閉鎖される演芸場での告白と別邸を失う妖精
支配人が用意していたのか、店から料理が運ばれてくる。それらを並べてお酒もふるまわれる。まぁ、酒が飲めない人用のジュースを注いで3人にも持っていくと支配人が話し始めた。
「えー、改めまして。皆さん、お疲れさまでした。今日まで大変忙しかったと思いますが、それも報われる出来だったのではないでしょうか」
……確かに、素人がモデルの真似事をしたのだから苦労も多かったと思う。
本来、こういったモデル業は【再現師】の独壇場でスキルにより自身を美しく見せる補助能力がある。【盗賊】や【話術士】なども【再現師】の真似事は可能で不慣れながらもモデルのように見せることもできたと思う。しかし、それ以外のメンバーはスキルによる補佐能力が無い状態の中、一週間くらいの練習だけで頑張ったのだから、それも凄いことだと思う。
「無事成功で終わることができたのも、冒険者チーム“サクリウスファミリア”の皆様のおかげです。本当にありがとうございました」
そう言うと支配人は頭を下げ、それに倣って演芸場に所属していた方々も頭を下げる。
「頭を上げて下さい」
そう最初に声を発したのはリリアンナだった。
「わたし達は冒険者です。ちゃんと対価を頂きますので礼はそれで充分です」
直ぐに頭を上げさせる。
「それより、みんなはスカウトされました? 目的は達成できましたか?」
「はい、ありがとうございました」
モデル役の1人が代表して答える。……まぁ、何にしろ目的達成できたなら良かった。
食事をしながら盛り上がる女子達を眺めていると、支配人が重そうな袋を持って現れた。
「お待たせしました。少ないですが、これが今回の報酬の一部である現金です」
「どうもです」
本来、みんなを雇うとなると290万ナンスという高額が報酬として必要となる。あくまでブロンズ級冒険者として依頼を出す前提の話。
しかし、今回の報酬は300ナンス。こんなに破格なのは現金よりも大事なモノがあるからなのだが、今回は1人あたり10ナンスで引き受けたはず。
「支配人、10ナンス多いですよ。290ナンスの契約だったはず」
「300で合ってますよ。モデル役29名とフカネーゼさんの助手役1名の計30名×10ナンスで300ナンスです。本来の報酬とはかなり桁が違い申し訳ないですが……」
「大丈夫。前にも言ったと思うけど、これは正式な冒険者への依頼じゃないし、そういった前提を理解した上で協力しているわけだから。むしろ、モデル役急募という話で俺の分まで頂いて……ありがとう」
お金がない支配人のポケットマネーだと聞いている分、少し申し訳なく思う。とはいえ、返金しないのは、ちゃんと俺も働いたからね。ただ報酬は期待していなかったというだけで、貰う理由が存在するし、善意を拒否する理由も無い。
彼は何か話そうとしていたが、リンクルム達が近づいて来るのを気づいたのか、「他の方々と話してきますので、ゆっくりしていって下さい」と言って席から離れる。……多分気を使われたのだろうけど……。
「サクリウスさん」
モヤッとしていると、リンクルムから話しかけられ、一緒にいたのはジュリエル、フカネーゼだった。
何となく嫌な予感がするものの、俺は彼女達に椅子を勧めた。
「実は、スカウトを断りました」
リンクルム姫の第一声がそれだった。……意味が解らない。
「何故?」
「実はここ数日今後の身の振り方について考えていました。そしたら、2人も同じだと聞いて」
彼女がそう言うと2人も同意と言わんばかりに縦に首を振る。……だから3人揃って来たと。
「わたしの場合は、『守護り隊』と離れ続けることに抵抗があるからというのが理由ですね。わたしの天職は【獣操士】なんですが、『守護り隊』とはわたしの用心棒のような存在の動物達です」
……知らない風を装うけれど、『守護り隊』がゲーム的な意味でいう獣使いのペットであることはもちろん知っている。
「天職が【獣操士】であることを説明してその『守護り隊』も自身の装備として認めて貰えば問題ないのでは?」
「例えばですが、奴隷を雇用しようとする際に「動物必須です」という人と「動物不要」という人、どちらが多いでしょう? 残念ながら、【獣操士】であることは奴隷にとってメリットではありませんし、奴隷になることに魅力を感じないのです。それならば冒険者になった方が良いと考えました」
……お、おう……まぁ、予知夢に見ていたから覚悟はしていたけれどね。
「サクリウスさん。わたしをサクリウスさんのチームに入れて頂けないでしょうか?」
普通なら冒険者なんて危険な職業……と思うところだけど……奴隷になるのは違うよな。
「うーん。返事をする前に他の2人の話も聞いていい? 何となく説明を何度もしなくてはいけない展開になりそうな気がするんだよね」
「……え、えぇ。大丈夫です」
リンクルム姫の許可も得たことで、他の2人の方を見る。……だって、こんなんこれまでのパターンから考えて2人とも仲間に入れてくれって話だろうから。どういう理由かを聞いて断るか周りに投げるか決めてしまいたい。……投げた場合、反対者無しでチーム入り決定というのがパターンだけどね。
「じゃあ、わたしから。……わたし、実は最初から奴隷になりたくなかったの。だって普通に手数料が引かれているんだもの」
「手数料?」
「だって、経営者に直接雇用して貰えれば、奴隷商に渡す分のお金貰えるじゃない?」
……まぁ、そういう考え方もあるけどね。
「しかも、この奴隷人気ってトゥーベントだけなんでしょ? なら国外で働いた方が良いし、どうせなら大陸中を巡って修行した方が技術と知名度が稼げると思うの。……サクリウスさんのところ、ノーマル職の方も入れているみたいだし、ダメかな?」
手数料云々は考えが荒すぎてツッコミどころはあるものの、隷属契約の魔法を使用した派遣社員のようなシステムに関しては違和が払拭できんし。……まぁ、仕方ないとするか。
フカネーゼは大きく深呼吸する。……どうも緊張しているようだ。
「最後はあたしね。まぁ、あたしもサクリウスさん達の冒険者チームにノーマル職の人が所属していることが気になったの。割とカッパー級には人数合わせでノーマル職を入れている冒険者チームってあるじゃない? でも、ブロンズ級にもなってノーマル職がいるチームって珍しいって思って」
「かなり助けられているからね」
冒険者なんて、戦うだけが仕事ではない。それに常時仕事があるわけでもない。そんな時に稼ぎ頭になってくれているのはノーマル職のメンバーだ。必要なアイテムを探すまでも無く提供してくれるのもメンバー故だったりするし。恩恵はお互い様なんだよね。
「それを聞いて、いいなって思ったの。ジュリエルさんのように大陸中で修行して知名度を上げたいって気持ちもあるけれど、上下関係ではなくて切磋琢磨できるジャンルの違うライバルって感じが素敵だなって」
……へ~、ウチのノーマル職メンバーの関係ってそうなのか。全然知らんかった……。
3人の動機を聞き終えたけれど、確かに在り方が変わってしまったトゥーベント王国に置いて行った場合、彼女達が幸せになれるとは思えない。もちろん、根拠があるわけでなくてタダの勘。本人達が希望しないならともかく、希望したのなら良いんじゃないだろうか?
