ですが、賭博場でお楽しみなのかと思います」
「賭博場?」
「はい。入って来る情報からの推測ですけどね。もちろん、噂の裏取りはしていないので、あくまで推測という言い方をしていますが、確率は高いかと思いますよ」
もちろん、『竜騎幻想』のヴァンバードに賭博場なんて存在しない。ファンタジー世界に賭博場なんて……と一瞬思ったけれど、確かに有名ファンタジーRPGにもカジノは存在していたし、ゲーム要素があるファンタジー作品なら賭けたりするかもしれない。それこそ闘技場だってギャンブルだろう。ならば、ファンタジーに賭博場があるのは変だとは言い切れない。
……だけど、少なくともヴァンバードには賭博場は無かった。これも異世界人の仕業なのかもしれない。……世界観を壊し過ぎじゃね?
仮に異世界人だとしたら、俺よりずっと年上の人だろうな。ノウハウが無きゃアイデアはあっても実用化は難しいだろうし。適当に作っても問題が発生して破綻するだろうしなぁ。……だって、イヴァルスフィアには魔法が存在するんだから。
「その賭博場って誰が運営しているかご存知ですか?」
「国ですよ」
「国?!」
つまり、転生者は国を動かせるってこと? そんなの前世が大人だからって簡単にできるわけがないじゃん。
「あの賭博場は王妃のアイデアですよ」
そう答えたのはリンクルム。
「あの王妃は父と別れた後は実質経営権を握っていると思います。作ったのは父が再婚した後ですし」
……つまり、王妃は転生者ってこと?
どうせ考えても結論は出ない。だからといって考えることが無駄かというと対策というか可能性を考慮する意味でも重要だし。
もう1つ、考えても結論は出ない問題として、奴隷が流行していることが謎なんだよな。
「改めてちゃんと理解しておきたいんだけど、あの上級奴隷? 一般奴隷って何? しかも嫌々というより積極的に奴隷になりたい感じに見えたんだけど?」
「国外から来たなら理解が難しいかもしれないですね」
「そうなんですか? てっきり大陸で流行しているものだと思っていました。とても安心なシステムですし、今じゃ成人したらなりたい職業ナンバー1ですよ?」
リンクルムが導入事情に詳しいのか理解を示すのに対し、受付は広まった経緯に関しては詳しくないようだ。……根拠はリアクションの内容。リンクルムはちゃんと国外では流行していないことを把握している感じだしね。きっと信頼できる情報元がいるのかもしれない。
「姫様に長々と説明させるのも失礼ですし、私から説明させていただきますね」
……なるべく手短にお願いしたい。聞いておいて失礼なのは重々承知しているので言わないけれど、長々と語られても頭に入る自信が無い。
「我が国の奴隷にはランクがあります。上から上級奴隷、一般奴隷、借金奴隷、違法奴隷、脱法奴隷の5種類です。上級奴隷は容姿に優れ、頭脳も明晰で、天職以外の才能や技術を持っている。素晴らしい人材故に奴隷商は彼等を手放さず貸し出すことで使用料を徴収します。借りるに至っても高額で契約されます。当然奴隷本人の収入も高額が保障されています」
……それ、奴隷じゃなくて普通に職場に雇用された方が良くない?
「一般奴隷は天職のスキルを活かすだけの奴隷ですので、特別な条件はありません。原則奴隷商人から貸し出される形で労働に従事しますが、雇用側が気に入って、奴隷側が受け入れれば所有権が奴隷商から雇用主へ売買されます。尚、上級奴隷も一緒ですが、労働時間は国で定められていて仕事内容も借りる時に契約するので、雇用主が自由に命令をさせることはできませんし、時間超過労働や給料不払いは犯罪として雇用側が捕まります」
……おぅ、やっぱり概ね派遣?
「借金奴隷はそういった人権の保障がないんですよ。事情によりお金を借りて返せない人の成れの果てなので。給料不払いのみ雇用主は犯罪になります。ただ、その給料も最低限の生活費を除き借金返済として建て替えた奴隷商が回収します」
……扱いに関しては従来の奴隷って感じだな。奴隷になった人も自業自得な感じもする。
「そして、違法奴隷と脱法奴隷は犯罪です」
理解したことは、奴隷は隷属契約魔法というもので人権が守られているということだった。
……しかし、そうなると国内の冒険者は廃業なんじゃないか?
極論で暴論なのは承知しつつ、一般奴隷以上の身分であれば、一般的な労働時間で一般的な給料を貰える。雇用先が無いのは奴隷商の責任となり、奴隷商から給料が貰える。奴隷商は自己負担が無くなるように雇用主を積極的に探すようになる。
一方奴隷商は自身で労働する以上に自身が飼っている奴隷達が稼いでくるのでルールを守れば奴隷の質によって大金が稼げる。
そして、雇用主は雇った奴隷が使い勝手悪ければ別の奴隷とチェンジすることができる。急遽奴隷の体調が悪くなった場合でも労働力の補填は奴隷商の責任で別の奴隷を派遣してくれる。
一見、よくできたシステムである。しかも、治安も向上しているのは町や村にも兵士が常駐するようになったから。その兵士も国が雇用した奴隷なのだから世の中金で回るというわけだ。
……朔理の頃だったら平和で治安も良くて働けない大人がいなくて、全員が生活できるなんて問題ないじゃんって本気で思っていたと思う。
「……サクリさん? 聞いてますか?」
「あっ! ……すみません。考え事に没入してしまいました」
意識を現実に引き戻される。
「最後に1つだけ質問させて下さい。依頼って、結構あります?」
「昔は結構あったんですけどね。今は兵士達が解決してしまうので、冒険者に依頼するような仕事はないんですよね」
……ですよね。
そもそも他の国での冒険者の需要は兵士が行き届かない地域に問題を解決するための武力として存在している。だけど、全域に兵士が行き渡っている時点で冒険者の需要がない。
そうなると推しを見つけるのにもクエストが無い状態だから、いったいどうするべきなのだろうか?
「……ただ、“サクリウスファミリア”様に至っては若干事情が違うかもしれません」
「どういうこと?」
「先日のファッションショーでの噂はエステヴァトルにまで届いています。その人気で知名度がありますから、お金を持っている方が仕事の依頼をしてくるかもしれませんね」
……人気って、アレだろ? 美少女だらけの冒険者チームとかっていう偽りではないけど俺的には居心地の悪い噂。
「……ですねぇ。変な依頼が来ないか心配ですよ」
……まぁ、依頼が無い分には素材採取を目的とした経験値稼ぎをすれば生活は困らないものの、唯一の問題は配置が変わったトゥーベントにおいて推しの居場所が不明という点だよな。
「お待たせしました。手続きは以上になります。またのご利用をお待ちしています」
丁寧に対応されてナッツリブア冒険者支援組合を出る。……気分は正直複雑だった。
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