「みんな、聞いてくれ。リンクルム姫、ジュリエルさん、フカネーゼさんの3人が冒険者になって仲間入りしたいって言ってる。反対する人はいる?」
毎度の如く賛成多数なのだが……視界に風のプルームが飛び込んできて目が離せなくなった。
プルームは天井付近をゆっくり旋回するように飛行している。その表情はめっちゃ鬱陶しそうな感じだ。顔に「うるさい」と書いてあるようにも見える。……まぁ、賑やかなのは仕方ないんだけどね。
食い物でもつまみ食いするのかなって彼女の行方を目で追っていると目があった。その証拠に彼女は軌道を変えてこちらに近づいて来て、俺の肩に乗ると耳元に囁く。
「貴方、サクリウスよね? あたし、知ってるよ! ねぇ、ここから出てくれる? 貴方とお話したいの」
その警戒心の無さに驚きつつも、彼女の指示に従い会場を出た。
「初めまして、運命の人。あたしはヴィエル。風のプルームよ」
他のプルーム同様に身長40センチくらいの二頭身。髪は淡い藍色で股上くらいまであり高い位置でポニーテールにしている。大きな深い藍色の瞳に同じく藍色の蝶のような翅。全体的な印象は何故ってくらい好感度が高く感じてしまう程に人懐っこい。
「知っているみたいだけど、俺は【妖精操士】のサクリウス=サイファリオ。声が聞こえるってことで相棒ってことだよね?」
「相棒? 恋人でしょ? ずっと会いたかったんだから」
……おぅ。戸惑うレベルなんだが……流石に女難が心配になる。
「色々案内したいところだけど、まずは1つ教えて? あの賑やかなのは何? お祭り?」
「いや。ファッションショーの打ち上げ……って言っても解らないか。えーっと、この建物を壊すための出ていく準備が無事完了したっていうお祝いのようなものだよ」
我ながら良い翻訳をしたと思う……多分語弊はないよな?
「えっ? ここを壊すの? ……もぅ最悪……と言いたいところだけど、ギリギリセーフかな。気に入っていたから名残惜しいけど、役割は果たしたってことね」
「ん?」
「あたし達はここで出会う運命だったのよ。そして、これからはずっと一緒!」
昔なら、これだけ好感度が高いと嬉しいって思ったんだけど、最近は女性に囲まれ過ぎて感覚麻痺っているのか、最初から好意的だと何かあるのかと思ってしまう。
……相手が人間ならまだしも、妖精なのだから軽い悪戯なことはあるかもだけど、流石に悪意は無いか。考えすぎかな?
「本当はね、この演芸場ってヒューム族の観察をする拠点にしていて、この街を見て回っていたの。結構気に入っていたから、無くなるのは寂しいなって少し思うんだけどね」
もしかしたら、仲良くなりたいっていう意思表示なのかもと思い至った。
……うーん……困った。
あれから間もなくして打ち上げは終わって、解散となった。新たに加わった3人はいったんこれまでの家に戻り、旅にでる準備をしている。
一方、ヴィエルは俺と共に行動……いや、俺の頭部にくっついて離れない。それこそ、風呂やトイレでも離れようとしない。流石に引き剥がすけれども。
「まぁ、でも……懐かれるというのは可愛いよなぁ」
[サクリ、そろそろわたしを呼びなさい!]
風呂から出るとメディスからの念話……あ~、確かに紹介した方が良いかもしれん。
教訓。妖精は考え無しに2人以上を呼び出さない。……同じ空間に妖精が2人以上いると昨夜みたいになる。
昨夜、風呂から出て部屋に戻ってからメディスを召喚した。そこでヴィエルと鉢合わせになり……俺を放置で仲良く喋っていたので放置して眠った訳なのだが本当に喧しかった。
「おはようございます、主人」
「おはよう、主人」
目を覚ましたことに気づいたサヤーチカとユカルナ。彼女達が添い寝していることに関しては狭いとしか思わなくなった。多分、成人男性としては問題があるかもしれない。
一方、股間が重い。見なくても解る。質量的に2人分の重さが股間と腹部に乗っている。嫌な予感がして布団を捲ると……俺の寝巻のズボンは詰め込み過ぎで裂けてしまっていた。
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